ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2009/1/8/nikkei-muryou-media/

南カリフォルニアの日系無料メディア誌/紙

以前、私はロサンゼルスにある日系無料誌で編集やライターの仕事に携わっていた。私が入社した90年代後半、ミツワ(当時のヤオハン)やニジヤ・ マーケットで手に入る日系無料誌で、今も残るのは「ライトハウス」「ブリッジUSA」「U.S. フロントライン」「TVファン」「日刊サン」くらいだろう。廃刊してしまった無料誌には、「VOGA」「ゲートウエイ U.S.A.」「マジョラム」あたりが思いつく。「USジャパン・ビジネスニュース」という硬派な新聞は買収されて、今は形態を替えている。

今でこそ、日本でも各駅に無料誌が置かれる時代になったが、わずか10年前は、“無料雑誌”なんて日本人には信じられなかったと思う。その後すぐに インターネットが浸透し、「情報はタダ」が常識となった。さらに雑誌は広告費だけでも制作できるという、かつては業界の裏事情みたいなことも平然と知られ ていること、コンピュータ使用によるDTP化で、編集や製版の知識がなくても出版に参画できることが、無料誌量産の大きな理由だ。

ロサンゼルス日系社会の無料誌のさきがけは、70年代半ばに誕生した「ゲートウエイU.S.A.」(後に廃刊)。今でも無料誌の代表格である「ライ トハウス」「ブリッジ U.S.A.」は、ともに1989年、いわゆる日本のバブル景気の真っ最中に発刊された。当時のLA日系社会には、有料紙「羅府新報」(1903年発刊、 現在も存続)、「加州毎日」(廃刊)があり、日系1世、2世を中心に購読者を集めていた。90年代半ばまで「日刊サン」も有料だったことを付け加えてお く。

90年代に入り、無料誌の存在が定着、質も格段に向上した。淘汰が始まり、消えていく無料誌あり、新しく誕生する無料誌あり。古参の無料誌にいたOBが、新しい無料誌を手掛けるパターンも出てきている。

在ロサンゼルス領事館の発表によれば、2007年の在留邦人数はLA郡とオレンジ郡を含め約6万1千人とのことである。これは自発的に提出する在留 届の数だから、実際には10万人を超えているだろう。このパイをめぐり、前出の5社に加え、「ウィークリーLaLaLa」「ラベスト」 「HapiHapi」「ジェイピー」など数誌発行されている。もはや総合生活誌では既存の無料誌に太刀打ちできないので、学生や女性、母親などターゲット を絞り込んでいるのが特徴だ。

90年代半ばからは「Sushi & Sake」や「Cultural News」といった英語で日本を紹介する無料誌が生まれた。これらがトラディショナルな日本文化や食に焦点を当てているのに対し、最近はマンガなど日本の サブカルチャーを専門に紹介する英語無料誌も見かけるようになった。さらには、中国語で書かれた日本文化紹介無料誌も出てきている。日本の文化を非日系以 外にも広く知らしめたいという高い志と、その裏には今の日系だけでは限界ある広告クライアントの拡張という狙いがある。

2009年以降も、日系無料誌は国際化が進み、細分化も進むだろう。景気の減退は広告頼みの無料誌の最大の敵だが、なんとか頑張ってもらいたい。元気がないと言われ続ける日系社会で、活発に動き回る日系無料誌は私たちの応援団のような存在と思うからだ。

© 2009 Yumiko Hashimoto

ブリッジUSA(雑誌) カリフォルニア州 カルチュラルニュース(新聞) 日本人 日本のメディア ライトハウス(雑誌) ロサンゼルス メディア 新聞 日系メディア 南カリフォルニア Sushi & Sake(雑誌) アメリカ合衆国 U.S. フロントライン(雑誌)
執筆者について

兵庫県神戸市生まれ、97年よりロサンゼルス在住。日系コミュニティ紙に編集者としての勤務していたが、近年はフリーランスライターとしてローカル情報を 中心に記事を執筆。日本にいたころは、第二次世界大戦時の強制収容所はおろか、“日系人”という言葉さえ、耳にすることもなかった。「日系人の存在を少し でも身近に考えてもらえれば」。その思いで「ディスカバー・ニッケイ」のサイトに寄稿している。

(2008年10月 更新)

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