ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/author/kawai-ryusuke/

川井 龍介

(かわい・りゅうすけ)

@ryusukekawai

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)


この執筆者によるストーリー

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第16回 第八章、友の死、母の死

2016年9月9日 • 川井 龍介

小説「ノーノー・ボーイ」は、物語の後半に入り、大きな山場を迎える。主人公イチローの母と、親しい友人ケンジが相次いでこの世を去る。八章では、この二つの死が同時に登場する。著者のジョン・オカダは、二つの死をどう描いたか。 戦争で片脚を失い、さらにその傷が悪化し、ポートランドの復員兵病院に入院したケンジ。友を見舞ったイチローは、現地で職探しをしたが結局は、シアトルにもどることにした。ケンジに頼まれたように彼のオールズモビルを運転し、ケンジの実家に届けた。 そこで、やさしい父親…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第15回 七章、良心ある白人との出会い

2016年8月26日 • 川井 龍介

日米間の戦争という事情ゆえ、アメリカの日系人はアメリカ社会で全体として迫害をうけるが、その背景には人種的な偏見があり、この問題をどうとらえるかを、「ノーノー・ボーイ」のなかで、ジョン・オカダは随所で示している。 そのほとんどが、白人社会からの差別の実態とそれに対する苛立ちである。しかし、差別や偏見のない、「アメリカの良心」のような存在も一方でオカダは登場させている。それが、七章に出てくる、キャリックというエンジニアリングの会社を経営する白人男性だ。 物語を振り出しにもど…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第14回  六章、死を予感するケンジの悲しみ

2016年8月12日 • 川井 龍介

著者のジョン・オカダが、心優しい日系人家族の姿を、美しくも悲しく描く印象的な章が、物語も中ほどにさしかかった第六章だ。 戦争で片脚を失ったばかりか、傷んだところが悪化してきたケンジは、シアトルから再びポートランドの復員兵病院へ行くことになる。これまでとちがいもう二度と戻って来られない予感がするケンジは、家族に別れを告げる。 一世の父の後悔 母はかなり前に亡くなり、父が長い間職人として男手ひとつで3男3女を育ててきた。アメリカで一旗揚げようとやってきた一世の父は必死に働…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第13回 五章、日本からの手紙

2016年7月22日 • 川井 龍介

イチロー・ヤマダの母は、戦争が終わっても日本が負けたことを信じられずにいる。その頑迷さと狂信性にイチローは腹を立て、同時にそんな母の間違いを正さず、あたらず触らずの態度をとっている父の態度にも腹を立てていた。 五章では、この母に対して初めて父が、正気に戻るように迫る姿が描かれる。母のもとには、日本で暮らす姉や親せきから、戦争によって生活が苦しく物的な援助をしてもらえないだろうかという悲痛な手紙が届いていた。 しかし、母はこれらの手紙はすべて仕組まれたものであって、ほんと…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第12回 第四章、傷ついた心のエミと出会う

2016年7月8日 • 川井 龍介

前向きな姿勢と良心 主人公イチローの友人で、戦場で片脚を失ったケンジにつづいて第四章では、印象的な存在として著者は女性であるエミを登場させる。同じ日系人であり若く魅力的な存在である彼女もまた、心に傷を負っている。 エミは、同じ日系人のラルフと結婚しているが、戦争が終わっても夫のラルフはヨーロッパで軍務についたままアメリカに帰国しようとしなかった。それは、兄のマイクの存在を恥じてのことだった。イチローの弟タローが、アメリカに背を向けた兄の行為を恥じるのと同じ理由からだ。 …

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第11回 第三章、片脚を失った友との再会

2016年6月24日 • 川井 龍介

著者のジョン・オカダは、主人公イチローの心の葛藤を描き、同時に人間社会のさまざまな問題を読者に考えさせる。その葛藤は家族をはじめ、彼が関わっていく人間とのふれあいのなかで生まれる。 こうした人物のなかで、この章から登場する友人のケンジの存在は物語にとって非常に重く、重要になっている。 かつて学んだ大学を訪ねてみたが……  前章で、自分と同じ“ノーノー・ボーイ”の友人、フレディーに会ったイチローは、刹那的に暮らしている…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第10回 第二章、同じ境遇の友との再会

2016年6月10日 • 川井 龍介

二年間の服役を終えて、イチローはシアトルのわが家に戻る。しかし、その帰郷はまったく心休まるものなどではなく、戦争に行かなかった者への冷たい視線を感じた。一方、日本が負けてはいないと信じる母親への憎悪は募り、その母と日本に背けなかった自分とは何かと問い苦しむ。 狂気だと、母への憎悪が爆発 二章では、一章につづき母に対する怒りと苛立ちが描かれる。戦死した日系人のボブとその母を、日本人ではなくなっため罰をうけたのだと非難する母に対して、イチローはあえて問う。そして母が答える。…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第9回 第一章、戦争が終わり、刑務所から故郷へ

2016年5月27日 • 川井 龍介

全十一章からなる「ノーノー・ボーイ」の第一章は、戦争が終わって刑務所から出て来た主人公のイチロー・ヤマダが、故郷のシアトルに戻って来たところからはじまる。徴兵を拒否して、二年間服役していた彼が、その二年間の重みを背負いながら家族と再会する。著者は、そのなかで主人公の抱える問題の本質をまず浮かび上がらせる。 自分の意志でしたこととはいえ、なぜ徴兵を拒否してしまったのか、誰のためなのか、誰のせいなのか、自分はいったい何をしようとしたのか、あるいはしたかったのか、いったい何者な…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第8回 パールハーバーの波紋~序文から読む

2016年5月13日 • 川井 龍介

アメリカのオバマ大統領が広島を訪問することが明らかになった。日米開戦によって複雑な立場に置かれたアメリカの日系人は、このことをどんな思いで受け止めたのだろうか。 振り返れば、開戦後に収容所へ送られたこと。そのなかからアメリカ軍の軍人として戦地に赴いた多くの人がいたこと。少数ではあったがアメリカへの忠誠を拒否した人もいたこと。日本とアメリカの間で多くの日系人が生活を、そして心を揺さぶられた。 すべては1941年12月7日(日本時間では8日)、日本軍によるハワイのパールハー…

「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
第7回 ジョン・オカダの歴史

2016年4月22日 • 川井 龍介

「ノーノー・ボーイ」の著者、ジョン・オカダとはどのような人物なのか。プロフェッショナルな作家として有名だったわけではなく、彼について残された記録は多くはない。 その経歴については、ルース・オゼキによる新版の序文のほか、昨年出版された「Art, Literature, and the Japanese American Internment: On John Okada's No-No Boy」(Thomas Girst 著)に詳しい。これらをもとに、オカダの人生をたどって…

ニッケイのストーリーを募集しています! 世界に広がるニッケイ人のストーリーを集めたこのジャーナルへ、コラムやエッセイ、フィクション、詩など投稿してください。 詳細はこちら
サイトのリニューアル ディスカバー・ニッケイウェブサイトがリニューアルされます。近日公開予定の新しい機能などリニューアルに関する最新情報をご覧ください。 詳細はこちら