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シアトルに住む日系アメリカ人のファミリー・ヒストリー

日系二世ベテラン、トシ・トクナガさん ~アメリカ軍として戦った私の戦争体験~

日系二世の退役軍人のフォトブック「The Go For Broke Spirit」より(Shane Satoさん撮影ページ)

「君たちは70年も前のことを聞いているのかい?」

トシさんが第一声で笑いながら答えた。本当にこの人が、70年も前にアメリカ軍兵士としてヨーロッパの激戦地で戦った人なのだろうか。その笑った顔からは想像がつかない。

第二次世界大戦中、アイダホ州のミニドカ収容所で生活し、その後にアメリカ軍に入隊してヨーロッパ戦線へ向かったトシ・トクナガさん(93)。現在は日系移民向けの老人養護施設ニッケイ・マナーで妻のドリーさんと共に静かに暮らしている。部屋の壁には家族の写真や、退役軍人に贈られた勲章の数々、メダルなどがずらりと並ぶ。

トシオ・トクナガさんはワシントン州セレック出身。トシは昔からのニックネームだ。両親は愛媛県からシアトルへ渡った日系移民一世で、第二次世界大戦が始まると他の日系人と同様に、家族でミニドカ収容所へ送られた。当時トシさんは17歳だった。

収容所内の高校を卒業すると、サム叔父さんから「おいでよ(Come on)」と日系二世のアメリカ人青年で構成された442部隊へ召集され、選択の余地もなく入隊した。「冒険に出るような気持ちだったけど、次に何をするのか全く想像がつかなった」

トシさんはまずミシシッピにある基地に送られ、基礎訓練を受けた。訓練を全て終えると、他の日系二世の442部隊とは異なり、パラシュート専門の507部隊へ加わるよう通告を受けた。

その後、ジョージア州にある基地でパラシュート専門の訓練を受け、クイーン・エリザべス船でヨーロッパへ向かった。船はスコットランドに上陸し、その後フランスへと送られた。そこでさらに難度の高いパラシュートの訓練を受け、その後パラシュートでドイツに飛び降り、ライン川での戦闘に参戦した。

軍隊を離れると、トシさんは「ビクトリー船」に乗って帰国した。船はニューヨークに帰着。到着するとすぐに船の端に走り寄り、家族を探した。しかしまだ両親がどこにいるのか知らされていなかった。家族の居場所を知ったのは、シアトルへ戻ってきてから。シアトル日本人バプテスト教会を訪ねて、家族の住所を聞いた。

戦後、退役軍人の式典に参加した際、その場にいたほとんどの退役軍人が白人だったとトシさんは語った。トシさんが従事したパラシュート専門の507部隊は、442部隊とは異なりほとんど白人によって構成されていたため、日系人のトシさんはマイノリティだった。式典の参加者はトシさんが収容所から徴兵されたことを知らなかったが、式典でそのことが伝えられると、その場にいた全員がスタンディングオベーションでトシさんを称えたという。

日系二世部隊として入隊し、激戦地に送られたほとんどの青年たちは、生きて帰って来なかった。「すごいことだよ、今こうして生きているじゃない」インタビューに居合わせたトシさんの姪が語ると、トシさんはまた少し笑ってこう言った。「昔のことだから、今となっては生き残ったなんてことを気にしないよ」

最後にインタビューを終え、トシさんに歩み寄り、握手をした。そのあたたかい手を握りながら、さまざまな気持ちが湧き上がった。この人は一体、どれだけの恐怖を体験してきたのだろうという気持ち。アメリカ社会で英雄として称えられる日系部隊として、日系移民の社会的立場を押し上げてくれたことに対しての感謝。そして、その勇気ある行動に対して、同じ日本にルーツを持つ人間として励まされる思い。

そして最後に感じたのは、様々な差別や困難を経験してきたにもかかわらず、その辛い歴史を振り返ることのできる強さ。日系移民にとって、そうした人生の歴史は彼らの一部であって、全てではないのだ。それが異国の地で差別や戦争を乗り越えた日系移民の強さなのであり、現在のシアトルの日系人コミュニティの基盤になっているのだと思う。その強さを持つ人たちと同じ空間で、面と向かって話をすることができたなんて、なんて貴重な時間だったのだろう。

取材後トクナガさんの自宅にて記念撮影。左から、筆者、ミッキーさん(ドリーさんの兄)、ドリーさん、トシさん、シャーロン・イデグチさん(写真: Nick Turner)

 

* 本稿は、「北米報知」(2018年8月2日付)からの転載です。

 

© 2018 Minami Hasegawa / The North American post

442nd nisei Tosh Tokunaga veteran

このシリーズについて

このシリーズでは、シアトルに住む日系アメリカ人のファミリー・ヒストリーを探ります。シアトル大学の学生、長谷川美波さんとシャーロン・イデグチさんの二人が、共同でインタビューをし、それぞれがストーリーをまとめました。

ここでは、長谷川さんによる日本語のファミリー・ヒストリーを紹介します。シャーロン・イデグチさんによる英語のファミリー・ヒストリーは別のシリーズでご覧ください。

*このシリーズは、日系移民150周年を記念して「北米報知」に掲載されたものです。