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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

大学で出会った日系子弟

直接の教え子ではないが、学生時代から知っている初期の在日日系大学生。左から、ブラジル国籍の柳瀬フラビアちゃん、ペルーの橘谷エルナン君、右側はペルーの山元(旧姓:チャベス)トレイシーちゃん。3人とも立派な社会人で、誇らしい手本になる存在である。(2009年10月)

南米からの「日系デカセギ労働者」は1980年代後半から来日し始め、1990年の入管法改正以降大量に入国するようになった。当初は単身でくることが多かった日系人たちも、次第に日本長期滞在を考えるようになり、家族を呼び寄せたり、日本で家庭を築くようになった。そのため、日本の学校に通う子弟も増え、2005年頃から外国人支援窓口では高校進学の相談が増えている。 

同じ頃、日系人、主にブラジル国籍の子供たち(小学校と中学校)の未就学問題が話題になった。未就学児童増加の背景として、憲法26条1が定めている義務教育の権利と義務規定が外国人には適用しないことがあげられるが、外国人が集住している自治体や民間団体は積極的に彼らの就学をサポートしている。例えば、教育委員会は通訳員や教員をサポートするスタッフを派遣したり、父兄とのコミュニケーションを少しでもスムーズにするため、よく使用される資料(学校からの通知等)を多言語に翻訳するサイトも整備された2

そうした支援と努力の甲斐があって、現在では殆どの日系人子弟は義務教育だけは終えることができていると推測できる。しかし、日本人と比べると高校進学率や卒業率はまだまだ低く50%前後である3。とはいえ、大学進学している日系子弟は確実に増えており、この状況は今後徐々に改善されていくことが期待される。

神奈川大学スペイン語学科の教え子、坂本武君。偶然にも彼の祖父(坂本エドワルド氏)と以前から親交があり、2014年に大学の授業で出会った。  

筆者は、2007年から地方のいくつかの大学でスペイン語の非常勤講師として教鞭をとっているが、2010年頃から担当しているクラス(ビジネス・スペイン語、スペイン語表現法等)を通して、アルゼンチン、ブラジル、ペルー国籍の学生と出会うようになった。また、都内の大学で単発の特別講義を行った際にも、留学生でない中南米出身の学生と会う機会が増えたのもこの頃である。

話を聞くとみな、親が90年代にデカセギ就労者として来日し、彼達自身は日本の公立学校に通い、その多くは、様々な苦労と困難を乗り越えて進学した若者たちであった。親とのコミュニケーションがうまく取れなかったり、教師には文化的違いなどや自分の思惑をうまく理解してもらえなかったり、でもそのような時に、ちょっとしたきっかけや目をかけてくれた教員の助けもあって、自分の道を切り開くことができたものたちである。中には、たまたま参加した英語の弁論大会で入賞したことで、日本人が不得意なところをカバーできたという体験によって、自分に自信をもつことでき、前進するできたという学生もいた。

これまで20人近くの日系子弟らと関わってきたが、その7割弱が社会人として立派に活躍している。当然ではあるが、大学を無事卒業しても一般の日本人学生と同様にみんながいい職業につけるとは限らないが、高等教育を受けることは就職のプラスになることは間違いない。

一部の研究者はよく実態を見ずに安易に日本の外国人子弟はバイリンガルで多文化力があるというが、必ずしも正しいとは言えない。日系子弟にとっては、学習言語である日本語を、日常会話だけではなく、読解力、会話力、文章力をマスターすることは容易ではない。そして、少なくとも高校ぐらいは卒業しないと日本語で新聞も読めないし、その内容も理解できないのである。

筆者の出会った学生らの多くは、スペイン語という言語の授業を通してだ。親の母語である言語であるため、彼らにとっては多少有利であったかもしれないが、第一外国語であることにはかわりはなく、日本語をベースにしてスペイン語を学習する。義務教育から日本語で学習してきた日系子弟らにとって、あくまでも母語は日本語で、親の出身国の言語は外国語に過ぎずない。たとえ家でスペイン語で日常会話をしている学生でも、非常に限られたスペイン語のボキャブラリーしか持ち合わせていないのが現状である。親が熱心で、スペイン語の通信教育でも受けていない限り4、きちんとした表現力(会話力、文書力)を身につけるのは難しい。中には、日本で勉強するスペイン語では不十分と判断し、ペルーに「留学」して現地の大学が提供している外国人向けのスペイン語コースを受けに行ったものもいる。日本語であろうがスペイン語であろうが、その国で教育を受けても長年の努力が必要である。

