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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

「国際日系デー」の意義〜次世代のアイデンティティー発見

2018年6月ホノルルで同時開催された「ハワイ日本人移住150周年記念式典」と「第59回海外日系人大会」の場で、6月20日が「国際日系デー」に制定された1。この「国際日系デー」を提唱したのは、沖縄県名護市に在住している日系アルゼンチン人のアンドレス比嘉さん2と日系ペルー人のアンドレス正(ただし)伊佐さん3である。沖縄出身の先祖を持つこの二人4は、世代が進むにつれてルーツが薄ていくことに危機感を持ち、2015年から「世界ウチナーンチュの日」構想を練り始め、翌年第6回ウチナーンチュ大会の時にそれを実現した5。二人が「日系のルーツを誇りに思うきっかけになってほしい」という思いのもと「国際日系デー」構想が承認されるよう各関係機関に働きかけたのもこの頃だった。そして2017年9月、ペルーのリマで開催されたパンアメリカン日系人大会で正式にこの案が紹介され、参加国の賛同を得たのである6

いかなる世代の日系人も望んだときに自分のルーツを確認できることが重要である。アイデンティティーとは、自身が自分のペースで形成していくもので、家庭や社会環境、生活地域(農村移住地や都市部)等によっても左右されるし、一世の移民体験がどのように伝えられたか(または伝えられなかったのか)、そしてそれをどのように次世代が受け止めていくかによっても、常に変化しながら進化していくものであると考えている。また、日本人の勤勉さ、忍耐、忠誠、連帯といった価値観は受け継がれていても、その表現の仕方や捉え方は人それぞれであるし、行動に移すにもその社会環境が大きく影響する。日系4世や5世になると非日系人の配偶者を持つ者が増え、必然的に日系人としての意識は薄れてくる。それは逆に社会に溶け込んで立派に生活しているという証でもあるが、私も世代を重ねても日系人としてのアイデンティティを何らかの形で感じてもらいたいと願っている。

2018年6月ハワイで私は日系7世と8世の話を聞く機会をもったが、彼女たちは日本のルーツについて「日常生活であまり意識しなくとも、何かのきっかけでそのことが話題になったり、なぜ自分が他の人と違った行動や考えを持つのかと自問したときに、もしかしたら先祖のDNAが一つの「レガシー」として伝わってくるのではないか」、と述べたことがとても印象的だった。

国際日系デーの創案者、アンドレス比嘉さんとアンドレス伊佐さん。

戦前、戦後を問わず、日本人移住者は数々の苦難と試練を乗り越えてきた。多くの記録が示すように、初めは一生懸命努力してもなかなか報われず、地元社会の不理解と差別に悩み、ときには仲間の裏切りに会うこともあった。日本人の「一生懸命」はときには強い団結力と連帯感として現れるので、それが排他的に映り誤解を助長してしまったのかも知れない。しかし、お互いに助け合い、柔軟に対応したことで、最終的にはその地域の発展に大きく貢献してきたと言える。50年、100年、いや150年かけて、尊敬と信頼を勝ち取ったのである。だからこそ、この「国際日系デー」では、単なる家族の体験や絆を再確認するだけではなく、当時の世界情勢などを鑑みながら日系コミュニティーとしての広い視点をもって、これまでの教訓を噛みしめることも重要である。

ここ15年、中南米諸国でも日本のポップカルチャー・ブームで、どの日系社会でも、日本祭り、日本文化祭、盆踊り、バザーなどが大盛況である。その規模と収入額は想像をはるかに超え、何万、何十万人の非日系人がこれらのイベントへ参加するようになった。その結果、それまであまり関心を寄せてこなかった若い日系人も各事業に協力するようになり、一部の日系起業家は地元社会のもっと大きなイベントにも出店し、「和食ブーム」を後押しするようになった。

