はじめに:日本人からアメリカ人へ 第2次世界大戦中に執筆された「菊と刀」で人類学者のR.ベネディクトは「日本人はアメリカがこれまで国をあげて戦った敵の中で、最も気心の知れな い敵であった。大国を敵とする戦いで、これほどはなはだしく異なった行動と思想の習慣を考慮に置く必要に迫られたことは、今までにないことであった」と述 べている。それほど日本人とアメリカ人は当時「異なった」存在と認識されていた。そのような日本人の中で、日本を離れアメリカに定住し、時代を経て日系ア メリカ人となった人々が存在する。世代を経るごとにアメリカ人として文化変容していったものの、どこかに日本的要素をとどめてきた彼・彼女らの日本に対す る思いはどのようなものだったのであろうか。日系アメリカ人の日本観とは個人の内部から自然発生するものではなく、周囲の政治的、経済的、社会的環境に よって形成されるものであるが、世代ごとに比較的明確に、そのスタンスの違いが見えてくる。
一世:故郷日本と居住国アメリカの狭間で
一世にとって日本とは自分の故郷であり、天皇の居る国であり、災害や敗戦で窮乏したりすれば救援物資を送るといった想像の共同体であった。一世はア メリカでの定住戦略のために互助組織である県人会や日本人会を形成した。ジャパンタウンやリトルトーキョーなどの日本人町はアメリカにおいて日本人(一 世・二世)が暮らす民族的飛…