デカセギ・ストーリー

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。

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第九話 サクラの花の咲くころ

真司とリンダは子どものころの友だちだ。と言っても、同じ学校に通ったこともなく、同じ公園で遊んだこともなかった。

真司は6歳のとき、お父さんの仕事の関係でブラジルに住むようになった。

お母さんは元ピアニストだったので、すぐにピアノ教室を開いた。生徒は日本企業の駐在員の子どもたちだった。

真司はアメリカンスクールに通っていた。その上、習い事もたくさんしていた。英語、バイオリン、チェスの教室などだ。

ある日曜日、お母さんはピアノのコンサートへ、お父さんはゴルフ場へ行くので、真司はどっちについていくか選ぶように言われた。「パパといっしょに行きたい」と、真司は、はっきり言ったので、ふたりともびっくりした。

ゴルフ場の帰り ...

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第八話 カーニバルの悲しい出来事

私は日系二世の70歳のおばちゃんです。昔からカーニバルにはあまり興味がありませんでした。カーニバルとはブラジル人にとって、年に一度の楽しみだとしか思っておらず、「ブラジル人ではない」と認識している私には関心がなかったからです。しかし、当時から日系人会では「バイレ・デ・カルナバル」というカーニバルのダンスパーティーが開かれ、日系の若者たちも楽しむようになっていました。私も友だちと一緒に行ったことがありましたが、特別な思いはありませんでした。

24歳で結婚した私は4人の子どもに恵まれました。長女は学校の先生になって公立中学校に勤めていましたが、給料が少ない上に、学校がスラム街の側だったので、勤務するのがだんだん危険になり、辞めてしまいました。ちょうどその頃、日系人の間に、デカセギブームがあり、すぐ日本に働きに行くことになりました ...

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第七話 ケンジンニョのすばらしい年末年始

日本生まれのケンジンニョは両親が別れた後、母親と一緒にブラジルへ渡った。

日本に残った父親は1年半後、約束どおり、息子を迎えに行ったが、意外なことが起きていた。元の妻のヌビアは再婚してリオに住んでいて、息子のケンジンニョは、父方の祖母、つまり自分の母親の家で暮らしていた。驚きだった。

しかし、空港に出迎えに来ていた息子を見てマサオはほっとした。ケンジンニョはニコニコ、おばあちゃんの側から離れなかった。「イラセマばあちゃんのとこからなんで出たの」「イラセマばあちゃんはとてもやさしいし、好きだ。でも、こっちのばあちゃんはもっと好きだ。大好きだ。だって、日本人だもん」と。祖母をぎゅっと抱きしめるケンジンニョはいとおしかった ...

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第六話(後編) マユミは此処!FELIZ NATAL!

第六話(前編)を読む>>

何と言ってもナタール(クリスマス)はデカセギにとって特別な祝日だ。無関心な人は誰もいない。みな、その日が来るのを心待ちにしている。家族や友人と集り、その時だけは多忙な生活をしばし忘れ, 懐かしいブラジルの思い出話に花を咲かせる。

しかし、問題は日本でのクリスマスが祝日でないことだ。仕事を休めない人は前日にお祝いをするしかない。それでも、クリスマスを祝うのがデカセギの一番の楽しみだ。

クリスマスイブに大勢の人がパストール・マコトの家を訪ねる。地域に住み着いた頃から、クリスチャンであってもなくても、日系人が挨拶しに訪れている。牧師先生のメッセージを聴くのも目的のひとつだ。

そして、今年もいつものようにテーブルにはブラジル人が好きなパネトネとブリガデイロやキンジンなどのお菓子 ...

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第六話(前編) 「Mayumi」は今、何処?

早朝、大きなバスケットを両手でかかえた若い女性が街を歩いていた。

公園のベンチに座り、ひと休みする。空を見上げると、濃い灰色の雲がどんどん横に流れ、自分も一緒にどこかへ連れて行かれるような気がした。下を見ると、枯葉が敷き詰められたカーペットのようで、今の自分の道しるべに見えた。「きっと、正しい方向に導かれているのだ」と、立ち上がり、バスケットを大事そうにかかえ、公園を出て行った。

すると、さらに、空は曇って今にも雨が降りそうになってきた。強い冷たい風も吹いてきたので、女性は先を急いだ。バスケットの中を気づかうように、歩き続けた。雨が猛烈に降ってきて、たちまちびしょ濡れになった ...

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