ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2011/3/22/3868/

51回目の海外日系人大会と分科会の議論 -その2

>>その1

文科省大臣官房国際課の阿蘇室長からは2010年3月に決定された「定住外国人の子どもの就学緊急支援事業1」等について詳細な説明があった。外国人子弟が義務教育の対象になっていないものの、特にブラジル人集住都市の行政は様々な試みを講じており、日本の学校への受け入れ対策やそれをサポートする仕組みの拡充が展開されている。特に経済危機の影響で、かなりのブラジル人学校が閉校、または経営難で運営の継続が難しくなっているため、国としても未就学対策や公立学校での日本語学習サポートを重要視している。ただ、外国人父兄のモチベーションや意識が低いという課題、またコミュニティー内に手本になる先輩大学生・大卒の存在があまり多くないことも、教育への関心の低さを招いているようだ。

フランスのピレー千代美、ブラジルの二宮教授、ドイツのトルン紀美子(国際結婚を考える会)、そして筆者。

在京ブラジル大使館のパトリシア・コルテス書記官は同胞の不安定雇用の問題にふれながらも、「日本語の取得なしには社会統合は無理であり、大使館としても以前から口を酸っぱくして言っている」と強調した。また、子弟の一部がセミリンガルになっている状況、そしてブラジル学校(コミュニティー学校)の週1時間ぐらいの日本語教室の授業では、到底バイリンガルとして位置づけるまでの習熟度は見込めないと厳しく指摘した。

午後のセッションでは、内閣府定住外国人施策推進室の宮地参事官が政府として全体の支援施策を説明し2、後半の2時間は参加者ともかなり有意義な意見交換、質疑応答が展開された。

ここで指摘しなくてはならないのは、在日外国人団体の幹部の一部は政府や政策決定の仕組み等、各種事業の管轄や施策の実施方法についてまだ十分に理解していないことや、実態や社会状況に対してもかなりの不勉強が見られたことである。

いずれにしても、これからの「海外日系人大会」は国内の日系コミュニティー(南米やフィリピン等アジア諸国の日系人も含むことになるであろう)や留学生というユース会議との連携強化が必要になるのかも知れないが、そうなってくるとこれまでのアメリカ大陸中心の「海外日系人」とは異なる側面がでてくる。また、以前移民した一世やその子孫の存在も世代的に代わってきており、欧州や北米の先進国、日系企業の主な投資先であるアジア諸国の日本人駐在員というこれまでとは違った概念の日系人、国際結婚の日本人配偶者、その子弟等が大きな存在になってくるのかも知れない。

そして、日本の日系人、南米出身日系就労者、定住日系外国人、言い方はさまざまだが、彼らには多様な課題や今後議論していかねばならない事項があり、海外日系人協会は今後もそれなりの役割が期待される。しかし、外国人は日本国内の居住者であるため、基本的には自治体や地域社会の一員として生活しており、海外の新一世や日系人とはリンクはしているものの異なった現実や優先課題を抱えていることを認識しなければならない。

そうした観点からも、国内の日系団体ネットワーク会議等は一つの試みであるが、その前にやはりそうした団体が信頼できるのか否か、どこまできちんと活動をしているのか否か、コミュニティー内でどのような役割を果たしているのか、また何を提案・要望しようとしているのか事前に協議し利害調整すべきである。こうした団体の一部は、どのような課題でも政治問題化することも、外交問題化することも躊躇せず行動することもあり、これまでの言動をみる限り、自国の大使館や領事館の担当者を正面から侮辱したり、本国外務省にあまり根拠のないことを直訴したり、制度的なルートを無視することもよくある。

グローバル化、国際化はこうしたリスクも踏まえて大会を運営することになる。

文科省の就学支援事業の概要

注釈
1. http://www8.cao.go.jp/teiju/index.html
http://www8.cao.go.jp/teiju-portal/jpn/index.html 

2. これまで日系相談センターの開設、在日日系人のための生活相談員セミナーの開催、JICE委託で神奈川県内の「日系就労準備研修」の実施等である。
http://www.jadesas.or.jp/publication/08network004.html#P1 
http://www.jadesas.or.jp/consulta/index.html 
http://www.jadesas.or.jp/nihongo/08shuro_jyunbi.html

© 2011 Alberto J. Matsumoto

デカセギ 外国人労働者 在日日系人
このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。

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執筆者について

アルゼンチン日系二世。1990年、国費留学生として来日。横浜国大で法律の修士号取得。97年に渉外法務翻訳を専門にする会社を設立。横浜や東京地裁・家裁の元法廷通訳員、NHKの放送通訳でもある。JICA日系研修員のオリエンテーション講師(日本人の移民史、日本の教育制度を担当)。静岡県立大学でスペイン語講師、獨協大学法学部で「ラ米経済社会と法」の講師。外国人相談員の多文化共生講座等の講師。「所得税」と「在留資格と帰化」に対する本をスペイン語で出版。日本語では「アルゼンチンを知るための54章」(明石書店)、「30日で話せるスペイン語会話」(ナツメ社)等を出版。2017年10月JICA理事長による「国際協力感謝賞」を受賞。2018年は、外務省中南米局のラ米日系社会実相調査の分析報告書作成を担当した。http://www.ideamatsu.com 


(2020年4月 更新)

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