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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

2018年ラテンアメリカの次世代日系人の実相調査についての考察: 第1部 メキシコ 

はじめに

ここ10数年、南米から日本に留学や研修でやってくる若い日系人は増えている。ミレニアル世代とでもいえるのか、好奇心旺盛だがその分いろいろなものに関心を寄せながらもあまり深入りせず「今の楽しさ」や「冒険心」を優先させる傾向がある。目標があってもその時々の状況に合わせてかなり柔軟に対応する世代である。日本語や日本文化に興味がある日系人は多く、日本に関係するイベントに積極的に参加する。しかし、日本語を学ぶ姿勢は非日系人の方が真剣で、日本文化の知識を深めるために自腹で日本に留学やホームステイ1をしにくる。

日系コミュニティのこのような現状を見極めるため、日本の外務省中南米局は「中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会2」でなされた提言に基づいて、2018年にメキシコ、キューバ、アルゼンチンで「日系社会実相調査」を実施した。各国の日本大使館を通じて主要日系団体に協力を要請し、首都やその郊外だけでなく地方都市にある日系社会でもアンケート調査を行った。私は外務省の依頼で中南米局の職員と共に質問票を作成し、回答データの処理・分析を行った。

アンケート実施期間は2018年6月から11月で、三世以降の20歳から45歳を対象とした。アンケートには、日系人のルーツに関する質問から、学歴、職歴、日系団体への参加度、日本訪問歴(回数や目的)、日本に対する関心度、日本文化に関連する行事の実施と参加度、日本に対するイメージ、日本政府に対する要望やコメント等、44の質問事項が盛り込まれた。結果、メキシコ170人、アルゼンチン148人、キューバ114人の日系人が答えた。報告書は2019年3月に提出され、同年7月30日に中南米局で正式に報告会が行われた3。 

調査対象国の日系コミュニティの全員が参加したわけではないので、必ずしもコミュニティの現状を反映しているものとは言えないが、メキシコとキューバではバランスよくデータが集まったので、現状に近いコミュニティの様相を反映していると思われる。このエッセイでは、3回に分けて本調査で得た各国のデータを紹介するとともに、私なりの見解を述べたいと思う。

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メキシコ:調査対象の日系人数170人

現在、メキシコには2万人の日系人がいるとされ、その歴史は1897年チアパス州に入植した「榎本植民団4」にさかのぼることができる。第二次世界大戦中に行われたメキシコシティーとグアダラハラへの強制転住は、今の日系社会の姿に大きな影響を与えた。本調査では、首都だけでなく10の州にいる日系人計170名から回答を得ることができ5、とても興味深い調査結果が出た。

調査参加者

本調査に参加した日系人を地域別にみると、首都メキシコシティーからは日系三世が多く、地方からは四世が主であった。全体のデータによると、三世が41%、四世が53%で、年齢層は20代が35%、30代が33%、そして40代が31%であった。また、配偶者もしくはパートナーが非日系人であると回答した人が67%いたことは留意に値する。

日系諸団体による行事

大使館などが広報している事業(日本文化関連や留学情報等)については、74%が把握していないと回答していたが、首都や都市部の日系人の56%は日系諸団体の行事に参加したことがあると答えていた6。一方、地方では日系団体が存在しない地域もあるせいか、団体の運営する行事に参加したことのある人の比率はそう高くなかった。参加率の低さの要因として、費用負担や収益に対する説明責任がないといったコメントや、不透明な運営に対する不信感があげられた。また、参加したいと思っていても、ボランティアの下働きが多く、企画には参加できないことも不満要素となっているようだった。

近年日系諸団体が企画する様々な日本文化行事や講座には、地元の非日系人が積極的に参加する傾向にある。そのおかげで日系団体の財政基盤が改善したということを認識している日系人も多く、非日系人の参加を歓迎している。日系人もその社会の一員であるため、今後は益々非日系人との協力を重視して、共に日本をもっと発見していく必要があるだろう。場合によっては日本での研修の機会を非日系人とももっと共有してもいいかもしれない7

学歴・職業

メキシコの日系人の平均的教育水準は高く、本調査では90%が大卒で、うち26%が大学院を終えている。また22%には留学歴があり、10%は県費留学で来日したことがある8と回答した。また、アメリカ、ヨーロッパ、ブラジル、アルゼンチンで学位を取得または専門研修をしたことがあると回答した人もいた。

職業に関しては、海外で就労経験があるものもいたが、出稼ぎとして日本へ行ったことがあると回答した人はたったの5人であった。首都だけではなく中部地方でも多くの日系企業(主に自動車関連)が進出している9にもかかわらず、日本企業とかかわりを持っていると回答した人は比較的少なかった。地方では日本食関連や飲食ビジネスに携わっているものが多数いた。とはいえ、職歴を見ると、転職している人も多く、業界を変えての転職ケースもみられる。このような状況とメキシコの教育課題や社会構造を考えると、すべての日系人が高い学歴を持っていないことも容易に推察できる。

