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法改正によるアジア諸国の技能実習生がさらに増加〜日系就労者の新たな試練

2019年4月から新しい入管法が実施される。これまでの「技能実習」という在留資格に加え、「特定技能」というビザが新たに設けることで、以後数年かけて37万人の外国人労働者を日本へ受け入れようと試みている。人手不足が深刻な業種や部門では、この特定技能というビザに関心がもたれている。このビザは滞在期間が現在の3年から5年へと延長され、一定の諸条件をクリアすれば6年目からは今は認めらていない家族の呼び寄せも可能になるからだ。日本と協定があるアジアの8カ国からの外国人のみが対象となっている。この法改正で最も注目されているのが、これまで原則禁止されていた単純労働でのビザ取得が事実上解禁されたことである。

1990年(平成2年)の入管法改正では、バブル経済の影響による人手不足解消が大きな政策課題で、中南米諸国等の日系人が対象となっていた。日系二世と三世及びその家族に限定されていたため、その結果、日本に世界3位の日系社会ができあがった1

この入管法のもと日本へやってきた日系人は、血縁関係をもとにした通称「日系ビザ」といわれる在留資格を保持している。このビザは、永住権も比較的取りやすく、就職先の制限もなく、転職も自由である。当初は、自動車や電子産業の工場などで働く者が多かったが、次第にその関連業界や食品加工、介護などのサービス部門に従事する日系人が多くなった。2008年には39万人の日系就労者が日本に在留していた。

しかし、リーマンショックや2011年の東日本大震災などの影響で2012年には26万人になり、現在は24万人台で落ち着いている。数年間のうちに在日ブラジル人の40%以上、ペルー人20%近くが本国へ帰国した。とはいえ、現在も日本で生活を続けている7割近くの日系ペルー人は、すでに永住権を取得しており、帰化申請する者も増えている。

この30年間、日本の労働市場は様々な変化を遂げ、その変化に応じ、外国人就労者の受け入れ人数も調整されてきた。また、彼らの居住地にも変化がみられるようになり、当初は各産業がある地方都市やその郊外に居住することが多かったが、近年はサービス業が集中している都市部への転居が目立つようになった。

2013年から2017年の都道府県別の外国人増加率は興味深い。熊本県、福島県、島根県、埼玉県、鹿児島県では30%前後、東京都や愛媛県、千葉県では25%の増加率を記録している。この増加は、日系人就労者ではなく、アジア諸国からの技能実習生や留学生によって説明される。2018年6月の統計によると、日本には263万人の外国人が在留しており、うち220万人はアジア諸国(中国74万人、韓国45万人、ベトナム29万人、フィリピン26万人、ネパール8.5万人)からで、南米諸国出身者は、ブラジル人が19万人、ペルー人が4.8万人を含む25万人にすぎない。

外国人雇用統計による労働者数と在留資格比率

ブラジル人は、群馬県の大泉町や太田市、静岡の浜松市、菊川市、磐田市等、愛知県の豊田市、豊橋市、小牧市等、岐阜県の美濃加茂市、可児市、三重県の鈴鹿市をはじめ、神奈川県の愛川町や綾瀬市、横浜の鶴見区や秦野市にもかなり集住している。中でも、コミュニティー向けの様々な商店やサービス、派遣会社が整っている群馬県大泉町や浜松市等は、代表的なブラジルタウンとしてよく知られている。ちなみに、人口2万の大泉町には、7500人(37%)の外国人が住んでおり、そのうち4300人のブラジル人である。おそらく日本最大のブラジル人集住率であろう。

また、ここ最近ブラジル人の集住が増えているのが、人口17万人の島根県出雲市である。島根のは、出雲市は出雲大社のある土地としてよく知られている。現在、出雲市には4700人の外国人居住者のうちブラジル人が3429人2を占め、このうち約2000人近くはここ5年間に転住してきた人たちである。

