川井 龍介

(かわい・りゅうすけ)

ジャーナリスト。慶應大学法学部卒。毎日新聞記者などを経て独立、ノンフィクションを中心に執筆。『大和コロニー「フロリダに日本を残した男たち」』(旬報社)、『「十九の春」を探して』、『122対0の青春』(共に講談社)など著書多数。日系2世の作家、ジョン・オカダ著『No-No Boy』の翻訳を旬報社より出版。『大和コロニー』は、「Yamato Colony: The Pioneers Who Brought Japan to Florida」として、University Press of Floridaより英語版が出版。

(2018年3月 更新)

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国力が弱まった今こそ情報発信力を高めよ:日系社会との連携が1つのポイント - その1

あまり一般には知られていないが、毎年秋、海外日系人大会(主催:公益財団法人海外日系人協会)が都心で開かれている。各国の実情を報告し合い、国際交流、国際理解を深めることを目的に世界各地の日系人が集まる。

その大会に関連して海外における日本語新聞など日本語メディアの関係者が集まる海外日系新聞放送大会も毎年開かれている。

海外にあってその国に在住する日本人に向けて日本語で情報を発信するというユニークなこれらのメディアは、東京に本社を置く大メディアとは違った視点や目的から情報を発信している。

このなかには戦前の移民社会のなかから生まれた古いメディアもあれば、生活情報などに主眼を置いたメディアもあり、紙という媒体から電波、ウェブとその形態も多様化している。

もともとは現地の読者、視聴者に対象を特化していたこうしたメディアもインターネットの普及によって、世界中の日本語を解する人に向けて、ローカルなニュースをグローバルに発信することが可能になった。

一方、これらは日本の情報をさまざまな地域で広めるという役割を果たしている。また、言葉は日本語だが、現地の日系社会などをを通して現地の人々 ...

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戦時中の米国、中国系少年と日系少女の悲恋ベストセラー「あの日、パナマホテルで」から読み取るものは ― その2

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多様な登場人物と効果的なジャズ

そんなとき、長い間閉鎖されていたパナマホテルの変化に出合う。オーナーが代わり長年保管され忘れられていた日系人の家族の荷物が発見されたのだ。そこにはケイコにつながる2人の思い出のものがあるかもしれなかった。

それは見つかった。過去が蘇り、いまの自分との距離を徐々に埋めていき、最後は過去をいまのなかに生かしていく。

物語は、「戦時中の日系人が置かれた状況」という重たい背景もあるが、一方で公私ともに第一線を離れ少し虚ろな中高年が、過去を振り返るという普通のノスタルジーが全編に漂う。久しぶりの同窓会で、思い出のだれかと出会い、昔の自分と向き合ったとき、そこには一抹の感傷がある。そういうメランコリックな要素もこの作品は十分備えている。

また、登場人物として、ちょっと荒っぽいがなにげなく2人を助ける、学校のカフェテリアで働く白人女性のミセス・ビーティ ...

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戦時中の米国、中国系少年と日系少女の悲恋ベストセラー「あの日、パナマホテルで」から読み取るものは ― その1

日中関係が険悪になり、なんとか事態が改善の方向へ進まないかと最も気をもんでいるのは、中国在住の日本人と日本に在住の中国人ではないだろうか。なかでも、日本人と中国人のカップルはその思いを強くしているだろう。

世界中のほとんどの国の人間が国境を越えて移動し、異なった国や民族の人間同士が結婚し、新しい世代がつぎつぎに誕生している。日中間に限らず、国家間の紛争や民族対立が激化すると、こうした人たちは宿命的に辛い思いをする。

もちろんそれはいつの時代にもあることで、例えば9.11以後のアメリカでは、アラブ系やイスラム教の人たちとそれ以外の人たちのカップルは同様の思いをした。

こうした複雑な状況に置かれた個人の営みが、国家間の事情で壊されそうになるとき、人々は何をどう考え、生きていくのか。これらは文学のテーマとしても扱われてきたし、これらを背景とした物語や映画も少なくない。

その種の小説の中で、近年アメリカで大ベストセラーになったのが、ジェイミー・フォード ...

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もっと日系の意見を聞いてくれればいいのにシアトルの日系スーパー、宇和島屋・モリグチ会長 - その2

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日本人からアメリカ人になっていく不思議さ

――明治時代から多くの日本人が移民として海外に出ましたが、同じ頃日本の地方から多くの人が東京などの都市に出ていきました。たまたま向かった先が国内か海外という違いが、後の世代にとっては非常に大きな違いになりますね。

モリグチ:  最初にひとつ違うのは、アメリカに来た人は、いつかお金を儲けて日本に帰ろうと思っていたのがほとんどでしょう。でも、目的地が東京だったら田舎に帰らないのでは。私の父親の富士松も当初は日本に帰る予定でした。

彼は長男だったし少しは土地も持っていたから、長いことずっとそう思っていたはずです。しかし、亡くなる1年前に孫ができました。すると驚いたことにこちらで墓を買いました。そして市民権を取って、さらに妹の娘に土地をあげたんですね。以前から考えていたんでしょうが、孫ができたのはグッドエクスキューズ(いい言い訳)だった。

――先ほどの話に戻れば ...

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もっと日系の意見を聞いてくれればいいのにシアトルの日系スーパー、宇和島屋・モリグチ会長 - その1

アメリカで最も成功した日系資本のスーパー、Uwajimaya(宇和島屋、シアトル)の歴史については昨日紹介した。長年にわたってその経営をリードしてきたトミオ・モリグチ(森口富雄)会長は、ビジネスのみならず日系2世として、現地の邦人紙・北米報知(The North American Post)の発行や、日系人の高齢者福祉の観点から生まれたNPO、日系コンサーンズ(Nikkei Conscerns)の運営などアメリカの日系社会でのさまざまな文化、福祉活動にも積極的に関わってきた。

日系というアイデンティティのために何をしてきたのか、また ...

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