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ある家具の旅路、ある家族の歴史の一片

Landscapes of Injustice (不正義の風景)」ウェブサイトの”Touched by Dispossession”のセクションに、シリーズでストーリーがアップされています。2016年にこのセクションで、パルディの私の家族の歴史についての記事が掲載されたのですが、それを読んだ読者のある方からEメールが届きました。その一通のメールがきっかけとなり、戦前に私の叔父であるボブ・トヨタが作ったサイドテーブルの回収にむけての素晴らしい旅が始まったのです。私の家族の歴史の始まりともいえるこの一台の家具についてお話しします。

* * * * *

プロローグ

1991年、叔母のケイティ(カオル・旧姓トヨタ)と伯父のクミィ(クメオ)・ヨシダはクミィの兄シゲ(シゲユキ・エドワード)・ヨシダの家族とともに、シュメイナスにあるローン・スカウト(The Lone Scout)壁画の除幕式のため、オンタリオ州ロンドンからやってきました。シゲさんは、ブリティッシュコロンビア(BC)州ホープの少しはずれにあるタシュメに抑留されていた間、シュメイナスでボーイスカウトをはじめ、最終的にはカナダ最大のボーイスカウト隊をスカウトリーダーとして率いました。この壁画は、シゲさんのこの功績をたたえたものでした。それから数年後、強制撤去の時シゲさんの家族が所有していた家具を預かっていると伝えに来た人がいたそうです。その人は「50年間ずっと探し続けていた」そうです。その人について叔母に詳しい情報を尋ねてみましたが、あまり覚えておらず、この伝説ともいえるこの話は、それからさらに30年近く、つい最近までミステリーとなっていました。

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第二次世界大戦前、私の母ルースはショウシチ、キリエ・トヨタ夫妻の13番目か14番目の子供として、ダンカンのはずれ、BC州のパルディに住んでいました。母の叔父と叔母、ダイゴロウとハナヨ、彼らの10人の子供は隣に住んでいたそうです。家や家具は、マス、ジョージ、ボブを含む母の兄弟が建てたそうです。

Ruth, front row, second from right.

パルディ(当時はMayoとして知られていました)はインド系、日系、中国系カナダ人が多く住み、製材業でにぎわうコミュニティでした。多くの混血人種が住むこの独特のコミュニティの中で、白人は少数派でした1。私の叔母は、当時BC州では人種差別がひどかったにもかかわらず、パルディではそういったことがほとんどなかったと当時を振り返り話してくれました。

悲しいことに、今日では当時のパルディの様子を語るものはあまり残っていないのですが、2015年に私のいとこと家族がトヨタの生家を探しに行った時、生家の場所だけでなく、祖母がおにぎりの中にいれる梅干しを作っていた2本の梅の木をなんとか見つけることができました。この時のことについては、2016年に私の母が訪れた後、「歴史に忘れ去られた町パルディと懐かしの梅の味」という記事にしたためました。こちらの記事も、Landscapes of Injusticeウェブサイトの”Touched by Dispossession”セクションに掲載されています。

さて話を2020年9月に進めます。Landscapes of Injusticeのサイトを訪れた方からEメールを受け取ったときの私の驚きを想像してみてください。

こちらがそのEメールです:

Mike Ross and Judy Koga-Ross

こんにちは、私はジュディ・コガ=ロスといいます。あなたの記事を読みました。私はパルディで育ち、ダンカンのロス一家に嫁ぎました。メアリー&ペリー・ロス夫妻は、日系人が抑留されていた間トヨタ一家の所有物だったドレッサーを保管していました。ロス夫妻は、トヨタ一家が戻ってくるまで保管しておくことを約束していたのですが、彼らの知る限り、トヨタ一家はカウチンバレーには戻ってこなかったそうです。私共のところには、私の主人マイク・ロスが大学に進学する際に譲り受けたサイドテーブルがあります。それ以外の家財道具は、メアリーとペリーが亡くなった際に家と共に売却されてしまったかもしれません。もしお望みでしたら、このサイドテーブルはあなたのものですよ。

敬具

ジュディ・コガ=ロス

興奮とショックの中、私はすぐに返信し、それから何回かに渡りメールの交換をしました。同時に、パルディに長く住むジョーン・メヨによる著書「Paldi Remembered」の中で、ペリー & メアリー・ロス夫妻のことも学びました。

ペリー & メアリー・ロス夫妻へのインタビューの中で、ジョーンはペリーが「すべてがあっという間のことで、人々がいなくなってしまうまで一体何が起こっているのか理解することができなかった」と語っていました。2

