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特別座談会: 四世ビザはどうあるべきか?=日伯交流の将来担う人材育成の枠組みとして=

第4回 人材育成システムとしての四世ビザ

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派遣会社は悪者?

【深沢】その経験を土台にして、日本のデカセギ問題やビザの在り方に関して、もっとこうした方がいいとか提言みたいな話はありますか。

【島野】提言と言うよりも、批判ですね。

【深沢】いいですね(笑)、大いに結構ですよ。

【島野】四世ビザの主旨っていうのが何なのか、よくわからない。法務省のサイトを見てても、ワーキングホリデーから取り入れたものとか、労働不足の対策とかいろいろ言われているけど、制度の主旨はなんなのかっていう点をもっと明確にしてほしい。

【深沢】「日伯の懸け橋的人材を育てる」みたいなことを謳っていますよね。

【島野】いやいやいや(笑)

【永井】少なくとも建前としてはそうなってますけどね。

【深沢】8月5日に行われた下地幹郎衆議院議員の講演会で分かったことの一つは、今回の四世ビザをテストケースにして上手な交流のシステムを作り、五世、六世まで将来的に拡大できるような人材育成の枠組みにしたいという制度設計の意図ですよね。つまり、これがうまく行けば、あと今後30年、40年間の日伯交流を支える人材育成の土台になるということ。

下地議員が熱い想いを込めて説明していたことからは、四世ビザは技能実習制度とは大分違うものとして制度設計されていることが分かりました。

ただし、その講演会の時点では、サンパウロ総領事館からは四世ビザが一件も発給されていないという事実には驚きました。そして下地議員ですら、4月から申し込みが始められたはずの支援サポーターに、その時点で何人登録されているのか分からない、という事実もちょっと衝撃的でした。

つまり、四世ビザという制度は事実上、まだ運用が開始されていない訳ですね。そこで思ったのは、日系社会の将来を左右するような大事な枠組みになる可能性があるだけに、ただ単に日本政府にオンブにダッコでお任せするのではなく、日系社会側としても何かできることがあれば積極的に手伝うべきではないか、そんな感じがしました。

技能実習制度は、毎年1万人が日本国内で行方不明になるような欠陥のある制度であり、そのような制度からは日伯交流の次世代を育てることは不可能だと、下地議員は考えていると言っていました。

それを叩き台にして考えた時に、もっと理想的な人材育成システムとなるためには、日本滞在に適した人を最初から選んでビザを与える必要がある。だから取得要件が厳しくなっているという説明でしたよね。

国外就労者情報援護センター(CIATE)の専務理事・永井康之さん

【永井】下地先生は「四世を丁寧に育てたい」と何回もおっしゃってましたよね。その辺の熱い想いは昨年講演されたときとまったく同じ。ただ7月に開始された四世ビザの制度の要件は、昨年に講演されたときの内容より、だいぶ厳しくなっていたので、それをもっと緩くして欲しいという意見が続々と質疑応答で出ていました。

【深沢】あと気になったのは、「派遣会社も支援サポーターも仲介料をもらってはいけない」と禁止した点。派遣会社が多々問題を起こしたのは事実だと思うので、下地議員の言い分は良く分かるんです。ですが現実的に考えた時、それでは誰が四世を集めて、日本で労働者を必要としてる企業と結びつけて送りこむのか?

今の制度では、本人が法務省のサイトで公開されるサポーターリストの中から、適当な人を選んで連絡をとり、その人から仕事を紹介してもらう訳ですよね。つまり、自分で全てやるしかない。しかも、肝心のそのサイトがいつから公開されるのか、まだ分からないという状態なんですよね。

たとえサイトが公開されても、どのサポーターがどんな仕事を紹介してくれるのか分からないから、四世本人がやみくもにサポーターに聞きまくるしかない、という状況もあり得る訳ですよ。日本語も良く分からないのに…。

派遣会社に悪い点があったとしても、排除するのではなく、それへの管理を厳しくする方向にして、彼らが仲介料を取ってどんどん四世を送り込むという形にした方が、制度としてはスムーズに運用されるような気がしますが、皆さんはどう思われますか?

【永井】90年代にデカセギブームが起きた頃とは違って、今のブラジルの日系人には誰かしら日本で暮らした経験のある知り合いがいます。SNSを通じた口コミもすごいですし、すでに、悪い派遣会社には人が集まらなくなって自然と淘汰されるような構造があると思います。

リーマンショックから2015年くらいまでの訪日就労者が低迷していた時期に、悪質な業者はほとんど淘汰されてしまいました。ここのところのブームでまた悪質な業者が出てくる可能性もありますが、私はむしろ雇用主がサポーターになることで待遇の悪い就労先に縛られるようなことにならないか懸念しています。

【深沢】なるほど、たしかにそうですね。その他、下地議員の話を聞いて、どんなことを考えられましたか?

【永井】下地先生は非常に丁寧に制度の趣旨を説明してくださっていたと思います。ただ、4千人の上限まで来て欲しいという話がありましたが、制度と実際の四世の方の需要や状況との間のミスマッチがとても大きいので、この条件で日本に行ける四世の方が果たして何人いるか心配になりました。

第5回 >>

 

* 本稿は、ニッケイ新聞(2018年8月23日24日)からの転載です。

 

© 2018 Masayuki Fukasawa / Nikkey Shimbun

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このシリーズについて

四世ビザが成功して五世、六世まで訪日就労しながら日本文化を学べるようになるならば、この査証制度は日系社会の将来を左右する大事な制度ではないか――そんな問題認識に基づいて、元デカセギ子弟で帰伯後にブラジルで弁護士になった島野パトリシアさん、デカセギ対応の最前線にいる国外就労者情報援護センター(CIATE)の専務理事・永井康之さんを迎えて、ニッケイ新聞の深沢正雪編集長と座談会を行った。

(※この座談会は2018年6月に実施され、その後の事情の変化を反映するために加筆訂正したもの。ニッケイ新聞からの転載。)