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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

2018年ラテンアメリカの次世代日系人の実相調査についての考察: 第3部 キューバ

写真1:キューバ訪問(2015年)、宮坂さん、渡邊大使(当時)と教え子のフランシス荒川さん(JICA元研修員)、本調査報告会、JICA研修員のフリエタ伊波さん。

第2部 アルゼンチン >>

外務省中南米局は、2018年10月から11月にかけてキューバでも日系社会の実相調査を行った。調査の行われた2018年、キューバは日本人移住120周年という節目の年を迎え、首都ハバナでは日本国大使館などの主催で様々な記念行事が行われた。驚きかもしれないが、ペルーやブラジルに移住した日本人より長い歴史を持っているということである。そして2019年は日本キューバ修好90周年記念の年だった。現在のキューバの日系人総数は約1200人。日本人移民に関するスペイン語と日本語の文献はいくつかあるが1、現在の日系社会の実態についてはほとんど知られていない。そのため、本調査でキューバが対象国となったことはとても意義のあることで、今後のJICA事業や二カ国間の協力関係に役立てることができるのではないかと思われる2。今回は、その調査結果について報告する。

写真2:2018年の日本人キューバ移住120周年の概要及び行事(渡邊大使講演の資料)


調査参加者114人

2018年10月から11月にかけて全国各地の日系人を対象にアンケート調査を行った。回収された調査票は114人分で、首都ハバナが33人、フベントゥー(青年の)島11人、ピナール・デルリオ12人、シエンフエゴス11人、カマグエイ9人、マヤベケ11人、オルギン9人、シエゴ・デルアビラ8人、サンティアゴ・デクーバ7人であった。現在日系人の人口が多いのは首都ハバナであるが、日系人は各地に散在している3。これは戦時中多くの日系人がフベントゥー島に収監されたことと関係している4。戦後解放され、もとの居住地に戻ったものもいるが、それぞれが別の地域へ移動したからである。また、フベントゥー島にある日本人会とハバナに連絡会5というものがあるだけでその他の地域には日系の団体は存在しない。にもかかわらず、交通・通信インフラがあまり発達していないキューバで、日系人が居住している地域へ足を運び、日系人人口の約1割近い回答を集めた日系人リーダーたちの調整力と労力には敬意を表したい。

回答者の世代を見ると、49人(43%)が日系三世で、55人(48%)が四世であった。年齢層は20代と30代が63%で、40代が35%、性別では男性40%、女性60%であった。婚姻関係については、独身が48%、既婚者が35%、別居または離婚をしたものが10%だった。また58%は子供がいると回答していた。学歴に関しては、大学を卒業した人が77人(67%)で、40人が専門的な研修を受け、6人が大学院で学位をとったと回答した。

日本とのつながりとアイデンティティ

全体の6割が日本に親戚がいる又はその存在を知っていると回答したが、14%は親戚がいない、18%は親戚がいるかどうかわからないと答えた。四世にもなると言葉の壁が大きいからか、日本と連絡が途絶えてしまい親戚がいるかどうか分からなくなってしまうのが実情のようである。

先祖の出身県に関しては、熊本、沖縄、広島などが多く、その他福島、静岡、鹿児島との回答もいくつかあった。しかし、未回答の人も多く(父方の35%、母方の42%)、多くの人が先祖の出身県を把握していないことがわかる。また、地方には数世帯単位でしか日系人が存在しないので、日本語だけではなく、日本の習慣や移住者の記録がきちんと継承できていないことがこの数字に表れているようだ。

しかし、日系アイデンティティをかなり持っていると答えたのが約8割で、ある程度持っているが17%、全くないと答えたのが4人(4%)だったことは、興味深い。


来日経験

来日経験に関しては、JICA研修員として来日したことがあると答えた人が3人いた。ここ数年は、JICA研修員制度だけではなく、日本政府のJUNTOSや次世代日系指導者招聘プログラムの参加者の中に日系キューバ人の姿が見られるようになった。しかし全体の96%が(110人)が日本での就労経験はないと回答しており、国の体制や規制が海外留学や就労への大きな妨げになっていることが分かる6。実際に日本を訪れたことがあると回答したのは12%(14人)のみで、そのうちの9割以上がハバナ在住の日系人だった。訪日の理由は、親族訪問(5人)、留学(3人)、JUNTOS(1人)で、滞在期間のほとんどが1ヶ月未満であった。

