Sataye Shinoda

東京家政大学人文学部教授。日本女子大学大学院修了。専門は、日系人の歴史・文学。おもな業績:共編著『日系アメリカ文学雑誌集成』、共著『南北アメリカの日系文化』(人文書院、2007)、共訳『日系人とグローバリゼーション』(人文書院、2006)、共訳『ユリ・コチヤマ回顧録』(彩流社、2010)ほか。

(2011年 2月更新)

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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その4/6

>>その3

編集者のひとり河合一夫は、樋江井良二のペンネームで書いている。彼はたいへんな文学青年で、岩波文庫をほとんど全巻揃えて収容所へ持ってきたほどの読書家だったという。

詩は「君が像を彫れり」(創刊号)、「鮭」(第2号)の2篇、長編小説「時代」を創刊号から第6号を除く第7号まで6回連載している。長編小説となっているが、一貫したストーリーはない。第5号までは、ひとりの青年と隣に住む人妻が姉と弟のような交際をするが、近所の人びとのうわさの種にされ、自分の純粋な気持ちが理解されずに苛立つ心の動きを描いている。しかし第7号から突然日記形式になって別の話に変わる。収容所と言う閉ざされた小さな世界で、若者たちが他人の目を気にしつつ、出会い、愛憎 ...

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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その3/6

>>その2

3.『鉄柵』の内容

他の収容所の出版物と比べると、『鉄柵』には小説が多く掲載されている。その小説は圧倒的に短編だが、3篇の連載長編小説もある。このほかに随筆、評論、詩と短歌・俳句などの短詩型文学が配置されているが、川柳は掲載されていない。編集者はあくまでも「文学」にこだわり、文学的水準の高い作品を望んだ。編集者のひとりはのちに、同じ収容所で発行された『怒濤』との相違点は作品の質の高さだったと筆者に語っている。さまざまな作品が持ち込まれたが、質の低いものは掲載せず、そのために人びとの間で感情的摩擦を生じたことも度々あったらしい ...

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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その2/6

>>その1

2.『鉄柵』の創刊と目的

1943年の晩秋、3人の帰米青年が毎晩のように加川文一の家に集まっていた。彼らはグラナダ収容所から来た山城正雄と野沢襄二、ポストンからの河合一夫であった。お互いにロサンジェルス市立ポリテクニック・ハイスクールを卒業した友達同士で、文学という共通の趣味で結びついていた。その頃は忠誠者と不忠誠者の交換がほぼ終了し、次第に過激な親日派が勢力を伸ばし始めており、3人は不忠誠を選択したものの、所内の雰囲気に馴染めなかった。過激な帰米青年たちの運動に巻き込まれたくないと感じた3人は独身で生活の心配もなく、あり余る時間を使って何ができるかを模索していた。加川と文学談義を重ねるうちに、文学誌を発行する話がまとまった。

加川は14歳で渡米し、カリフォルニア州パロアルトで父とともに農業に従事するかたわら独学で英語と詩を学び、1930年に英詩集Hidden Flameを出版した ...

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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その1/6

トゥーリレイク収容所の文学同人誌『鉄柵』は、収容所で発行された雑誌のなかでもっともよく知られている。『カリフォルニア強制収容所』(白井昇、1981年)で詳しく紹介されているほか、『南加文芸選集』(藤田晃編、1981年)および『遠い対岸』(山城正雄、1984年)、『帰米二世』(山城正雄、1995年)など日本で出版された本のなかで言及されている。そのため帰米二世文学のルーツは『鉄柵』にあると言うのが定説になっている。しかしその全容は明らかにされていない。当事者の野沢襄二は『南加文芸選集 ...

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青年活動から生まれた文芸誌『怒濤』-その5/5

>>その4

青年団の機関誌であっても投稿者は団員に限られたわけではない。編集者はいっそう読みごたえのあるものにするために、すでに日系文壇で知られた人にも原稿を依頼した。そのためかなりの数の一世の作品が含まれている。

戦前、『收穫』に寄稿している森百太郎は一世で、団員の若者とは一世代年長であったが、小説「或る系譜」(第4号)、「幕末の或る数学家」(第5号)、「師の印象」(第6号)、「馬鹿庄」(第7号)、および散文詩「流れ」(第5号)、啓蒙読物「女性読本」(第3号)を載せている ...

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