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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

外国人児童の不就学、低い高校進学の課題〜日系子弟への警鐘

現在、日本の義務教育修了率はほぼ100%で、高校進学率も98%となっており、就学率と修了率は世界一である。大学進学率は53.7%と、先進国の中ではあまり高くないが、専門学校進学率23.6%を合わせると8割以上が高等教育を受けていることになる1。その内容やスキルの水準はともかく、労働市場で柔軟に対応できる能力を持った人材が育成されていることがこの数字に表れている。いずれにしても中等教育の修了率が高いのは、日本の教育制度が完備しているからである。一方、ラテンアメリカ諸国では義務教育の中退者や不就学が未だに3割前後いるとされており、貧困が深刻な地方都市や農村ではそれ以上だと指摘されている2

1990年の入管法改正で南米の日系就労者が来日し始めてからすでに30年。現在は日系人人口25万人ぐらいといわれているが、2008年のリーマンショック時には39万人(ブラジル国籍だけでも31万人、ペルー人が約6万人)を記録した。ここ十数年はアジア諸国からの留学生や技能実習生が飛躍的に増加し、現在の在留外国人は約300万人である3。家族を呼び寄せたものもいれば日本で家庭を築いたものもおり、現在、外国人の義務教育就学年齢児童は12万人を超え、そのうち不就学あるいは就学状況が確認できない児童が約2万人いると文科省の「外国人の子供の就学状況等調査結果(速報、2019年9月)」で明らかになった4

外国籍児童2万人が不就学、日本語指導が必要な児童生徒

外国人児童の就学状況については、これまで研究者や自治体が個別に調査を行ってきたが、全ての市町村の教育委員会を通しての全国規模での調査はこれが初めての試みであった。2006年に文科省が行った調査5では、一部の外国人集住自治体(1県11市)のみ、日系ブラジル人が集住している群馬県の太田市、岐阜県の美濃加茂市、静岡県の掛川市と富士市、愛知県の豊田市と岡崎市、そして三重県の四日市市などが対象だった。まだリーマンショック前で南米の日系人39万人と最も多い時期だったが、不就学期間が1〜2年という児童が多かった。不就学の理由として、「学校へ行くためのお金がないから」(15.6%)、「日本語がわからないから」(12.6%)、「すぐに母国に帰るから」(10.4%)、「母国の学校と生活や習慣が違うから」(8%)や「勉強の内容がわからないから」(8%)が挙げられた。8割が以上が公立学校への入学手続きを知っていると答えていたにもかかわらず、手続きそのものを理解していなかったり、通訳付きの入学ガイダンスさえを受けていなかった。

3年前、NPO法人青少年自立援助センターが実施した調査によると、外国人子弟の高校進学率は平均60%に留まっている6。この数字は、昨年発表された調査「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」にも間接的に現れている7。全国の外国籍の児童生徒4万人が日本語サポートの対象になっており、2年前から6150人増加している。母国語別にみると、最も多いのがポルトガル語を話すブラジル出身者で25.7%、約1万人が日本語サポートを必要としている。こうした外国人生徒の高校進学率は71.1%、中退率は9.6%となっており、一般生徒と比べると7.4倍である。大学進学率は42.2%と近年増加しているが、就職しても非正規雇用の契約が40%で、平均の9.3倍あるという8

不就学になっている児童生徒は確立した学習言語を持っていないため、日本語もポルトガル語又はスペイン語も非常に低い水準のケースが多く、一定の日常会話はできても、その言語で知識を身につけ、考え、表現するレベルを持っていない状態だという9。仮に本国に戻ったとしても、簡単に正規の学校には戻れず、戻っても留年の対象になり中退してしまうことが多い。中南米でも義務教育は国家の責務であると同時に親の義務としても規定しており、それを履行しない場合は国や州レベルでの罰金や禁固刑が定められている。しかし、これは主に児童労働防止や貧困支援のためである。多くの国の貧困地区の学校ではおやつや食事を無償で提供し、就学義務を履行した世帯のみに追加の助成金を提供している。ブラジルやペルーでは日本のように学校や教育委員会、市民団体がサポートしてくれることはほとんどなく、親が家庭教師を雇うことができなければそのまま放置されてしまう。

日本にとどまった場合でも、最低限のスキルアップの機会は中々得られず、職業の選択は限られてくる。社会が期待している多様性のある多文化的な人材、または高度なグローバル人材になり社会に貢献するという目標はかなり遠退いてしまう10

とはいえ、外国人住民が多い自治体では様々な試みを展開している。数年前、静岡県浜松市は「外国人の子どもの不就学ゼロ作戦事業」を実施した11。今は「浜松モデル」として知られているが、市や国際交流協会だけではなく、在浜松ブラジル総領事館や集住地区の自治会(町内会)、警察などの協力を得て、土日を問わず聞き取り調査や家庭訪問、入国管理局の出国確認などのデータ照合によって、実態の把握にと努めたのである。外国人児童の学習支援を行っているNPO団体などを通じて、帰国予定がない完全不就学を突き止めることにも尽力し、通訳とともに親との面談、説得、情報提供を忍耐強く行ったのである。これは一つの成功事例である。

外国人児童生徒の日本語指導の現場

しかし、昨年文科省が発表した「外国人の子供の就学状況等調査結果」によれば、83.6%の地方公共団体が転入等の住民登録手続きの際に就学案内をしており、71.6%は住民基本台帳と学齢簿システムの連動をしているとのことだが、実際に訪問による個別確認や就学勧奨をしているのは17.0%に留まっている12。すべての自治体が「浜松モデル」のように対応することは困難であるが、中南米出身の児童の不就学を減少させるには在京総領事館との連携や、諸団体やエスニックメディア等の明確かつ強いメッセージが重要になってくる。日本の法律では外国人子弟に義務教育を課すことができないとはいえ13、重要な義務を履行できない国にダイバーシティーな人材は育たない。不就学児は就労年齢(15歳)になっても低いスキルの労働にしか就けず、劣等感と妬みしか残らない人を増殖してしまうリスクがある。

