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絆2020:ニッケイの思いやりと連帯―新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて

コロナ・パンデミック下のロサンゼルス日系社会

「やめる選択肢はない」

この原稿を書いている2020年4月中旬のロサンゼルスは、コロナ・パンデミックの真っ只中だ。カリフォルニア州知事が外出禁止令の延長を発表し、自宅待機が5月15日まで続くことになった。もちろん、そこで外出禁止令が解除されるかどうかの保証はどこにもない。トランプ政権のコロナ対策タスクフォースのドクター・アンソニー・ファウチは、ビジネスの一刻も早い再開を望むトランプ大統領の性急さに警鐘を鳴らしている。

フリーランスで執筆業に携わる私の仕事も影響を受けている。日系社会で開催されるイベントの取材に出かけることが多いのだが、予定していた3月と4月のイベントが10件キャンセルになった。日本の雑誌がカリフォルニア州の観光地の旅行記事を企画、その取材を4月末に行う可能性もあったがキャンセル。私たち取材班が遠出できないだけでなく、アメリカの観光地の記事を掲載しても日本から渡航できないのだから意味はない。

毘沙門オーナーの甲山さん  

気分転換に外食するわけにもいかない。レストランはテイクアウトとデリバリー以外の営業が許されていない。業界にとっては危機的状況だ。そのような状況の中、ロサンゼルス周辺で日本食レストラン、ラーメン店、カラオケバーなど12店舗を展開する毘沙門グループのオーナー、甲山貴明さんに話を聞く機会があった。「カラオケバー以外は全部テイクアウトとデリバリーに切り替えて営業を継続しています。もともと弁当だけを扱うBento-yaの売り上げはコロナ前と比べても変化はないのですが、それ以外の店は2、3割程度の売り上げに落ち込んでいます」。

甲山さんが最初の店をロサンゼルス郊外のコビナに開けたのは1993年だった。「27年の中で経営的には今がもっとも厳しいです。周囲のレストランでも継続を断念しているところも出てきています。究極の選択としては、今閉めるか、またはその時(経営を断念せざるを得ない時)が来るまで続けるか、二つに一つしかないと思います。しかし、私はできることをできるところまでやろうという考えです。やめてしまうという選択肢が私の中にはないのです」。

甲山さんの店の中では、行列ができるラーメン店、大黒家が特に有名だ。大黒家のリトルトーキョー店にテイクアウトを求めて来店する常連客は「開いていて良かった」と感謝してくれるそうだ。「そう言ってくれるお客さんのためにも、どんなに大変でも店をクローズするわけにはいかないのです」と甲山さんは話す。

休業中の店が多いため、同グループの店舗は「営業中」であることをSNS中心にアピールしている。特別措置により、現在はアルコール類の販売も各店で開始。自宅で大黒家の味を再現できるように生麺とスープベースのセット販売も始めた。店を一度閉めてしまうともう再開できないかもしれないという思いで、今はできることを全てやり、走り続けるしかないと話す甲山さん。このパンデミックを乗り越えた先に経営はどう変わるかを聞いてみた。「テイクアウトとデリバリーは伸ばし続けるべきだし、またこれまでも気を付けていた店の衛生面をさらに次の段階に持っていく必要があります。お客さんが敏感になってしまう以上、例えばメニューにしても使い回しではなく、別な形で考えないといけません」。

そして最後に甲山さんは次のように話した。「今、ソーシャルディスタンシングを社会的距離と日本語に訳していますが、それはあくまで物理的距離であって、このコロナを経験した人たちはこれまで以上に協力し合って、心の距離を深めていくべきだと私は思っています」。

「変化に対応して活路開く」

ライトハウスを発行する拓洋コーポレーションの込山さん

次に状況を聞かせてくれたのは、筆者自身も17年前まで勤めていた日本語情報誌のライトハウスの発行元、拓洋コーポレーションのオーナーの込山洋一さんだ。全米各地で情報誌を発行しているが、本社はロサンゼルス近郊のサウスベイ地区に置いている。また、日本の教育機関からアメリカに短期研修生を受け入れるプログラムや日本の大学や高齢者向け施設をアメリカで宣伝広報し、実際にセミナーを開催する事業も運営している。コロナウイルスの影響が大きいのは、日本からの短期研修生を受け入れるプログラムだと込山さんは話す。「日本の大学や専門学校の多くは、年度内の海外研修を実施しないという決断を下しています。つまり今年はプログラム自体が休止せざるを得ない状況です」。アメリカから日本の大学受験を目指す人に向けての説明会もオンラインに切り替えた。秋にはリアルで開催しようとしているが、実現はまだ見通せない。

