ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。
(2021年11月 更新)
この執筆者によるストーリー
第39回人種主義という構造的な差別
2023年11月10日 • 川井 龍介
「アメリカの人種主義」を読む 世界中でいまも「人種」をめぐる差別・対立は後を絶たない。特に「人種の坩堝」と言われてきたアメリカでは、黒人やアジア系の人びとに対する差別・偏見と思われる事件が繰り返し起きている。アメリカ社会のなかでマイノリティーである日系アメリカ人にとっては、決して無視できない問題だろう。 なぜ、こうした人種にもとづく問題が起きるのか。そもそも人種とはいったい何なのか。これまでアメリカ社会は、人種をどうとらえてきたのか。また、日系人・日系社会にとって人…
第38回 テレビ映画になったフロリダ移民
2023年10月27日 • 川井 龍介
マイアミ・ビーチの須藤幸太郎 ノンフィクションの本を書いて、読者から感想などをしたためたお便りをいただくことは、新たな発見もあり嬉しいものだ。一昨年、出版社経由で、2015年に出版した「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)を読んだという91歳の女性から手紙をもらった。 「大和コロニー」は、アメリカ・フロリダ州南部に日露戦争後に入植した日本人がつくった日本人村(コロニー)の顛末と、入植者の一人で最後まで現地に残り、所有する広大な土地を地元に寄贈した森…
第37回 移民船とは何だったのか
2023年10月13日 • 川井 龍介
『移民船から世界をみる 航路体験をめぐる日本近代史』を読む。 島国である日本で人々が海外に行くには、豪華客船でのクルージングを別にすれば、いまは飛行機を使うのがあたりまえだ。しかし、少なくとも戦後まもなくまでは船で旅をするしかなかった。言い換えれば船が、日本の開国・近代化とともに人や物、そして情報を運んだ。広く世界に目を向けても、大陸間の移動は船によって行われ、造船技術の進歩とともに、船も帆船から蒸気船、そしてディーゼルエンジン船へと変わり、より多くの人や物を…
第36回 和歌山市・移民資料室を訪ねる—日本の海岸線の旅の途中で⑤
2023年9月22日 • 川井 龍介
紀伊水道に面した和歌山県美浜町にアメリカ村と呼ばれているところがあるように、和歌山県は、多くの移民を輩出した“移民県”だが、和歌山市にはこうした歴史を重んじ移民資料室という、和歌山県のみならず移民に関する資料を集めた施設があるということは以前から聞いていた。機会があれば一度訪ねてみたいと思っていたので、美浜町をあとにし、海岸線を北上し和歌山市内にある和歌山市民図書館・移民資料室に足を運んだ。 移民に関わる本や資料を集めた施設といえば、横浜でJICA…
第35回 和歌山・美浜町のアメリカ村―日本の海岸線の旅の途中で④
2023年9月8日 • 川井 龍介
三重県の英虞湾から海岸線に沿って紀伊半島の方に進むと、本州最南端の串本町に行きつく。この地からかつて男たちが、オーストラリアの木曜島付近で真珠貝(白蝶貝)を採取していた話を前々回書いたが、その先の海岸沿いにも古く海外とかかわった人たちの痕跡の残る町がある。紀伊半島最西端に位置する日の岬(日ノ御埼)を抱える美浜町という町だ。 串本町から今度は紀伊半島の西側の海岸線をひたすら北上していく。国道42号をずっと走ることになるのだが、海岸沿いに行くには、途中御坊市で県道御坊-由…
第34回 アメリカ村の女性先駆者、伊東里き―日本の海岸線の旅の途中で③
2023年8月11日 • 川井 龍介
移民熱をもたらす 前々回(第32回)の「三重県・志摩市のアメリカ村から」で、旅の途中で立ち寄ったジャズ喫茶の主人竹内寿一さんの祖父、竹内幸助氏がアメリカへ渡り、ロサンゼルス近くのサンペドロで形成された日本人コミュニティーの歴史を「サンピドロ同胞発展録」という本にまとめていたことを紹介した。 幸助氏は、三重県の旧片田村の出身だったのだが、この片田村が多くのアメリカ移民を輩出し、当時“アメリカ村”と呼ばれていたことまでは触れた。しかし、どうしてこの地…
第33回 オーストラリアで真珠貝を―日本の海岸線の旅の途中で②
2023年7月28日 • 川井 龍介
明治時代からオーストラリアに白蝶貝(通称、真珠貝)を採りに行っていた日本人がいたことは知っていたが、三重県から紀伊半島の海岸線を旅するなかで、ふとしたことから、祖父がそのひとりだったという人から話を聞くことができた。 三重県伊勢市にかつて強力造船所という造船所があった。1956年夏、ここで一隻の遠洋マグロ漁船が東京水産大学の練習船に改造された。1954年3月1日太平洋のビキニ環礁近くでアメリカの水爆実験に遭遇し、“死の灰”(放射性物質を含む降下物)…
第32回 「サンピドロ同胞発展録」― 日本の海岸線の旅の途中で①
2023年7月14日 • 川井 龍介
三重県・志摩市のアメリカ村から 一昨年から日本の海岸線を車で走る旅を続けている。一度にではなく、何度かにわけて神奈川県の自宅から出発して、日本列島の輪郭を描くように走るようにしている。その一環で、つい最近、愛知県の伊良湖岬からフェリーで三重県の鳥羽にわたり、海岸線に沿って紀伊半島をめぐった。そのあとは、和歌山市から徳島市にこれもフェリーでわたり、そこから四国の太平洋岸を高知県の西端まで進んだ。 この旅の主目的ではないが、訪れた先々で、もしジャズ喫茶やバーをはじめ音楽に拘…
第31回(後編)「セツコの秘密」訳者、岩田仲弘さんに聞く
2023年6月24日 • 川井 龍介
前編を読む>> 日本語出版への道のり ——日本語版が出る経緯と、イーコンプレス社から出版された理由はどのようなものですか。あまり、この種の本を手がけたことのない会社のようですが。 岩田: シャーリーさんが原著を出版した時、私がまったく知らないところで、さらに私よりもはるかにシャーリーさん、母で主人公のセツコさんらヒグチ家と深いつながりを持った人たちが邦訳を出版しようと動いていました。 日本語版作成で中心となった城西国際大学学長…
第31回(前編)「セツコの秘密」訳者、岩田仲弘さんに聞く
2023年6月23日 • 川井 龍介
このほど日本語訳が出版された『セツコの秘密 ハートマウンテンと日系アメリカ人強制収容のレガシー』(シャーリー・アン・ヒグチ著、イーコンプレス)は、日系3世の著者が自身の家族の歴史を、戦時中の日系人の収容の問題をたどりながら刻銘に描いた力作である。 訳者は、東京新聞記者で城西国際大客員特定研究員の岩田仲弘さん。オリジナルの『Setsuko’s Secret: Heart Mountain and the Legacy of the Japanese Amer…