しかし、新型コロナウィルスの影響で、こうしたイベントや日本文化関連の教室はすべて中止に追い込まれた。日系指導者の多くは今の状況が続くとコミュニティへの打撃は計りしれないと指摘しているが、会議アプリZoomを介してワークショップを開催するなど7、どの国でも工夫を重ねながらモチベーションを維持することに努めている。実際、本来企画されていた今年の「国際日系デー」イベントは中止となったが、代わりにオンライン上で行われた。有力日系人らが・メッセージを送り8、ブラジルでは「国際日系デー」を祝うためのイベントをYouTubeとFacebookを通して発信、アルゼンチンでは若者が中心となりオンラインイベントを行い、日系のルーツについて話し合う機会を持った。

中南米の多くはコロナ渦の中ですでに半年近くも移動や集会が制限されているが、それでも日系人としてできることはある。

一つは、家族や自分の国の日系社会について理解を深めることだ。家にある昔の記録(手紙や写真)を探してもいいだろう。そうした記録に触れたり、祖父母が健在である場合は移住したときの話を聞くだけでも新たな発見があるに違いない。二つ目は、研修や留学で日本から戻ってきた日系人とオンライン上で意見交換をすることだ。通常、JICA研修員は本国に戻ると報告会を兼ねて先輩や日本へ行きたい候補生と会合したりするが、オンラインやソーシャルメディアを通じて日本で得た知識やノウハウをもっと共有してもいいといえる。また、今年度のJICA研修はオンラインになり、我々講師陣も工夫を重ねながら実りある内容にしたいと考えている。対面授業がなくなり日系人は来日することもできないが、日本からの発信によって学べること、発見すること、考えることは多いに違いない。 

このパンデミックの中、また今後更に進化していくデジタル経済の中、いかなる世代の日系人も移住パイオニアの開拓精神で自分の道と役割を切り開いていかなければならない。「国際日系デー」創案者のアンドレス比嘉さんも、タダシ伊佐さんも、きっとすべての日系人にその精神をもっと認識してほしいと願っているに違いない。

注釈:

1. アルベルト松本「ハワイの「GANNENMONO」と「日系レガシー」」、ディスカバーニッケイ (2020年2月7日) 

.名桜大学で修士課程を卒業後、2014年から名護市国際交流会館に勤務。

3. 名桜大学卒業後、同大学の国際交流センターに勤務。

4. この二人の活動の趣旨と熱意については、下記のエッセイを参考:ロベルト・オオシロ・テルヤ、「国際日系デー:2018年6月20日」、ディスカバー・ニッケイ(2018年7月31日)

5. 現在、世界には沖縄県系人は42万人いるとされているが、戦前・戦後移住の子孫である。最大コミュニティーがブラジルで約20万人で、二番目がペルー(約7万人)、三番目がハワイ州(4万5千人)だとされている(推定)。 

世界のウチナーンチュの日」世界のウチナーネットワーク

雄飛 —沖縄移民の歴史と世界のウチナーンチュ」、『海外移住資料館だより』(2014年2月)

ウチナーンチュ分布図」、『琉球新報』(2012年12月9日)

6. 海外日系人協会によると、日系人に関する正式な記念日としては、この「国際日系デー」と「世界ウチナーンチュの日」のほか、第一回ブラジル移民船笠戸丸がサントス港に到着した6月18日を記念した「海外移住の日」がある。これは1966年に当時の総理府(元内閣府)が制定したもので、ブラジル側もこの日を「日本人移民の日」として正式に定めている。

7. ブラジル文協(文化福祉協議会)のサイトには、若い世代による様々なオンラインイベントが掲載されている。

8. 海外日系人協会、「6月18日は海外移住の日!6月20日は国際日系デー!」(3:35)、YouTube.com(2020年6月16日)

Japón Hoy「DIA INTERNACIONAL DEL NIKKEI (20 de junio) / JAPON HOY TV」(2:26) YouTube.com, (2020.6.20)

ブラジル文協はフェイスブックに400人以上のメッセージを掲載した。
O SUCESSO DA LIVE DO DIA INTERNACIONAL DO NIKKEI 2020

 

© 2020 Alberto J. Matsumoto

Andres Isa Andres Tadashi Higa International Nikkei Day June 20

About this series

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。