川井 龍介

(かわい・りゅうすけ)

ジャーナリスト。慶應大学法学部卒。毎日新聞記者などを経て独立、ノンフィクションを中心に執筆。「大和コロニー『フロリダに日本を残した男たち』」(旬報社)、「『十九の春』を探して」、「122対0の青春」(共に講談社)など著書多数。「No-No Boy」の新たな翻訳を手掛ける。

(2016年1月 更新)

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日系アメリカ文学を読む

第18回 (最終回)『僕はアメリカ人のはずだった』

1952年生まれの日系アメリカ人3世の詩人、デイヴィッド・ムラは、自分がいったいなにものなのかという問いをずっと抱えてきた。自分を百パーセントアメリカ人と考えたことはなかった。

新宮(和歌山県)をルーツにする祖父母と高知をルーツにするもう一組の祖父母を持ち、父方の祖父は、日露戦争の徴兵を忌避してアメリカにやってきた。2世の父は、アメリカ人として育ち、戦時中は収容所に入れられるが、戦後はアメリカ社会のなかで成功する。その過程で、もともとはカツジ・ウエムラだった名前を、トム・ムラに変えた。完全なアメリカ人となるためでもある。

イリノイ州のユダヤ人が多いまちで育ち、大学卒業後はミネアポリスで暮らしてきたデイビッド・ムラにとって、幼いころから日系との関わりはほとんどなく、日本とのつながりもあえて拒否してきた ...

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第17回 『ジャパン・ボーイ』

日系アメリカ人の中で、「帰米」(きべい)と呼ばれる人たちがいる。出生地はアメリカなのだが、幼少期に日本で教育を受けて、ふたたびアメリカにもどってきた人たちのことだ。日本に一度戻ってからまたアメリカ(米国)に帰ってくるから帰米というのだろう。帰米が人間そのものを指す場合のほか、形容詞的に帰米二世というように使われる場合もある。

日本から移住した一世の男たちは、たいてい日本人の女性と結婚しやがて子供をもうける。多くの一世は、アメリカでの仕事を「出稼ぎ」的な感覚でとらえているので、成功して、ある程度財を成したら日本に帰国することを考えていた。日本人であることの意識は強く、誇りを持っていた。

だから、子供たちにはできれば日本語を身につけさせ、日本人としての精神を修養するため日本で教育を受けさせたいと思う一世は多かった ...

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第16回 『がんばって-日系米人革命家60年の軌跡』

信念にもとづく闘いの人生

「がんばって」という言葉は、日系アメリカ人二世や三世にとって、日本的な精神を表わす印象的な日本語のひとつではないだろうか。『がんばって-日系米人革命家60年の軌跡』の著者、カール・ヨネダ(1906~1999)は、己の信念にもとづき、強い意志をもって生涯がんばりつづけた人物である。

戦争をはさんだ激動の時代に社会と真正面からぶつかって、力強く生きてきた彼が闘いの歴史ともいえる人生を振り返ってつづったのが『がんばって』である。もともと英語で書かれたものだが、田中美智子・田中礼蔵の共訳で1984年に大月書店から出版された。

彼の人生をざっと振り返ってみよう。広島県からの移民二世として1906年、ロサンゼルスで生まれたカール ...

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第15回 『ヒサエ・ヤマモト作品集 -「十七文字」ほか十八編』

1921(大正10)年8月に、南カリフォルニアのレドンド・ビーチで生まれたヒサエ・ヤマモト(Hisaye Yamamoto)は、初期の日系アメリカ人作家の一人で、戦後短編作家として全国的に知られるようになった。

両親は熊本県からの移民で、南カリフォルニアでトマトやイチゴの栽培を手掛けていた。農村の日系人コミュニティーのなかで育った彼女だが、十代から創作活動に励み、戦前は日系の新聞である「加州毎日」などに寄稿していた。

コンプトン短大で学び、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ラテン語を専攻した。このほか日本語学校にも12年間通った。太平洋戦争がはじまると1942年からアリゾナ州のポストン収容所に家族とともに入れられるが ...

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第14回 『イヤー・オブ・ミート』

アメリカで日系人というマイノリティーでいることは、小説家にとって創作上の大きなモチベーションであり、作品のテーマにもしばしばマイノリティーとしてのアイデンティティーが取り上げられるようだ。

日系二世の女性作家、ルース・オゼキ(Ruth L. Ozeki)のデビュー作『My Year of Meats』(1998年)の主人公は、日系人のテレビ・ディレクターの女性、ジェーン・リトル・タカギ。日本人の主婦アキコをはじめ多くの日本人が登場し物語は展開し、アメリカ社会を象徴するような肉食産業の暗部を抉り出し、テレビ・広告といったメディアの行き過ぎた商業主義を批判する ...

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