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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第9回 第一章、戦争が終わり、刑務所から故郷へ  

「ノーノー・ボーイ」で、書き出しとなる場所 (写真:筆者提供)

全十一章からなる「ノーノー・ボーイ」の第一章は、戦争が終わって刑務所から出て来た主人公のイチロー・ヤマダが、故郷のシアトルに戻って来たところからはじまる。徴兵を拒否して、二年間服役していた彼が、その二年間の重みを背負いながら家族と再会する。著者は、そのなかで主人公の抱える問題の本質をまず浮かび上がらせる。

自分の意志でしたこととはいえ、なぜ徴兵を拒否してしまったのか、誰のためなのか、誰のせいなのか、自分はいったい何をしようとしたのか、あるいはしたかったのか、いったい何者なのか・・・。さまざまな自問をイチローは抱えている。


母との葛藤

25歳になったばかりのイチローが、バスでシアトルのまちに着く。二年間は収容所、二年間は刑務所にいたので四年ぶりの帰郷だ。

まちでさっそく遭遇したのが、同じ日系のエトだった。軍隊にいたエトは、イチローが“ノーノー・ボーイ1”という国への忠誠を拒否した人間であることを見抜く。

エトはイチローに唾を吐きかけるが、イチローはこれを甘んじて受け入れる。罵倒されたことでかえって緊張が解ける。さらに町を歩くと、今度は黒人にジャップはトーキョーへ帰れと罵られる。

両親が営む食料品店に帰ると、やさしいが気弱な父親が喜んで迎えてくれる。この父は酒飲みで、酒で弱い心を慰めている。英語はほとんど話さない。父は、アメリカに来た理由について「お金のためだった」と言う。みんなおなじで、金をたくさん稼いだら日本に帰るつもりだったとイチローに教える。

一方、母は気丈で几帳面で、がんこなほど芯が強い。狂信的な“日本信者”で、いまだに戦争で日本が負けたことを信じていない。ブラジルの日系人で同じく日本の勝利を疑わない仲間からの手紙を受け取り、日本へ帰還する船が迎えに来ることを信じている。

そして徴兵を拒否した息子を誇りに思っている。いずれは息子を日本へやることを望んでいる。母の意を尊重して苦渋の選択として徴兵を拒否したイチローは、母への思いをつぶやく。

「母はおれを、意地悪く目には見えない憎しみで苦しめてきた。おれの口を開かせ唇を動かさせた。そのためおれは二年間を刑務所で送ることになった。地獄の洞窟よりも恐ろしくからっぽな空虚だった。母は意地悪くおれを憎んで殺した。おれは、二度と幸せの意味を知ることがないだろうから、せめて母には幸せでいてほしい。」


自分を責め、世界を責める

自分のなかに日本とアメリカがどう存在するかについてイチローは悩み、苦しむ。

「おれは心から自分が日本人か、でなければアメリカ人ならよかったのにと思う。でもどちらでもない。おれはあなたを責め、自分自身も責める。そして、世界を責める。互いに戦い、殺し、憎しみ、破壊しながらもまだやり足りないので、殺し、憎み、破壊することを何度も何度も繰り返している多くの国々からなる世界をだ。」

イチローにはタローという弟がいる。タローは兄がノーノー・ボーイであることを恥じて、両親の反対を押し切って高校卒業を待たずに軍に入ろうと、兄に挑戦的な態度をとる。アメリカ人であることを示すためだ。イチローは心配するがどうすることもできない。


従軍して戦死した仲間

母へ反発を抱きながらも、イチローは母に連れられて、帰郷の挨拶のため日系の知人宅を回る。母は服役していたイチローを日本のために立派なことをしたと自慢する。が、知人からは息子がアメリカ軍の軍人として戦死したと知らさせる。イチローは恥じる。そしてなんとも感じていないような母に対して激しい怒りを覚える。 

イチローと同じように従軍を拒否した日系人がいた。アメリカ人として認められないなら従軍する必要はないという者、兄弟が日本軍にいるから戦えないという者など。それに対してはるかに多くの日系人が従軍した。そして亡くなった者もいた。当然、悲しみに暮れる日本人(日系人)の家族がいた。


イチローはなぜ戦わなかったのか。

「おれは弱かったしなにをすべきかわからなかったから戦いに行かなかった。おれが決して理解できなかったのは母親じゃない。それはおれ自身だ。」

イチローの父は、自分の妻が精神的におかしいことはわかっていても、病気だからしかたがないと、なすすべもない。日本から妻の親戚が物資を送ってくれと懇願する手紙を送ってきても、かわいそうだと思いつつ妻のことを考えて何もできない。

酒で悩みを紛らわしながら、父は涙ながらにイチローに謝る。

「私らのために刑務所に行くことになって、ほんとうにすまない」

「もういいよ、忘れてくれ」と、イチローは答える。

こうして四年ぶりに故郷に帰ったイチローの一日が終わる。戦争によって変わってしまった自分や家族やコミュニティー。これからどう生きて行こうか。イチローは自分の抱えた問題の答えを探ろうと歩きはじめる。

(翻訳は筆者による)

第10回 >>

注釈:

1. 収容所で政府から出された、国への忠誠を誓う二つの問いに「ノー」と答えた者が本来のノーノー・ボーイという意味だったが、著者ジョン・オカダは徴兵拒否も小説内で、ノーノー・ボーイと呼んでいる。

 

© 2016 Ryusuke Kawai

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このシリーズについて

太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。