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アメリカの日本語媒体

第5回 1992年創刊『U.S. FrontLine』 - 全米をカバーする情報誌

広大なエリア、幅広い層の読者

ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークを中心に全米に配布されている『U.S. FrontLine』。

これまで紹介してきた日本語媒体は、ロサンゼルス、シアトル、ニューヨーク、サンフランシスコのいずれか、または複数の特定の地域にフォーカスしていたが、今回紹介する日本語の無料誌『U.S.FrontLine』は、日本人コミュニティーが存在する全米の多くの地域に配布されている。

「カリフォルニアのロサンゼルス、サンフランシスコ周辺、ニューヨークの3地域での配布数が最も多く、それ以外にもジョージア州アトランタ、イリノイ州シカゴ、オハイオ、さらに数年前にカリフォルニアからトヨタが本社を移転させたテキサスなど、全米各地の日系企業が多いエリアに配布しています。読者は基本的に日本からの駐在員ですが、その枠にとどまらず、ビジネス情報、教育、法律、健康、旅行、エンターテインメントまでをカバーしているので、アメリカ在住の日本人読者の幅広い層に読まれています」と説明してくれたのは、同誌編集長の齋藤春菜さん。

同誌がユニークなのは全米をカバーする媒体という点だけでなく、裏表紙からは中国語の別の雑誌が始まる、2種類の雑誌が合体している点だ。その中国語の雑誌『J-goods』は、在米中国人向けに日本の商品や文化を紹介するもの。数年前からの『J-goods』との合体によって、全米の中国系マーケットにも『U.S. FrontLine』は配布されることになった。

私の記憶では、『U.S. FrontLine』の本社はかつてニューヨークにあった。その時は現在のレターサイズより大判で、かなり長い間、週刊誌として発行されていた。その後、同誌はIT企業の傘下に入り、本社をロサンゼルスに移転、現在は隔月刊誌となり、毎号32ページから40ページのボリューム。雑誌自体の発行が2カ月に1回、また誌面が限られていることもあり、雑誌に収まりきらない情報や最新のニュースや告知などは頻繁に更新されるウェブサイトに掲載されている。

雑誌のコンテンツは、毎号数ページのテーマを絞った特集記事、他にエッセー、教育、英会話といったアメリカ生活に関する連載コラムだ。読者に人気があるのはどのような記事だろうか。「雑誌から人気記事がどれかを知るのは難しいのですが、オンラインの記事での閲覧数から見ると、教育関係の記事への関心度が高いようです。他にも、移民法や雇用ルールに関する記事など日系企業にとって重要な情報は多くの方に見ていただいています」。

紙媒体のメリットとは? 

特定の地域にフォーカスしていない全米版の媒体であることから、「今、アメリカで何が起こっているのか」というテーマを取り上げることが鍵になると齋藤さんは話す。「特集企画は、営業を含む雑誌に関わっている3、4名で話し合って決めています。常にオリジナルで新しい情報を読者に届けるように心がけています。世の中の動きや注目度の高いテーマは何かをよく見て、たとえすでに知られているような情報であっても違う角度から切り込むことで面白いと思ってもらえるように、飽きられないように工夫しています」。

また、親会社がIT企業であり、IT、メディア以外に人材紹介、会計アウトソーシングの事業も行っていることから、「今後は弊社の他事業部のスタッフが持っている専門知識も、誌面に応用していきたいと考えています」とのことだ。

「ウェブへの完全移行には精査が必要」と語る齋藤さん。

前述のように『U.S. FrontLine』の場合、雑誌だけでなくより豊富で最新な情報が掲載されているウェブ版も運営しているが、全てをウェブにする計画はないのか齋藤さんに聞くと、次のように答えた。「雑誌は“これ(特定の記事)を見たい”と思った読者に手に取ってもらえるものです。毎号読んでいただいている読者は雑誌をピックアップすることが習慣になっているので、確実にその情報を届けることができます。一方で、オンラインの世界では、人々は自分が欲しい情報を検索して不特定のウェブサイトにたどり着くので、必ずしも『U.S. FrontLine』のサイトに来てくれるとは限りません。ウェブだけに絞ってしまうと読者を限定してしまうことにもなってしまいます。時代の流れとしてはウェブに完全移行するという考え方もありですが、そのためにはデメリットを克服できるような運用方法を精査する必要があると考えています」。

さて、斎藤さん自身もまた、同誌の読者と同様に「アメリカで生活する日本人」の一人だ。「アメリカで働きたいと思って、今の仕事に応募して、2017年6月に入社しました。もともと日本の出版社で雑誌の編集をしていました。日本では8名くらいの編集スタッフで雑誌を作っていたのですが、現在は、雑誌もウェブ版も編集作業は基本的に私一人で行っているので、以前より責任重大です」。

編集者としては、常に四方にアンテナを張り巡らせている。「広告のクライアントである日系企業の方にお目にかかる機会も多いので、その際には日系企業にとって何が関心事なのか、何が周囲で起こっているのかについてお話を伺うようにしています。あとは、アメリカのニュースはもちろんですが、日本のニュースもオンラインで追いながら、最新のトレンドに遅れないように努めています」。

全米をカバーする日本語の無料情報誌は『U.S. FrontLine』を置いて他にない、唯一無二の存在だ。これまでに形状や発行頻度含めて、何度か「変身」しながら発行されてきた同誌の今後を、ウェブ版との共存や棲み分けも含めて見守っていきたい。

『U.S. FrontLine』公式サイト:https://usfl.com

 

© 2021 Keiko Fukuda

Japanese language magazine U.S. FrontLine

このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。