今後の展望を聞くと、込山さんは次のように答えた。「ウイルスは、インフルエンザと同じでなくなることはありません。つまり、今後も何らかの影響を受けることを想定した上でのビジネス環境にシフトしていくことが大切です。オンライン化はますます推進していきます。また、情報誌に広告を出せない状況で顧客の出稿休止が相次ぐ中、当社としては売上が下がっても社員の雇用を守っていく覚悟です。そのために考えているひとつがマルチタスク化です。例えば、デザイナーがデザインだけに従事するのではなく、顧客とのやりとりも担当することで、営業は新規開拓により力を割くことができます。他の部門のメンバーが営業にシフトすることもあるかもしれません。また市場そのものも盛り上げていく必要があります。今はテイクアウトできるレストラン情報を、広告費用をいただかずに定期的に発信しています」。

さらに「こう言うと誤解を受けるかもしれませんが」と前置きした上で「このような危機的な状況では、多くの消費者が購入にシビアになっている分だけ、商品やサービスを提供する側も魅力をパワーアップしなければ選んでもらえません。つまりあったほうがいいではなく、無くてはならない存在に進化することが重要です。ライトハウスも、読者にとって本当に求められる情報を厳選して、読者の支持を得られないと生き残ることはできません。問題から目を背けず、あらゆる可能性に目を向け、四六時中知恵をしぼり、変化に対応していけば必ず活路は開けます。また見方を変えると、この機会にこそ、全社一丸となって新商品(サービス)や新市場を創造するチャンスです」と、企業にとっては今こそが「脱皮できる契機」なのだと込山さんは強調した。

また、2019年に創立110周年を迎えた北米沖縄県人会は、去る3月28日にロサンゼルス近郊で日本のミュージシャンBeginを招聘する公演を予定していたが、これも当然ながら延期となった。レストランもメディアも県人会も、また筆者のようなフリーランスも「2020年は大変な年だった」と過去形で思えるようになるには、コロナウイルスが収束した後の活動をイメージしながら今の状況を乗り越えていくしかないのだ。

 

© 2020 Keiko Fukuda

coronavirus covid 19 Kizuna2020 Los Angeles Shin-Issei

このシリーズについて

人と人との深い心の結びつき、それが「絆」です。

2011年、私たちはニッケイ・コミュニティがどのように東日本大震災に反応し、日本を支援したかというテーマで特別シリーズを設け、世界中のニッケイ・コミュニティに協力を呼びかけました。今回ディスカバーニッケイでは、ニッケイの家族やコミュニティが新型コロナウイルスによる世界的危機からどのような打撃を受け、この状況に対応しているか、みなさんの体験談を募集し、ここに紹介します。 

投稿希望の方は、こちらのガイドラインをご覧ください。英語、日本語、スペイン語、ポルトガル語で投稿を受け付けており、世界中から多様なエピソードをお待ちしています。みなさんのストーリーから連帯が生まれ、この危機的状況への反応や視点の詰まった、世界中のニマ会から未来に向けたタイムカプセルが生まれることを願っています。 

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新型コロナウイルスの世界的大流行に伴い、世界中で多くのイベントが中止となりましたが、新たにたくさんのオンラインイベントが立ち上げられています。オンラインで開催されるイベントには、世界中から誰でも参加することができます。みなさんが所属しているニッケイ団体でバーチャルイベントを開催する予定があるという方は、当サイトのイベントセクションに情報の投稿をお願いいたします。投稿いただいたイベントは、ツイッター(@discovernikkei)で共有します。今自宅で孤立している方も多くいらっしゃると思いますが、オンラインイベントを通して新しい形で互いにつながれることを願っています。