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アメリカの日本語媒体

第1回 1989年創刊『Lighthouse』 在米邦人の生活情報誌

「1冊の中での記事の振り幅が大きい」。

読者の課題解決のために

筆者が渡米したのは1992年。今も暮らすロサンゼルスで当時発行されていた日本語の紙媒体は、『羅府新報』、『Gateway USA』、『US Japan Business News』、『TV FAN』、『Bridge USA』、『Lighthouse』だったと記憶している。そして、私は渡米半年後に『Lighthouse 』に入社することになり、そこで独立するまでの11年間、編集者として働いた。私にとっての在米日本語媒体は、アメリカに残る道を与えてくれたという意味で思い入れのある存在であり、数多の新しい媒体が誕生しては消えていく中、今も発行を続けているサバイバーには尊敬の念を禁じ得ない。そこで、ロサンゼルスに限らず、全米各地で発行されている媒体の編集責任者や担当者に、それぞれの媒体の生き残りの策について聞いてみようと思い立った。その第1回では私の古巣でもある『Lighthouse』。同誌編集長、東條憲太郎さんにご登場いただく。

『Lighthouse』が創刊されたのは1989年、コンセプトは「在米日本人のための生活情報誌」だ。記事は2本の特集、インタビュー、グルメ、教育、税金、移民法、エンターテインメント、コミュニティーのイベント、クラシファイドと多岐にわたり、情報として読ませるタイプの記事広告も多い。現在は発行部数5万部のロサンゼルス版以外にも、サンディエゴ版、シアトル・ポートランド版、ハワイ版も発行しており、その他に提携誌のシカゴの『Q』マガジンに記事を提供している。

編集記事の柱は東條さんによると3本。「『課題解決』、『勇気、元気』、そして『うるおい』を与えることです。具体的には『課題解決』の記事では、どうやってアメリカの大学に進学するかなどといった悩みを専門家に取材した情報を通じて解決に導くこと、また『勇気、元気』はアメリカで活躍する人物を取材し、彼らの成功談や苦労話を伝えることで読む人に勇気と元気を与えること、そして『うるおい』は旅行やレストランなどのお出かけの情報を提供して生活に潤いを与えることを目指しています。最近はインターネットで情報が簡単に手に入る時代です。そこで、『Lighthouse』でないと入手できないような記事にすることを常に念頭に置いています。少し前に掲載した『アメリカの防犯』という特集記事を例に挙げると、治安のデータやヘイトクライムのニュースなどネット上に断片的には転がっていても、それを多角的に構成してその特集記事だけで今のアメリカの防犯面で知っておくべき状況を把握できる内容にまとめられたと思います」。

読者に求められている記事にするために読者調査を定期的に実施しているだけでなく、特集記事は読者の要望に加え、編集部員とさらに30名ほどの全社のスタッフで意見を寄せ合って、1年分を事前に決定している。ちなみにロサンゼルス版は月に2回発行、しかも1号に2本の特集記事が掲載されるので、1年分の特集企画は約48本という計算になる。

スマホで読めるアプリ開発

次に特集記事を企画する際の鍵を聞いた。「老若男女、どの読者層からも面白いと思ってもらえるような誌面にすることです。例えば2019年の2月1日号を例に取るとメインの特集は『メトロで遊ぼ!』、サブは『リタイヤ後は日本の地方で暮らす』です。他の雑誌にはないだろうなと思うほど、1冊の中での振り幅が大きいんです(笑)」。日本で発行している雑誌のように、女子高生向けのファッション雑誌、ビジネスマン向けの経済誌などと細かくセグメント分けしてしまうと、ただでさえ多いとは言えない在米邦人の読者層をさらに狭めてしてしまう。そこで「日本語が読める」「アメリカで生活している」という共通項だけの幅広い読者層にアピールする記事を作成することが同誌のチャレンジであり、同時にやりがいであるとも言えるようだ。そして、「世界の片隅で発行されている無料のコミュニティー誌ながら、ガッチリと作っているという自負はあります」と東條さんは話す。

さらに、1年前に新たな試みを開始した。同誌の記事がスマートフォンで読めるアプリの開発と提供だ。2020年8月にローンチし、読者数を広げることに貢献している。「スマホのアプリをダウンロードしてもらうことで、実際の雑誌をピックアップしなくても本誌が読めるようにと、アプリの認知を上げることに力を入れています。情報誌をiOSやAndroidのアプリにするにはさまざまな条件があり、審査も厳しい。私が知る限り、在米日本語媒体は今はうちだけのはずです」。

さらに、『Lighthouse』の母体であるTakuyo Corporationは、日本での終活の情報をアメリカ在住者に提供する事業や、アメリカから日本の大学に進学を希望する学生に向けてセミナーや情報を提供する事業など多角的にビジネスに取り組んでいる。それらの事業の告知を『Lighthouse』の特集記事や自社広告で紹介することで、それらのサービスを多くの在米日本人に告知できると共に、『Lighthouse』誌自体も読者に有益な情報を提供できるということで、Win-Winの構造になっている、と東條さんは話す。

続いて、東條さんに自己紹介をしていただいた。「編集者歴は20数年になります。日本の大学卒業後に編集プロダクションに入社し、リクルートやベネッセをはじめさまざまな雑誌やウェブサイトから仕事をいただいていました。そこで基本的な編集者のスキルを習得した後、リクルートに広告制作ディレクターとして常駐。さらにウェブメディア『All About』で3年ほど企画の仕事に携わり、アメリカに来ました。『Lighthouse』に入社したのは2012年です」。

最後に編集者として大切にしている姿勢や考え方について聞いた。「モットーは、誤字脱字も含めて情報の正確性を大事にしたいということです。文字が間違いだらけの媒体だと本当にその情報が正しいかどうかも疑わしくなり、信頼性に関わります。また、これは我々が掲げるメディア事業のミッションステートメントなのですが、『読者である在米日本人の方々の安心、充実、チャレンジングで豊かな人生の実現に貢献する』ということは、迷ったら立ち返る原点として常に念頭に置いています。あとは、無料のコミュニティー誌だからといってダサい必要はないと思っており(笑)、デザインに関してもなるべくスタイリッシュに、『ライトハウスってちょっとおしゃれでいいな』と思っていただけるような誌面を目指しています」。

2012年から『Lighthouse』の編集に携わる東條さん。

老若男女と全方位を対象にした日本語雑誌、しかもロサンゼルスやサンディエゴといった地域限定の情報も提供するというハードルを乗り越えなければならないものの、絶妙なバランス感覚をベースに構成されているコンテンツこそが、『Lighthouse』のサバイバル策の肝と言えそうだ。

 

*『Lighthouse』: 電子版とアプリのダウンロードのサイト

 

© 2021 Keiko Fukuda

Japanese medias lighthouse

このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。