日本への興味

三世や四世にもなると混血率も高く、日本語を学ぶ機会や日本文化や習慣などに触れる機会はかなり限られてくる。そのため日系人であっても、日本文化を親から継承するのではなく、地元の非日系人と同様に、漫画やアニメ、映画、雑誌、書籍から学ぶケースが多いようだ。

日本について興味のあることは、日本のポップカルチャー、伝統文化、和食、チームワーク、技術、組織力と規律等の順だった。一方、日本の好ましくないことに関しては、日系人のことがあまり知られていない、感情が乏しい、人間関係が冷たい、多少閉鎖的、規制が厳しく柔軟でないなどがあげられた。

全体としては日本のことをもっと知りたいと思っており、研修プログラムや日本の若者との交流事業を求める声や、自国の日系人のことをもっと知りたいという意見もあった。しかし、日本語を教えることのできる人が少ないこともあり、個人レッスンは高く、日本語を学ぶ機会は非常に少ない。また、キューバでは日本語能力試験を受けることができないため、日本語を学ぶモチベーションはそう高くないと言える。

日本文化関連の事業

日本大使館が企画広報している事業に関しては、近年は地元日系人にとっても以前より格段と情報が入手できるようになったため、調査対象者の半分が把握していと回答した。Facebookを見る限り、大使館主催などの写真がよくシェアされており、日系人らの日本文化イベントに対する関心は高まっているようだ7。イベントへの参加率は、常に参加すると答えた人は3割ぐらいで、時々参加すると答えた人を含めると46人になり、対象者の半分近くが参加したことがあることになる。しかしこれは都市部に限られたことで、地方からの移動などが参加者拡大の課題となっているようだ。他方、地元社会との関わりを見ると、全体の3割前後が業界および職業団体、地域ボランティアの活動に参加している。

キューバの日系人たちはそれぞれ様々な要望や提案をしているがそれらを実現するには、組織力と財力が必要になる。しかしこの国で一番重要なことは、情報伝達網を確立することであろう。携帯電話は普及しているが、スマホのような高性能なものはあまり使えない上、ネット環境の整備も不十分である。しかし、JICA研修などで来日した日系人による小さな人的ネットワークがあり、彼らがコミュニティのリーダ的存在として、情報をコミュニティ内へ伝達してくれている。実際、本調査で多くの調査データを得ることができたのは、彼らが人的ネットワークをもとに各地を回り調査参加を呼び掛けてくれたおかげである。今後も、このようなネットワークはコミュニティの連携手段として大きな役割を果たすに違いない。

最後に

キューバの日系人は、中南米の日系人とは全く違う歴史をたどり、異なった環境のもと生活をしている。しかし、我々は彼らの歴史や現状についてはほとんど理解していない。彼らについてもっとよく知ることは、我々にとってよい刺激になるだけでなく、今後彼らと国境を越えた交流を深め、友情を育み、協力関係を築いていくために必要なことであろう。そのためには、キューバの日系人は自由に海外渡航ができないので、我々がキューバを訪れてもいいだろう。今後は、そうした呼びかけもしていきたいと考えている。

注釈:

1. ロランド・アルバレス(Rolando Alvarez Estevez)、マルタ・グスマン(Marta Guzman Pascual)共著、西崎泰子訳、「キューバと日本〜知られざる日系人の足跡」彩流社、2018年。スペイン語版は、2002年に国際交流基金の支援で「Japoneses en Cuba(Fundación Fernando Ortiz発行)」というタイトルでハバナで刊行されている。

2. 外務省中南米局サイト、調査結果の概要:https://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/page22_003192.html 

スペイン語Español の要訳:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000496404.pdf 

3. 社会主義国家であるキューバでは、転居や転職をする際にはかなり煩わしい手続きが必要で、自由に移動することができない。

4. 戦時中、350人の日本人と数人の日系二世が敵性外国人としてフベントゥー島(Isla de la Juventud、当時はIsla de los Pinos「松の島」という名称)のモデル(模範囚)刑務所に、3年数ヶ月の間収監された。

5. 日系団体の連絡会の会長は二世のフランシスコ宮坂氏で、日系コミュニティの重鎮の一人である。

6. キューバの所得は低く、一般市民が海外渡航することは困難で、当局の出国許可書が必要である。また、すべての諸条件をクリアしていても空港で出国を拒否されるケースも報告されている。

7. キューバでは一般市民がFacebookのアカウントを簡単に開設することはできない。外資系企業に勤めている人は、比較的容易にアカウントを作ることができるようだが、通常は海外に行った際に開設するか、海外にいる親族に頼んで開設してもらうようである。

 

© 2020 Alberto Matsumoto

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このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。