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日系アメリカ文学を読む

第16回 『がんばって-日系米人革命家60年の軌跡』

信念にもとづく闘いの人生

「がんばって」という言葉は、日系アメリカ人二世や三世にとって、日本的な精神を表わす印象的な日本語のひとつではないだろうか。『がんばって-日系米人革命家60年の軌跡』の著者、カール・ヨネダ(1906~1999)は、己の信念にもとづき、強い意志をもって生涯がんばりつづけた人物である。

戦争をはさんだ激動の時代に社会と真正面からぶつかって、力強く生きてきた彼が闘いの歴史ともいえる人生を振り返ってつづったのが『がんばって』である。もともと英語で書かれたものだが、田中美智子・田中礼蔵の共訳で1984年に大月書店から出版された。

彼の人生をざっと振り返ってみよう。広島県からの移民二世として1906年、ロサンゼルスで生まれたカール・ヨネダは、もともとは名を剛三といったが、のちに尊敬するカール・マルクスにちなんでカールと名乗るようになる。

1913年に日本人としての教育を受けるために広島に行く。家族そろって日本で暮らし日本の教育を受けるが、15歳のころには新聞配達の少年のストライキに加わるなど、社会的な弱者、労働者の問題に強い関心を寄せる。

また、内外の社会主義者や無政府主義者などの著作を渉猟し、そのひとり、ロシア人無政府主義者のエロシェンコに会いに、十代のヨネダは、エロシェンコが滞在していた北京まで会いに行く。やがて日本での兵役を忌避するために1926年、ひとりアメリカに戻った。

ここでも日本人活動家やアメリカ人とともに労働運動をつづけ、同時にアメリカ共産党に入る。機関紙などの編集に携わり、さまざまなストライキに加わり、人種差別、反戦平和、貧困・失業問題に取り組む。そして自らは長年「沖中士」(港湾労働者)として働いた。

戦前の活動でもあり、経営者側や警察からは弾圧され、何度もけがを負う。逮捕され裁判にもかけられ、人種的な差別にも遭う。それでもめげずに活動をつづける。こうしたなかで、活動の同志として知り合ったユダヤ系の女性エレインと結婚し一児をもうける。


日本人にも、アメリカ人にも攻撃され

時代が戦争へと向かうと、日本、ドイツなどファシズムと戦う姿勢を示し、アメリカ軍の軍人として戦うことを望む。しかし、国籍はアメリカでも日系であることから他の日系人同様に収容所へ(マンザナー)入れられる。ここでは、帰米の日系人に「FBIのイヌ」などといわれ攻撃される。ようやく陸軍情報部として従軍し戦地にも赴き、日本語の能力を生かして日本軍兵士へ投降を呼びかける。

戦後も、以前と同様沖中士の仕事につくが、健康を害して一時は養鶏場の仕事をする。その後港湾労働に復帰し、「国際沖中士・倉庫員組合」に所属し、ひきつづき労働運動、公民権運動などに打ち込む。激しい反共・赤狩りの時代となり弾圧をうけるが、それにもめげず一貫して姿勢は変えなかった。

ベトナム戦争がはじまると、反戦・平和運動に加わり、戦時中の日系人収容に対する損害賠償運動や移民の地位向上のためにも活動した。この間に、日本での原水禁世界大会やモスクワでの世界平和大会にも出席している。日本の軍国主義やファシズムは許せないが、アメリカの帝国主義や人種差別にも立ち向かう。

ヨネダは1999年にこの世を去るが、『がんばって』は1982年までのことを記している。本書は、自らが取り組んだ、労働運動をはじめ社会活動についてかなり細かく触れていて、アメリカ共産党に所属する沖中士の日系アメリカ人二世の活動の記録という、他に類を見ない価値がある。その一方で、国家や世間がどう変わろうと、思想・信念はかえず、それゆえにいつも逆風に立ち向かわざるをえなかった人間の生きざまを描いたドラマでもある。

「私は、成長しても、肉体的にはけっして強健ではなかった。しかし私は、ラバのようにしぶとく頑固だった。病気にも、身にふりかかる逆境にも、けっして屈服しなかった」と自ら書いている。

鋼のような人間だが、日本に残してきた母親のことはいつも心にあった。母親は、息子が兵役逃れのためにアメリカに行き、共産党員であることからいなかでは辛い思いもしたはずだった。だが、息子のことを理解し、いつも励ましていた。

ヨネダにとっては、親不孝と思いながらも、生き方を変えるわけにはいかない。そういう息子の性(さが)を理解し、母は遠く離れたところからただ見つめる。互いを気遣う母と子の関係は温かく柔らかい。

(敬称略)

 

© 2017 Ryusuke Kawai

Ganbatte karl yoneda literature

このシリーズについて

日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。