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デカセギ・ストーリー

第三十話(後編) ジョアナの大冒険

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生まれ育った農村から一度も離れたことがなかったジョアナは、49歳の時、娘のルイーザがサンパウロの看護学校に通うことになり、落ち着くまでの間、サンパウロに一緒に住んだ。

郊外に小さな家を借りて、満員のバスで通勤した。娘のためにと、慣れていないことにもいろいろと挑戦した。田舎とは全く違う都会の生活は、ジョアナにとって大冒険だった。

半年後、ルイーザは二人の先輩と同居するようになった。ジョアナは自分の役割は果たしたと、安心して田舎に戻り、再び畑仕事と家事の生活に戻った。

ルイーザは、看護学校卒業が近づいた頃、紹介したい人がいると、実家へ戻ってきた。一緒に来た男性はタケシタ・ノブで、ルイーザと同居していたカオリの兄であった。

ノブは、10年前から日本で暮らしていた。日本の大泉町にある自動車工場で働き、デカセギのサッカーチームを作り、日本で充実した生活を送っていた。親戚の結婚式に招かれ、ブラジルに2年ぶりに戻って来たとき、二人は出会った。お互いに一目ぼれだった。「ルイーザさんと付き合ってもよろしいですか?宜しくお願いします!」と、ノブは頭を下げた。

ジョアナと夫は、突然のことに驚いた。娘に好きな人が出来たことは嬉しかったが、相手は遥か遠い日本で暮らす人。いつか、大事な娘が遠くへ行ってしまうかもしれないと思うと・・・

しかし、ルイーザとノブの嬉しそうな笑顔を見て、結局、家族は喜んで二人を受け入れた。

ノブはまもなく日本へ戻り、二人はメールや携帯で連絡し合っていた。

翌年、二人はルイーザの生まれ育った農村で結婚式を挙げた。

一年後、ルイーザが電話でよいニュースを知らせてくれた。今妊娠二ヶ月で、多くのブラジル人とは違って、出産は日本でするという。

一家は相談し、母のジョアナを日本へ送ることに決めた。初めての大都会サンパウロでルイーザの生活を見事にサポートできたように、言葉の通じない大泉町でも、ルイーザの出産前後のサポートをしっかりできるだろうと、皆は信じていた。ジョアナも、この役目を引き受けることにした。そしてジョアナの二度目の冒険が始まった。

初めて見た大泉町には、ジョアナの目を引く商店や飲食店がたくさんあった。不思議なことに、初めて目にする物ばかりではなかった。黄色と緑色の派手な外観の店があちらこちらに見られ、ブラジルの国旗がいたるところに揚げられ、ポルトガル語の看板を幾つか目にした。「ここ、ブラジル?日本?」と、ドキドキわくわくしながら街を歩いた。

娘夫婦のアパートに住み込みを始めたジョアナは、リビングを仕切ったベランダ側の空間で生活をした。ジョアナは、ベランダには洗濯物がいつも干してあるのをみて、「おかしいなぁ」と思った。なぜなら、ブラジルでは洗濯物は奥の庭に干して、ベランダは花や植木鉢を置く場所だから。洗濯する「タンキ1」がないのも不思議だった。でも、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えることは、とてもいい習慣だと思った。

ルイーザは無事に元気な男の子を産み、クリスティアーノ・ヨシオと名づけた。ノブは日本の名前はいらないと言ったが、ルイーザの希望で義父の日本の名前を付けた。

最初、ジョアナはいろいろと手伝ったが、娘は思ったよりも早く赤ちゃんの世話をするのに慣れた。しばらくして、娘の勧めで一人で外出するようになった。八百屋やパン屋、スーパーへ行って日本人の主婦に話しかけたり、料理教室にも通った。とても楽しかった。

ある日、同じ料理教室に通う森すみれさんが「家に来ない?久しぶりにお菓子を作ったの」と、ジョアナを誘ってくれた。

初めて日本人の家にお邪魔したジョアナは、そこで「カステラ」を口にした。彼女の人生を変えた瞬間だった!

カステラのふんわりしっとりした食感に魅せられたジョアンは、さっそく森さんに作り方を教えてもらった。何度も家で試し、近所に振舞った。すると、注文を受けるようになった。

「ジョアナのカステラ」は評判が良く、ブラジル食品店のオーナーは店のスペースを提供してくれようとした。ジョアナはありがたかったが、お断りした。

なぜなら、来日してから2ヵ月半が経ち、そろそろブラジルに帰ろうと思っていたからだ。夫や息子夫婦、年老いた父親と孫達、皆に会いたかった。そして日本の良さを伝えたかった。

娘はとても残念がり、夫と休暇を取って一緒に旅行することを提案してくれた。しかし、ジョアナは言った「あなたたちにはとても良くしてもらって、これで十分だわ。ルイーザ、私の娘に生まれてきてくれてありがとう。優しい思いやりのある旦那さんを選んでくれてありがとう。そして元気な赤ちゃんを産んでくれてありがとう。神様に感謝しています。お陰さまで、沢山の素晴らしいことを見させてもらって幸せよ。日本は最高だわ!日本の人も大好き!」

ジョアナは感涙した。と、そのとき、アイディアがひらめいた!「そうだ!!ブラジルで店を持とう。『CASTELA DA JOANA2』ってどう?」

行動力のあるジョアナのことだから、きっと実現させるに違いないと皆は思った。今から期待している。

注釈:

1. 洗濯用の流し

2. 『ジョアナのカステラ』

 

© 2019 Laura Honda-Hasegawa

Brazil dekasegi family

About this series

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。