静岡県立大の教え子、ブラジル出身の関かおりちゃんとペルーの前田ヒデキ君。かおりちゃんは、2017年から社会人で、ヒデキ君は、スペイン語と英語を磨くためにリマに私費留学。2019年3月に卒業予定。

中南米諸国の識字率は90パーセント以上であるが、高校修了率となると豊かな都市部では7割前後、農村や所得の低い地区だと5割以下でしかない。残念ながら小学校さえ履修していない者もまだかなりいる。一番の問題はこれらの国の中等教育の教科内容があまりにも乏しく、高校卒業後の専門学校も少ないことだ。大学も一部の名門国立や私立以外は、社会的にあまり認められていないのが現状で、これらの大学を卒業してもいい職に就ける保証はない。高等教育機関が排出する人材は、その学問や専攻が社会や企業が求めているものとのミスマッチがあまりにも大きいのである。せっかく卒業しても、やりたいとされている職がないのである。教育政策と産業政策があまりにも乖離している実態である。

また基礎的な教育水準をみても、OECD諸国の「学習到達度調査 PISA(2015)」によると、日本はシンガポールとともに上位を占めているが、南米ではチリが50位前後で、その他の国は60位前後である5

日本の義務教育の修了率は98%で高校が96%、大学進学率は54%、専門学校の16%を含むと7割の若者が高等教育を受けている。もちろんのこと、みんながいい学校に行って良い成績を収めているわけではないが、かなりバランスのとれた教育水準に到達しているといえる。 

移民の子弟にとって、日本で高等教育を受けることは、大きなチャンスである。2017年現在、外国人留学生の総数は29万人6で、特に近年は、アジア諸国、特にベトナムからの留学生が飛躍的に伸びている。留学生の多くは私費で来日し、多大な努力をしながら日本語を勉強し、大学に進学し、一部は大学院にまで進む。そして学位取得後は、日本で就職するもの、本国で職を得るもの、さらには他国で働くものと様々である7。日本の企業の採用方法、昇進制度、賃金体系等がこうした人材の確保を遠ざけているが、日本での就職希望者が増えている。

筆者が出会ってきた日系子弟は親子で多大な努力と熱意を費やして大学進学を果たしたものがほとんどである。中には、かなりの借金を抱えているものもいる8

実際、いくつかのペルー人コミュニティー主催の「高校・大学進学セミナー」に講師として足を運んだことがあるが、親の財力の無さがネックになっていることが多い。未だに本国に帰るという未練を持っていたり、家計のやりくりにも問題がある親も多いが、一番の問題は一般的に貯蓄の習慣がなく、特に教育に対する費用負担(投資)の意識が薄いことだろう。

日本は、公立であれば高校まで無償で進学できるが、親が負担しなくてならない関連費用はある。大学進学となると、受験のための塾の費用なども考えなくてはならない9。実際に公立大学へ進学したとしても、4年間の授業料だけでも300万円はかかる10。この半分だけでも貯金で補うことができれば、大学進学の可能性も広がってくる。しかし、中には一部の生活資金を含めすべての費用を借金に頼ってしまうものもいる。そうなると、社会人になっても、30代半ばまでローンの支払いに追われている11。それが原因で留学や転職も断念したり、ときには家庭を築くにも障害になってしまう。一般の日本人学生も同様である。

だからこそ財源のことも事前に検証したうえで、大学進学というものをもっと真剣に考えなくてはならない。大学キャンパスの見学だけに魅了され、そのときの勢いとモチベーションだけで専攻を決めるのはとてもリスキーな行動である。いずれ社会人になったときのことも冷静に見極めて判断しなくてはならない。

