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アメリカの日本語媒体

第11回 世代をつなぐ日本語テレビ 『Japan Hollywood Network』

「日本語テレビはコミュニティーに根ざした存在」と語る寺坂さん。  

視聴者の最大母数は85万人

30年前に日本からロサンゼルスに移り住んだ時、新しい習慣が生まれた。それは日曜の夜、現地で放送されている日本のテレビドラマを見ることだ。ロサンゼルスに来るまでは出版社で忙しい日々を送っていたので、テレビドラマを見ることなどほとんどなかったし、何より日本のドラマよりハリウッド映画を見る方がずっと楽しかった。しかし、いざ日本を離れるとそれまで見たこともなかった『渡る世間は鬼ばかり』といったドラマを楽しみに日曜を迎えるようになった。それは自分でも驚くほどの劇的変化だった。しかも日本語の台詞はそのままで英語字幕まで付いている。「この日本語はこう訳すのか」と勉強になったりもした。

私の記憶では、日本のドラマはUTBという放送局が日曜の夕方6時半から、そしてまた別のAHC(アサヒホームキャスト)という局が夜の9時から放送していた。さらにUTBは平日の朝、地元のローカルニュースをワイドショー形式で放送していたこともあり、「ロサンゼルスの日系社会に密着したメディア」という印象が強かった。

現在、UTBはすでになく、同社社長だった寺坂重人さんが2018年に、UTBの業務を引き継ぐ形で新しく立ち上げたJapan Hollywood Networkが、毎週日曜の夕方からローカルニュース、日本のバラエティーとドラマを放送している。地上波デジタル放送で視聴できるほか、ケーブルや衛星放送でも見られる。全米をカバーするTVジャパンをのぞけば、ロサンゼルスでは日本のドラマを見られる日本語テレビ局としては唯一の存在だ。対象となる視聴者とはどのような人々なのか寺坂さんに聞いた。

「まず、私たちのような在外邦人ですね。ロサンゼルスの総領事館に登録されている在外邦人数は約10万人、さらに日系アメリカ人が25万人います。また、南カリフォルニア在住で、日本のアニメや華道、茶道を含めた日本文化に興味を持っている人は35万人から50万人と言われています」。つまり、視聴者の最大母数はほぼ85万人となる。

ちなみに2022年11月現在放送されているドラマは『アトムの童』。日本でも10月に放送が開始されたばかりの番組だ。「日本のトレンドに沿った人気の番組を放送するということが弊社の方針です。ですから、今の人気番組をオンエアするには、日本でも放送が始まる前に手配しなければなりません。選択の基準は、人気の出演者を揃えていたり、放送前から話題を集めている作品だったりということになります」。

 
ソーシャルメディアとTV

一方で気になるのが、人々のテレビ離れだ。寺坂さんも「ソーシャルメディアの普及により、個人も情報発信ができるようになりました。それによって我々のような上の世代と若い世代との間に情報収集のギャップが生まれています。そこで、弊社としても番組の告知でソーシャルメディアを利用している現状です」と、ソーシャルメディアの利用も必須だと語る。ただし、テレビや新聞、雑誌とは違い、ソーシャルメディアはじっくりと腰を落ち着けて視聴するものではないため、どこまで効果があるのかについて、いまだに確信を得ていないとも付け加えた。一方で、同社の携わるサービスには映像制作も含まれるため、ソーシャルメディアのコンテンツとなる映像制作の仕事が今後ますます増える見込みだと寺坂さんは話す。

「実態として、放送業における売上の占める割合は全体の30%以下です。それ以外に企業のプロモーションビデオであったり、YouTube向けの動画であったりを受託して撮影するサービスやイベントの企画運営などが売上の半分以上を占めます。今後もテレビ放送以外の映像制作、イベントの割合はますます大きくなると思います」。

前述のように、ロサンゼルスでは唯一無二の存在となりつつあるが、敢えて競合といえばどこのメディアになるのかを聞いてみた。「(NYの)フジサンケイさんやTVジャパンさんでしょうか。しかし、相手が大きすぎますね。当社の強みはあくまでコミュニティー重視です。毎週、ローカルニュースの『So Cal Japan』を制作して放送していますが、悩みはコストが膨大であるということです」。
 

次の世代とのつながり

コミュニティーの支持を受け、また年末の特別番組の際などは40社以上にもなる多数のスポンサーにも支えられているJapan Hollywood Networkとして、今後の生き残り策を若い日系人に求めていると寺坂さんは話す。

「若い人とのつながりを重視しています。南カリフォルニアにはNSUという日系アメリカ人の大学生の団体と、JSAという日本からの留学生の団体があります。このパンデミックの間に日本からの留学生が来ることができなかった影響で、それぞれの団体の学生の数はこの3年で逆転しました。最近、NSUのイベントを撮影しに行ったのですが、当初100人くらいかなと思っていたら、あれよあれよという間に500人以上になりました。当たり前ですが、皆、日本人の顔、でも日系アメリカ人です。彼らがこれからの日系コミュニティーを支えていくのです。彼らのイベントをボランティアで撮影して映像を提供して、交流を深めています。留学生も戻ってきているので、次はJSAのイベントに出かけます。企業もまた彼らのような若い世代を求めています。私たちの仕事はコネクターですね、お互いをつなぐのです。また、日系人の学生のお父さんやお母さんもロサンゼルスで放送されていた日本の番組を見てくれていたと聞くこともあります。そういう話を聞くと感慨深いですね」。

日系アメリカ人の大学生による団体NSUのイベントを取材。

移り変わる時代の流れを読み、在外日本語メディアの将来を見据えて動く寺坂さんの気概に心打たれた取材だった。

Japan Hollywood Network: http://jhollywoodnet.com/en/

 

© 2022 Keiko Fukuda

Japanese Japan Hollywood Network Los Angeles TV

このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。