デカセギ・ストーリー

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。

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第三十五話 ようやく、にっぽん! 

両親が出会ったのは24年前。9歳のときから家族と日本で暮らしていた母は、親戚の結婚式に出席するためにブラジルに戻ってきていました。父は、新郎の親友で、めったに着ないスーツ姿で式に参加していました。

ふたりとも一目ぼれだったかどうかは、はっきりとは分かりません。「パッと見たときの印象がとても良かったのよ」と、母が照れて言うと、父は「着ていたキラキラのスーツのせいかもな」と。

当時、母は20歳。横浜のデパートの化粧品売り場で働いていて、いろいろ習い事をしていました。26歳の父は、両親と祖母と弟と2人の妹とサンパウロで暮らしていて、大きな自動車修理店を経営していました。

出会ってから半年後、二人はブラジルで結婚しました。両親の当初の計画は2年以内に日本で暮らすことでした。母は ...

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第三十四話 コロナによる突然の帰国

日本へ行ったのは1997年。姉は26歳、わたしは18歳でした。姉のご主人のマサオさんは半年前から豊橋市の工場で働いていたので、私たちはバラバラにならないように同じ町で仕事を探し、ようやく姉はパン屋、わたしはブラジルの商品を扱う店で働くことになりました。

月日が経ち、2008年に姉夫婦は2人の子供を連れてブラジルへ戻りました。その頃、両親はサンパウロ郊外に住んでいましたが、5年後に父が亡くなり、母は姉の家族と暮らすようになりました。

姉たちは大きな二階建ての家を手に入れ、一階をリフォームして雑貨店を開きました。姉夫婦は雑貨屋で生計を立て、母は二階で孫の面倒を見ながら家事を手伝い、皆、忙しい日々を送っていました。

一方、わたしはブラジルの商品を扱う店で働きながら美容師の資格を取りました。その後、浜松市に引越し、ビューティーサロンで働くようになりました。

28歳のとき ...

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第三十三話 「カレンが日本へ戻らないって」

高校生だったトシエは、同級生のイヴァンと結婚し、その5ヶ月後に双子の赤ちゃんを産んだ。当時19才だったイヴァンは大学進学を諦め、スーパーのレジ係、自動車部品店店員、タクシードライバーなど、職を転々とした。しかし、家計は苦しく、家族を残して日本へ出稼ぎに行った。

双子のカレンとカリナはすくすくと育ち、3才になった。家族全員で一緒に暮らすため、子供を連れトシエも日本へ行くことにした。今まで一度も働いたことがなかったトシエだったが、夫と同じ工場で働くことになった。自分たちが働いている間、娘たちの面倒を見てもらうため、父親が経営する飲食店を手伝っていた母にも一緒に日本へ来てもらうことにした。

そしてその2年半後、トシエは男の子を出産した。しかし、産後の肥立ちが悪く、退院が遅くなった ...

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第三十二話 たった5ヵ月のデカセギ生活

マリには子供がいなかったため、夫を早く亡くしてからは仕事一筋だった。

専門学校卒業後、小学校の教員として働きながら大学を終えた。大学で知り合った夫は、「多くの子供に勉強の楽しさを知ってもらいたい」と、マリと同じ志を持っていた。二人は結婚し、その後マリは、隣町の中学校で数学を教えながら、夫が経営する塾を手伝った。

11年後、夫は交通事故で亡くなってしまった。「今からひとりで子供たちに教えていけるだろうか」とマリは悩んだ。

先生を続けるのをためらっていると、「何を言ってるの?小さい頃から本を読むのが大好きで、近所の子供を集めて『学校ごっこ』で遊んでいた子が、大人になって弱音を吐いている場合ではないでしょう?」と、母親は勇気付けてくれ ...

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第三十一話 ユウジは偉い!

ユウジと僕は幼なじみ。小さい頃からずっと一緒で、家も近かった。学校帰りに2人で道草を食い、家に帰ってよく叱られたもんだ。

小学校は一緒だったが、中学生になると僕は私立校へ通うことになった。日本へ出稼ぎに行っていた父の仕送りのおかげで生活は安定し、僕と妹は私立校へ通い、母はパートの仕事をしなくてもよくなった。

学校は違っても、週末には、必ず、ユウジと一緒にサッカーをしたり、流行っていたゲームをやったり、アニメを見たりした。

しかし、それも束の間だった。ある日、学校から帰ると、ユウジは部屋の中で倒れているお父さんを見つけた。お母さんは、まだ仕事先で、2人の兄も夜学に通っていたので帰りは遅く、誰も家にはいなかった ...

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