メアリーはこうも話していました。「ダンカンからやってきた人たちが、強制退去させられる日系家族の家具や車、その他の所有物をとても安い価格で買おうとしていたことを覚えています。それは犯罪的でした。彼らが必死に働き手に入れた物を、ただ同然の値段で持っていきました。私たちはトヨタ一家からソファを買いましたが、正当な値段を払いました。彼らがあのような形でいなくなってしまったのは本当に悲しいことでした」。3

ジョーンは、その後ロス一家は、トヨタ兄弟が自分たちが住むために建てた2階建ての大きな2軒のうちの1軒に移り住んだと加えていました。もう1軒の方は火事でなくなってしまったそうです。4

L-R Kento Abe, Judy, Izumi Abe, Mike R, Mike Abe

このつながりは強くなり、次第にジュディとマイク夫妻に会えるのではないかという私の期待も膨らんでいきました。そして、好機が訪れました。私、妻そして長男はその週末にメインランドに行く予定があったので、旅程を1日早め、BC州ミッションへ足を逃すことにしました。

私たちは、ジュディとマイク夫妻の非常に寛大な歓迎を受け、様々なことを語り合い素晴らしい午後を過ごしました。悲しい別れを交わした後、小さくはあれど、約80年前に、圧力の元、国土の半分ほどの距離に移り住むことを強いられながらも生き抜いてきた家族の歴史がつまったテーブルを持ち帰りました。小さくはあれどこれは宝です。マイクとジュディは、そのテーブルが彼らにとっても大切なものであったと言ってくれました。私の叔父ボブ・トヨタの手によってしっかり作られたそのサイドテーブルは、長年にわたって使い古されていました。サイドテーブルにはメッセージが付いていました。カードには「おかえり!私は 1941年頃からペリー & メアリー・ロス夫妻とともに生きてきました。私は寝室のサイドテーブルとして使われていましたよ」。

ミッションは完了しました。

* * * * *

エピローグ

95歳になる叔母のケイティは、家財道具のほとんどと2軒家を建てた叔父のボブがそのサイドテーブルを作ったことはほぼ間違いないだろうと言っていました。ボブ叔父さんは2018年、96歳でこの世を去りました。

それから私はボブ叔父さんの子供であるロドニーとマーシャにEメールを送りました。ロドニーは、ボブ叔父さんのホテル用の家具を作るのを手伝っていたのですがサイドテーブルは、叔父さんの作った多くの家具を思い出させるし、いくつかのホテルではそのサイドテーブルと同じようなスタイルだったと言っていました。また、ボブ叔父さんは、昔はよく夜遅くまで、小屋の中でコミュニティのために家具を手作りしていたと話してくれました。ボブ叔父さんは13歳の頃からフルタイムで働いていた工場から廃材もらい、家具作りをしていたそうです。この経験ゆえに、木工が彼の人生のキャリアとなったのでしょう。

ボブ叔父さんのケースファイルを取り出すと、個人財産と書いてある下に、こうあります。大工道具1箱、ペリー・ロスが在住のもと管理をしているBC州パルディの家に自転車1台。

叔母のケイティは、タシュメでの抑留の間、シゲさんがジャンボリーでロード・ベーデン=パウエル(Lord Baden-Powell)直々に祝いを受けるためビクトリアに出向いたことも話してくれました。CAPI(ビクトリア大学アジア系パシフィックイニシアティブスセンター)のAssociate Directorであえるヘレン・ランズダウン氏は、この話を聞き、この一件が矛盾をしていることに言及しました。英国植民地時代の理想主義を掲げて束ねられた最大のスカウト隊が、彼らの国籍が理由で収監されていたにもかかわらず、一方では名誉を授けられたのですから。

そして、ジョーン・メヨさんですが、ロス夫妻のことを思い出し、1960年代の初めころにピクニックで行った袋飛び競争で、まだ若い頃のジュディが息子を追い抜かしている様子を収めたビデオを持っていると話していました。

このストーリーはこれからも続いていくような予感がしています。

注釈:

1. Joan Mayo, Paldi Remembered, 50 years in the life of a Vancouver Island logging town, (Duncan: Cowichan Valley Museum & Archives 2016), 9.

2. 前掲書、91。

3. 前掲書

4. 前掲書

CBC Raidoが、2020年12月12日、シェリル・マックケイによる「North By Northwest」で取り上げたエピソード(英語のみ)をお聞きください。

 

*本稿は、「Landscapes of Injustice」へ2020年10月20日に掲載されたものを日本語へ訳したものです。

 

© 2020 Michael Abe

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