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ジョナサン・ゴールドも絶賛の日本料理店 LA「Shibumi」のデビッド・シュロッサーさん

立ち寄った日本が人生を変えた

今や、ロサンゼルスはもちろん、世界規模で日本料理のレストランは増え続けている。しかし、問題は料理人だ。日本で修業した日本人の板前は数が限られている。そこで、20年ほど前から、寿司を中心に日本料理のシェフを育成する教育機関がアメリカ国内に設立されるようになった。それから時は経ち、多くの卒業生が業界に巣立っていったが、それでも日本料理のシェフとして名を成した非日本人はほとんどいないと言っていいのではないか。

サンタモニカ出身、Shibumiのオーナーシェフのデビッドさん

そんな時、2016年の夏、レストラン評論家のジョナサン・ゴールドに絶賛されたShibumiのオーナーシェフが、デビッド・シュロッサーさんというアメリカ人だと話題になった。その店は「まるで東京で味わっているかのような錯覚を与えてくれる」と、彼は表現した。それだけ本格的な和食が味わえるということだ。場所は再開発が進む、ロサンゼルスのダウンタウン。私が最初に訪れたのは、大分県の食材を使って、デビッドさんが腕を振るったJETROのイベントが開催された2016年の秋だった。外には目立つ看板もなく、店は4卓のテーブルとカウンターだけのこじんまりした造り。そのイベントでは和牛のグリルやブリの刺身が振る舞われた。奇をてらうことなく、王道を行く本物の日本料理だという印象を持った。

デビッドさんに取材を申し込み、話を聞くことができたのは、それからさらに1年経った2017年の12月だった。デビッドさんはカリフォルニアのサンタモニカ生まれ。日本料理に興味を持ったきっかけについて、彼は次のように語った。

「カリフォルニアにはもともと健康志向の人が多く、私自身も非常に健康的な食生活を送ってきました。そして、2000年にアジア各地を旅行した際、日本に立ち寄ったことが私のその後の人生を大きく変えることになりました。日本、そこは私にとっては特別な場所だと実感しました。特に、日本で巡り会った人々、禅、そして食に深い感銘を受けました」

もともとフランス料理のシェフだったデビッドさんは、東京や京都で日本食の経験を積み、アメリカに戻ってからもビバリーヒルズの高級日本食店、Urasawaで料理人を務めた。そして2016年6月、満を持してShibumiを開店した。

前出のように、ジョナサン・ゴールドに開店直後に取り上げられたShibumiは、ゴールド選出による2016年のロサンゼルスのベストレストランの2位にランクインした。

「東京にいるかのような錯覚」と評されたShibumi。窓の外にはロサンゼルス、ダウンタウンの街並みが広がる


日本で食べられている本物の料理を提供したい

デビッドさんは、現在のアメリカでの日本料理ブームについてはかなり厳しい目を向けている。

「アメリカ人にとって日本料理はすでに珍しいものではありません。しかし、寿司を中心に、アメリカで出されている日本料理はアメリカ人の舌に合うように変容したものになっていると思います。私は本来のオーセンティックな日本料理をアメリカ人に提供したいという思いで店を開けました。ですから、あえて寿司は出さず、フュージョンではない、日本人に愛されているリアルテイストの日本食をメニューに並べています」

ただし、寿司は出さないと言っても例外があり、関西で一般に食べられている押し寿司を提供することはあるそうだ。しかし、通常の握り寿司はもちろん、カリフォルニアロールをはじめとする変わりロール寿司がこの店のメニューに並ぶことはない。

シンプルなハマチの刺身

「寿司は確かに、日本料理の代表的な存在としてアメリカ人に認知されています。しかし、もっと家庭料理にも光をあてるべきだと私は思います。派手ではないけれど、何気ない野菜の煮物の味がやすらぎを与えてくれます。多くのアメリカ人にはまだ知られていない、しかし、知ってほしい料理はまだまだ沢山あります。それを私は自分の店のメニューに並べていきたいと思います」

派手ではないが、やすらぎを与えてくれる料理と言えば、デビッドさんの手によるサツマイモの饅頭入りの味噌汁が秀逸だった。大分県産のシイタケ入りのサツマイモで作った饅頭を、白味噌仕立ての味噌汁の具にした一品。

「味噌汁の出汁に昆布と一緒に使った干しシイタケのおかげで、非常に豊かで深い味を出すことに成功しました」と本人も語るように、身体だけでなく心も温かにする料理として印象深い。また、大分県産の豊後牛をグリルし、同じく大分の柚子胡椒が添えられた料理も、素材の旨みが生かされていた。

大分の食材について質問すると、彼はすぐに「関アジや関サバ。日本料理の職人にとって憧れの食材だ」と即答した。日本料理の技術だけでなく、その知識についても彼は玄人はだしならぬ「日本人はだし」と言えそうだ。

確かに寿司店は飽和状態のロサンゼルス。一方の寿司を出さないShibumiは、本物の日本の家庭料理を出す割烹として、ますます注目を集めるにちがいない。そのオーナーが日本人でないことは、裏を返せば、日本料理が真にグローバルになった証と言えるのではないだろうか。第二、第三のデビッド・シュロッサーの登場を待ちたい。


Shibumi公式サイト: http://www.shibumidtla.com

 

© 2018 Keiko Fukuda

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