小嶋 茂

(こじま・しげる)

新潟県三条市出身。上智大学卒。ブラジル国パラナ連邦大学歴史科修士課程修了後、東京学芸大学などの講師を経て、JICA横浜海外移住資料館設立に関わる。早稲田大学移民・エスニック文化研究所招聘研究員。移民史、移民研究。主な著作に「日系コミュニティの将来とマツリ」(山本岩夫他編『南北アメリカの日系文化』人文書院、2007年)、「日本人移民の歴史から在日日系人を考える-ブラジル移住百周年と日系の諸相」(『アジア遊学』117、勉誠出版、2008年)、「海外移住と移民・邦人・日系人」(駒井洋監修『東アジアのディアスポラ』明石書店、2011年)がある。

(2016年6月 更新)

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ブラジル、パラナ民族芸能祭にみる文化の伝承 ―日系コミュニティの将来とマツリ、そしてニッケイ・アイデンティティ― その2

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5.「ばあさんたちの踊り」とフォークダンス ― 日欧の対比

筆者が初めてパラナ民族芸能祭を見物したのは1980年代始めだったが、その際に一種のショックを覚えた。そして当時は誰もが同じ感想を抱いたことと思う。なぜならば、日系以外のヨーロッパ系グループではどのグループにおいても子どもたちがたくさん参加しており、若い男女が各々の民族衣装をまとってフォークダンスを華麗に、そして時にはアクロバティックな演技を披露しながら様々な演目をきびきびと踊っていた。これに対し日系グループでは、中年とお年寄りの女性たちが日本舞踊や音頭を、優雅ではあるが、ゆっくりとしたテンポで踊っていたのである。その年齢構成、男女比、そして動きの緩急における対比は誰の目にも明らかで、強い印象を残さずにはいられなかった。日系人のあいででさえ、「ばあさんたちが毎年同じ踊りを踊っている」という酷評が囁かれていた。

なぜこのような顕著な対比が生まれたかを考えてみると、第一に ...

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ブラジル、パラナ民族芸能祭にみる文化の伝承 ―日系コミュニティの将来とマツリ、そしてニッケイ・アイデンティティ― その1

1.海外日系社会におけるマツリ

現在、海外の日系社会において行われ比較的歴史の古いマツリは、大きく二つの型に分類できる。屋外の広場や通りを中心として行われる広場型と、劇場や会館のステージなどで行われる劇場型である。

広場型はかつて日本人町が栄えていた地域を中心とした場所で行われるものがほとんどである。広場での太鼓のパフォーマンスや、通りで行進しながら音頭や踊りを披露するイベントが中心になっている。場合によっては、屋内での生け花や書道などの作品展示、ダンスや劇の舞台公演などが含まれることもある。こうしたマツリが始められたきっかけはさまざまだが、現在においてはどこでも、日系コミュニティの中心であった日本人町の「心の故郷」としての活性化を、その大きな目的として行われている。言い換えれば、日本人町がどこも衰退の道を辿り、あるいは消滅し、それに対するコミュニティあげての対応策の一環として営まれている側面を読みとることができる。この型には、戦前の1932年から始められたロサンゼルスの二世週祭 ...

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日系人からの脱皮 ― 新しいアイデンティティとしてのニッケイ ― その2

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3.日系コミュニティの変遷

ブラジルにおける日系コミュニティの変遷を歴史的に辿ってみると、大きな流れとして、戦前、戦後以降、そしておよそ1980年代以降という区分ができる。そしてそれは、日系コミュニティの呼び方、その総体の一般的呼称からも理解できる。つまり、戦前の在伯同胞社会から、戦後以降の日系コロニア、そして80年代以降の日系社会という大きな区分である。

在伯同胞社会、日系コロニア、日系社会

第二次大戦以前は日本人移民の大多数は、あくまでも日本人としての意識をもち、ブラジルに滞在する同じ日本国民という観点から、その総体を在伯同胞社会と呼ぶことが一般的だった。日本の敗戦による大戦後は、ブラジル社会の一員として生きていく日系人の総体として、植民地を意味するコロニアと ...

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日系人からの脱皮 ― 新しいアイデンティティとしてのニッケイ― その1

1.ブラジルにおける日系人のイメージ

1997年、ブラジルでは州都の市長として日系人では初めて、パラナ州の州都クリチーバにカシオ・タニグチが選出された。そしてその後タニグチは、同市長としてはこれも初めて、連続二期を務めるという栄誉にあずかった。しかし皮肉なことに、市長選挙立候補当時タニグチは、同市の日系コミュニティにおいてその存在がほとんど知られていなかった上に、そのリーダーたちとも交流がなかった。その一方、タニグチの選挙戦では、タニグチが日系人であることをはっきりと意識した選挙戦略がとられていた。

ジャポネース・ガランチード(信頼できる日本人)とオーリョス・プシャードス(垂れた細い目)

タニグチの選挙運動では、ガランチードとオーリョス・プシャードスがそのキーワードとして随所に見られた ...

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