20年前から自治体レベルでは様々な努力と工夫を重ねて外国人居住者に対する「教育を受ける権利と義務」を促進しているが、そうした試みには敬意と感謝しかないといえる。しかし憲法の義務規定を外国人の親に課すことができない日本はやはりどうみても国際条約を逸脱しているだけではなく、外国人の社会統合政策に反している。

ブラジル憲法の第205条には、「教育は、すべての者の権利かつ国家及び家族の義務で、人間の完全な発育、公民権行使の準備及び労働資格付与を目的とし、社会の協力によって推進及び助成する」という規定がある。こうした精神を日本でももう少し柔軟に適用できれば、外国人児童の不就学問題への対応も全国的にもっとスムーズになるに違いない。

注釈:

1. 「日本の大学進学率が低いって本当?気になるその数字を紹介」 (『ユニヴプレス』、2020.6.12)

文科省、高等教育の将来像・基礎データ

2. 経済的格差が教育格差にも反映しており、富裕層の多い私立学校と低所得者の多い公立学校の教育水準があまりにもかけ離れていることが大きな課題になっている。全体の教育予算が増えても(中には国内総生産GDP6%前後)教員の質が十分に上昇しておらず、国際的な学習到達度調査(PISA)でも生徒の能力は平均よりかなり低い。

Gabriel Sánchez Zinny, “¿Por qué no mejora la educación en América Latina?” (BBC News, 2015.4.11)

3. 「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」(法務省)
2019年12月の在留外国人数は2,933,137人であり、アジア諸国からが240万人で南米からは27万人とある。うちブラジル国籍は211,677人で、ペルー国籍は48,669人となっている。すべてが日系人ではないが、ほぼ9割は日系就労者と推計できる。

4. 総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課、「外国人の子供の教育の更なる充実に向けた就学状況等調査の実施及び調査結果(速報)」(文科省、2019.9.27) 

5. 文科省、「外国人の子供の不就学実態調査の結果について」、CLARINETサイト、2006年

6. 田中宝紀(NPO青少年自立援助センター)、「外国人の子どもの高校進学率60%に留まる事態も-格差是正願い、支援者らが入試制度調査」(Yahoo News、2017.1.30)

ほかの自治体でもこうしたデータは存在するが、高校進学率は50%前後だとされている。
YSCグローバル・スクール

7. 文科省総合教育政策局「『日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査』(平成30年度)の結果について
2年ごとに行なわれている調査。外国籍の児童生徒は40,485人で母語別ではポルトガル語が(25.7%)、中国語23.7%(9600人)、フィリピン語19.5%(7893人)、そしてスペイン語が9.4%(3786人)である。

8. 「日本語指導必要な外国人、過去最多5万人超」(『産経新聞』、2019.9.27)
大学進学率は増加しているが、推薦入学者も多く、誰もが競争率が高くて社会的にも評価の高い大学に入学しているとは言えず、その後の就職状況にも反映している。

9. 柴崎敏男、「ダブルリミテッド問題の現状とその支援」(『フィラントロピー』誌、2014.12)

10. 殿村琴子、「外国人子女の不就学問題について」(第一生命研究開発室 Life Design Report, 2008)

平和政策研究所、「外国人児童の不就学問題と教育の充実」(『IPP政策ブリーフ』Vol.19、2020.7.15)

11. 浜松市企画調整部国際課、「浜松市における外国人の子供の不就学ゼロ作戦事業について」、(CLAIR自治体国際化フォーラム、2014.11 )

不就学をゼロに~外国人の子供たちの課題に取り組む浜松市」(『日本語ジャーナル』、2019.11.21)

浜松国際交流協会(HICE)によると、2019年末現在、浜松市には25,825人の外国人が在留しており、9,619人がブラジル人で、4,091人がフィリピン人、2,585人が中国人、そして2,585人がペルー人である。

12. 「外国人児童の支援強化へ文科省、不就学児を調査」(『西日本新聞』、2019.6.18)

13. 日本国憲法第26条は、「1. すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。2. すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する次女に普通教育を受けさせる義務を負う。これを無償とする」と定めている。「すべて国民は」には在留外国人は含まれていないという解釈をしている。しかし、こうした基本的人権が保障されないのは国際条約などを逸脱しているともいえる(出所:星野・小林、「口語憲法」、自由国民社、2004年)。

憲法学者の浦部教授は、「外国人がそもそも人権の享有主体たりうるかという問題に関する学説(消極説と積極説)の議論は、こんにちはではもはや意味を失っている。なぜなら、1996年の国連総会で採択された国際人権規約が、外国人を含むすべての個人に対して平等に人権を保障すべきことを定めているように、もはや自国民だけの人権保障で足りるとする考え方は、国際的にも通用しないし、また、日本の判例上も、外国人の人権享有主体性それじたいを否定したものは存在しないかれである。問題は、いかなる人権がどの程度保障されると考えるべきである」と述べている(出所:浦部法穂、憲法学教室、55~56頁、日本評論社、2006年)。

 

参考:

アルベルト松本、「在日二世代目の日系ラティーノの挑戦」、『ディスカバー・ニッケイ』2017.5.31. (Español)

 

© 2020 Alberto Matsumoto

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About this series

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。