日本とのつながりとアイデンティティ

メキシコの日系人は、日本とのつながりは比較的強いようだ。近年は生活水準が高くなったことやメキシコから日本へ直行便が毎日でていることもあり、日本への渡航は容易になった。こうした背景もあり、日本を一度も訪れたことがないと回答した人は60%いたが、78%が日本の親族を知っているまたは意識していると回答している。渡航歴のある4割の半分以上は、旅行か親族訪問を目的に訪れたと回答しており、1ヶ月未満の滞在がもっと多かった。

また日系人としてのアイデンティティーがとてもあると回答したのが41%、かなり又はまあまあと答えた人を合わせると92%になる。これは、日本とのつながりの強さを裏付けているように思われる。

地元社会との統合

世代が進むにつれ、地元社会への統合が深まり社会進出が拡大し、新たな可能性を手にする機会が増える。しかし、職業団体や商工会等への加入率は全体の19%と非常に低い。医師や経営者、労働組合員はその比率はかなり高いのだがその他はあまり積極的ではなく、医師による無償診療や予防接種運動、貧困者支援、献血、清掃活動、老人ホーム訪問といったボランティア活動への参加している人は全体の30%でしかない。

日本語能力

日本語能力に関しては、会話力、読解力、文書力について、日本語能力試験の基準を用い自己評価してもらった。日本語能力試験のN1、N2レベルを持っていると回答した人のほとんどが、メキシコシティーの日系人であった。アメリカとのビジネス関係も深いからか、80%が英語の高い理解力を持っていると回答していたことは興味深い。とはいえ、本当に高い英語能力を持っている人は、その半分ぐらいであると思われる。日本語を学習しなかった理由として、日本語学校や日系団体がなかった、家庭や学校で話す相手がいなかった、関心があまりなかった、日本語の語学としてのメリットが感じられなかったことなどがあげられる。 

日本へのイメージ

日本に対して高いイメージを持っていると答えた人は、97%とかなり高く、日本の和食や清潔と秩序、組織力と規律、治安とマナーの良さ、時間厳守について高い評価を示している。日本に対する憧れが強いようだ。また、日本についての知識は、漫画、アニメ、ネット、映画から得たとの回答が一番多く、その次に親や親戚、日本旅行で知識を深めたと答えている。

ここ数年で大使館やJICAの日系社会に対するアプローチは、以前とは比較にならないほどフレンドリーになっており、日系人は日本に対して親近感を持つようになった。特に、JICA日系研修員のOB会10は、研修事業の定期説明会や派遣前オリエンテーションを行い、フェイスブック等のSNSを通じて積極的な広報を行っている。そのせいか、これまで日系社会と接点がなかった日系人も、日本に対する評価を上げているようだ。こうしたネットワークをフォローし、定期的に案内メールを配信したりSNSを更新することは大変な労力を伴うが、このような地道な作業の継続が重要になる。

第2部:アルゼンチン >>

注釈:

1. ワーキングホリデー協定がある国からは、この制度を通してかなり多くの若者が来日している。南米では、2020年3月現在、チリとアルゼンチンがこの協定を日本と締結しており、その枠は200人である。

ワーキング・ホリデー制度(外務省)

2. 2017年5月に外務省に中南米日系社会との連携などについて提言書が提出された。このサイトには、その3回の懇談会と報告会が掲載されている。 

3. サイトには3カ国の調査概要及び報告内容がすべて掲載されている。2019年7月30日の報告会には吉田局長、佐藤大使、近藤南米課長、高木地域調整官、小長谷課員、堀坂名誉教授(上智大)、柳田名誉教授(慶應大)、浅香准教授(南山大)、ウラノ・エジソン准教授(筑波大)、海外日系人協会の田中理事長、JICAの鈴木規子理事らが出席した。

外務省のサイトには、報告書の概要など、一部はスペイン語の要訳も掲載されている。

4. アルベルト松本、「メキシコ榎本殖民団に『海外移住の夢』を託した榎本武揚という人物 ― その1」(2019年3月13日) 

5. 調査対象者がシティーで32人、チアパス州3都市で21人、ヌエボレオン州2都市で12人、コアウイラ州3都市で28人、グアナファト州6人、サンルイス・デポトシー州10人、ハリスコ州10人、ベラクルス州2都市6人、シナロア州4都市23人、ソノラ州3都市23人、そしてブエブラ州3人で、合計:170人である。

6. 日系団体の存在を把握していても、実際幹部職について活発に活動しているのは170人中33人のみである。シティーでは日墨協会の会館や県人会などの役割が大きいが、地方には日系団体がないところもある。

7. 実際、JICAの日系研修員制度の2018年度事業にはじめてブラジルから非日系の研修員が来日しており、2019年度には他の国の非日系の研修生数人が日系人と共に研修を受けている。

8. 本調査では、父方曾祖父母の出身県が多いのは福岡県、長野県、広島県、滋賀県、熊本県等であるが、母方曾祖父母の出身県では、長野県、福岡県、熊本県、和歌山県である。

9. JETROによると1100社以上進出しており、1万人以上の日本人が在留している。

10. メキシコには、Asociación de Exbecarios Nikkei de México (ASENIM)という団体があり、元JICA研修生たちが情報発信、親睦を深めている。 

 

© 2020 Alberto Matsumoto

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このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。