日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

日系日本語雑誌の多くは、戦中・戦後の混乱期に失われ、後継者が日本語を理解できずに廃棄されてしまいました。このコラムでは、名前のみで実物が見つからなかったため幻の雑誌といわれた『收穫』をはじめ、日本語雑誌であるがゆえに、アメリカ側の記録から欠落してしまった収容所の雑誌、戦後移住者も加わった文芸 誌など、日系アメリカ文学雑誌集成に収められた雑誌の解題を紹介します。

これらすべての貴重な文芸雑誌は図書館などにまとめて収蔵されているものではなく、個人所有のものをたずね歩いて拝借したもので、多くの日系文芸人のご協力のもとに完成しました。

*篠田左多江・山本岩夫 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

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『若人』 ―帰米二世文学の芽生え- その3/5

>>その2

2. 『若人』創刊の背景 -比良男女青年会の活動-

収容所への移動が完了してほどなく、帰米二世たちが集まって帰米男女青年会が発足した。急激な環境の変化によって落ち着かない生活を送っていた若者たちも、収容所生活を少しでも楽しいものに変えようと考え始めた。そして親睦会という形で始まったのがこの会であった。若者の中には、将来に絶望して非行に走り、ぞろぞろと群れをなして所内をのし歩き、顰蹙(ひんしゅく)をかう者もあった。帰米二世たちはアメリカの民主主義を信じていたにもかかわらず、市民である自分たちを守ってくれるどころか、その自由を奪って収容所へ入れたアメリカに絶望していた。しかし収容所内で秩序を守り、この時期をなんとか有意義に過ごそうと考える若者たちはたしかに存在した。そのような人びとが集まって結成したのが青年会であった。

これは1942年10月1日に「山の市」で結成され ...

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『若人』 ―帰米二世文学の芽生え- その2/5

>>その1

所内には戦場で使用するカモフラージュネットの工場があり、住民に戦争努力への貢献を求め、市民権を持つ人のみが働くことを許された。また、早くも1942年9月から戦時転住局の斡旋で、綿花摘みの労働者が求められた。アリゾナ州は全米の4分の3の量の長い繊維の綿花を産出し、それは戦時国防必需品であった。戦時中の労働者不足のため、収穫には収容者の労働力がぜひとも必要であった。戦争努力に貢献すると同時に賃金も得られるとあって、多くの男女が応募し、一度に約100名ずつ外部へ就労していった。

1943年2月に忠誠登録が行われたが、ヒラでは目だった混乱はなかった。登録拒否を強要した者が当局から注意を受けたくらいであった。3月はじめまでに17歳から38歳の男女で登録した者は5,200名であった。ヒラで問題とされたのは政治的なことではなく、もっぱら賭博や青少年の不良化といった社会問題であった。いずれの収容所にも程度の差こそあれ、このような問題が存在したが、ヒラでは合衆国に忠誠な者、不忠誠な者との間の深刻な対立がなかったために ...

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『若人』 -帰米二世文学の芽生え- その1/5

1. 『若人』創刊の地 ―ヒラリヴァー収容所―

『若人』が生まれたヒラリヴァー収容所、正式にはヒラリヴァー戦時転住所(以下ヒラとする)は、アリゾナ州のピマ・インディアンの居留地のなかにあった。第一次世界大戦中に戦死したピマ族の兵士の名に因んで名付けられたこの地には、アメリカ先住民が細ぼそと農業を営んでいた。ここはフェニックス市内から約64キロメートル離れており、外部の者との接触がほとんどないことから日系アメリカ人収容所の立地条件を満たしている。収容所は第一と第二の二つ区域に分かれていた。第一、第二と呼ぶのでは味気ないというので、第一は運河のそばにあったため「カナル」、第二は西側に溶岩丘があったことから「ビュート」と呼ばれることになった。殺風景な収容所を少しでも潤いのある所にしようと、収容者はカナルを日本語で ...

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幻の文芸誌『收穫』-その4/4

その3>>

4. 英語による作品

『收穫』が二世の作品を掲載することによって二世の文学活動を促進し、二世文学者との交流を深めようとしたことは注目すべきことである。、このような試みは日系文学史において稀なことであった。山崎一心編『アメリカ文学集』(1937)に二世の英語の作品が10編収められていること、トパーズ収容所で発行されていた文芸誌『トレック』(Trek)第二号(1943)にトシオ・モリの短編『子供たちよ、明日という日はきっと来ますよ』の日本語訳が、また『南加文藝』第八号(1969 ...

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幻の文芸誌『收穫』-その3/4

その2>>

3.『收穫』の方針と内容

『收穫』の方針を各号の巻頭言によって明らかにし、作品をジャンル別に検討してこの雑誌の内容上の特徴点を示しておきたい。

(1)巻頭言
『收穫』を創刊した北米詩人協会の趣意については既に述べた。それがこの同人誌の趣意となり、方針ともなるわけであるが、各号に掲載された編集代表者執筆の「巻頭言」の中で『收穫』が目指すべき文学の在り方がもう少し具体的に述べられている。

加川文一は「創刊の言葉」の中で「特殊な事情と環境のうちに今かうして{アメリカで}生活している私共は、其処に異つた新しい ...

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