今後、労働市場が求める人材とそのスキルに見合った能力を磨き、日系子弟としてのバリューをもって自分なりの道を切り開いてほしいものだ。不得意であっても関心があるのであれば、幾つかの切り口や他者の意見等も参考にしながら挑戦するのも悪くないかも知れない。また一般の日本人学生と同じように、地味にその時々に与えられたチャンスを大事にするというチョイスも素晴らしい選択である。日本では4年制の大学を卒業しなくても、分野によっては2年間の専門学校でも就職につながることが多い12。そこから業界内の資格を取得して技術的にスキルアップを目指して昇進することも十分可能である。

これまで出会ってきた南米日系子弟にはできるだけ声をかけて、相談に乗ってきた。筆者もアルゼンチンの日系二世として多くの先輩や教員、そして素晴らしい両親に支えられたおかげで、高等教育を受けることができ、国費留学生として来日することができたからである。みんなが高い教育を受けることができないことも承知しているが、せっかく大学に進学したのであれば最大にその機会を活用し、そこから自分の能力を発揮できる選択をして欲しいと願う次第である。

注釈:

1. 憲法26条第1項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。(口語「憲法」抜粋、116頁、自由国民社、2004年)

「すべて国民」は、「国民」すなわち日本人に対してのことであり、外国籍の児童には適用しない。とはいえ、実態はかなり積極的に行政当局が対応している。

2. CLAIR(クレア)一般財団法人自治体国際化協会のサイトには多言語で日本での生活情報を提供している。教育の部分をクリックすると詳細に関係手続や学年の特徴が説明されている。

3. 調査にもよるが、50%~60%が現在の高校進学率である。
田中宝紀、「外国人の子どもの高校進学率60%に留まる事態も-格差是正願い、支援者らが入試制度調査」(Yahoo!ニュース、 2017.01.30)

4. 日本のペルー人児童や生徒向けには、PEAD KYODAI (Programa de Educación a Distancia 通信教育)がある。小中の基礎的なカリキュラムで、ペアデ・ウニードスが日本で運営している。

5. PISA調査は3年毎に行われ、72カ国で54万人が調査対象になっている。
国立教育政策研究所(NIER)

6. 2017年6月現在、法務省の「在留外国人統計」によると、留学生ビザで滞在しているのは291,164名で、最も多いのが中国人の114,967人、それについでベトナム人69,565人である。ブラジルからは455人、ペルーからは128人である。

7. 近年、外国人学生による日本での就職希望者は全体の6割を占めているが、実際内定を得て在留資格変更をしているのは年間約20,000人しかいない。

外国人留学生の就職率は〇〇%? 2016年度 最新情報」(グローバルパワー・ユニバーシティ、2017.11.24)
なぜ進まない 外国人留学生の「就職」」(NHKニュース、2016.7.14)

8. 「奨学金」と呼ばれているが、のちに返金しなければならず、教育ローンと同じである。。日本の大学生も、公立・私立を問わず4割がで金融機関に借りている。ローンをしてる学生のうち、授業料の高い私立に行っているのが全体の7割を占める。

加藤葉子「奨学金で苦しまないためにできること - (1)知っておきたい返済の過酷さ」(マイナビニュース、2016.6.3)

9. 公立の小学校でも、毎年35万円ぐらいの費用負担(給食や教科外活動、図書費等)が必要である。中学と高校になると毎年40万円は必要になる。

加藤葉子「小学校生活、6年間でかかるお金はいくら? - 家計を助ける制度も紹介」(マイナビニュース、2017.3.9)

その他、塾代や習い事にもかける費用として、毎月2~3万円がかかる。

加藤葉子「塾・習い事にはいくらかかる? - お金が必要な"要注意タイミング"も解説!」(マイナビニュース、2016.10.13) 

10. 日本政策金融公庫の「教育費に関する調査結果

11. 安田賢治「『奨学金地獄』は本当だった! 学生の2人に1人が借金の現実」(President OnLine, 2017.3.18)

12. 高卒106万人の54%(57万人)が大学(短大も含まる)に進学し、16%(17万人)が専門学校に進学している。基本的に2年間のコースだが、専門や専攻によっては大学入試より競争が厳しく、卒業するにはほぼフルで勉強し、実習をしなければならない。2年間で200万円前後の費用がかかるが、かなり高い実践力を身につけることができる。

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ナレッジステーション

 

© 2018 Alberto J. Matsumoto

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About this series

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。