日系ブラジル人が集住しているところは他にもたくさんあるが、出雲市のブラジル人の特徴は、数千人に及ぶブラジル人が出雲村田製作所と関連会社の工場で働いていることだ。このように外国人居住者が一つの企業またはその関連会社に集中しているのは珍しい事例で、いくつかのメディアにも取り上げられた。その記事のいくつかを見ると、ブラジル人は出雲市の住まい環境や治安の良さ、首都圏に比べ賃貸が安いことや子供の教育環境などを評価している。長年日本に住んでいるブラジル人がほとんどで、近年日本へ移住してきたブラジル人は少ない。出雲市は、他の自治体のノウハウなどを活用し外国人向けの行政サービスも整っており、急な人口変動にもうまく対応しているようだ。

出雲市のMr. Marketという店。ブラジル食材コーナーがある。(写真提供:モデル・定住旅行家の倉下絵里子 ちきゅうの暮らしかた

現在日本各地で、多くの外国人労働者の姿が見かけられるが、多くの業種、地方都市や農村部では未だに人手不足が深刻である。そのため、日本政府は昨年新たな入管法改正を行った。2019年4月から施行されるこの改正法は、技能実習制度や特定技能等のビザで入国する外国人労働者が増えると期待されているが、多くの問題が指摘されている。実際、日本と2カ国間協定のあるアジア諸国からの外国人しか利用できず3、これらのビザで入国する就労者は、18歳から35歳、そのほとんどが20代である。さらに彼らの平均賃金は、現在の南米日系就労者の半分にしか満たない。、その殆どがこれまで日系人が従事してきた職場には、すでにベトナム人やネパール人、フィリピン人やインドネシア人がこの技能実習制度のもと入国し、就労している。実習生という立場のため、就労しながら技能を身につけることが求められ、支払われる手当(賃金)は他の外国人や日本人よりかなり低い。実際の手取りは10万円かそれ以下なので、同じ外国人就労者として日系人がこれまでの賃金水準などを維持することはかなり困難になる。人手不足であっても、需給バランタスに沿って給料が上がるとも限らず、むしろ外国人労働市場のなかでは過当競争状態になる可能性が高い。

それに技能実習のビザで来日するアジア系就労者は、3年-5年という期限付きでそれも同伴が認められないため単身でやってくる。その分、彼らはハングリー精神が強く、借金の返済や生活費を補うために、限られた収入を可能な限り本国へ仕送りする根っからの「出稼ぎ」労働者である。この数はすでに25万人を超え、2019年4月以降は一年間で約10万人近くが入国する予定である。日本語も本国で基礎的な実務用語は学んでくるので、彼らは日系就労者にとってはとてつもない競合相手である。

出雲市にあるDon Quijoteという大手小売り店。ここにもブラジル食材コーナーがある。(写真提供:モデル・定住旅行家の倉下絵里子 ちきゅうの暮らしかた

これまで日系人は様々な支援の対象になってきたが、アジア系就労者に負けないためにもこれからはもっと自立できるよう日本語力を強化しなくてはならない。日系人は家族とも滞在できるし日本で家庭を設けることもできるので、これまで以上に子弟の教育に尽力すべきである。また、日系ブラジル人の集住化は決してメリットばかりではないが、ここ数十年の共生で多くのことを学んできたことも確かなので、是非そのプラス部分を出雲市だけでなくほかの地域でも生かしてもらいたい。

注釈:

1. 1番はブラジルで180万人、2番はアメリカで110万人、そして3位が日本で、ブラジル国籍19万、ペルー国籍4.8万人を含む24万人の日系人が在住している。

2. 人口比率では2.7%に過ぎないが、出雲市在留の外国人2番目に多いのが中国人309人であり、10倍以上のブラジル人が住んでいることになる。

3. 外国人技能実習機構 OTIT-Organization for Technical Intern Training 
   多言語で情報提供しており、相談窓口も設置されている。


参考資料:

- 倉下絵理子、「島根の出雲に集まる日系ブラジル人」、(Nikkeiy Trendy Net, 2018.09.11)

法務省在留外国人統計

大泉町  

出雲市 ようこそいずも「ポルトガル版」 
      しまね国際センター/外国人支援センター  

- しまねのひと「ブラジル人に日本語を教えるJICA元ボランティアの木谷恵子さん」、毎日新聞地方版、2017.8.12.

 

© 2019 Alberto J. Matsumoto

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