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「アメリカで育つ日本の子どもたち」-編著者 片岡裕子さんに聞く-

全米各地の日本語教育の実態と、補習校や日本語学校に通う日本の子供たちの意識や日本語力について調査した「アメリカで育つ日本の子どもたち」を著した片岡裕子さんは、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校日本語学科で教授を務めている。

片岡さん自身、子供たちをバイリンガルに育てることに力を注いだ母親の一人である。

アメリカ生まれの子供たちの第一言語を日本語にしたいと望んだ片岡さんは、家庭の中での言語を日本語に統一したそうだ。片岡さんは当然日本語、アメ リカ人の夫も日本語を話す。ホームステイしていた日本人の女性も子供たちに日本語で話しかけた。カリフォルニアに移る前、オレゴンに住んでいた一家の元には、週に1度、日本のテレビ番組が送られてきた。「テレビは基本的に子供には見せない方針だったが日本語の番組だけは例外だった」と片岡さん。

子供たちに日本語を幼い頃から身に付けさせた理由を、「ネイティブスピーカーとしての勘を植え付けたかったから」と話す。「てにをは」などはネイ ティブとしての長年の勘で、自然と間違えずに使いこなすことができるのだと言う。逆にネイティブでない場合は不確かになる。私たち日本人が、英語を長年使っていても、ついつい定冠詞を間違えてしまうのに似ている。

つまり、大人になってから外国語を習得した場合、よほどの語学の天才でもない限り、微妙なニュアンスを把握しきれないことが多いのだそうだ。ネイティブとしての勘を養うには9歳までが勝負となる。自然に言語を取りこめるかどうか、この境目を「9歳の壁」と呼ぶ。

やがて片岡さん一家は南カリフォルニアに生活の基盤を移し、子供たちは日本語補習校に編入した。編入先を日本語学校にしなかったのは、「補習校だと レベルが高すぎると思ったけれど、日本語学校だと単に日本語を学びに行くという感じ。補習校との中間のレベルの学校がなかったから」だと振り返る。

1年経った時、補習校のシステムは永住家庭の子供たちに対する配慮が欠けているのではないかと思い始めた。日本では5日で学ぶ内容を1日で済ませ、残りは親が教師役を務める家庭学習に委ねられる。

「ここに生まれて育った子供たちは、いくら日本語で話していても、その日本語を支える文化的な背景を持っていない。漢字教育にもそのひずみはあらわれている。漢字というのは、まず言葉の意味を先に覚えて、それをどうやって書くかという段階で学ぶ。しかし、ここの日本語を教える学校では、漢字と言葉を同時に学ばせる」。文化的裏付けを学ばずに、子供たちが漢字を含む言葉を習得している現実に、大きな壁を実感した。

その思いを補習校の理事に伝えた結果、片岡さん自身が理事として参加することになった。その時期と前後して、補習校に通う子供たちの家庭言語背景と 日本語能力についての調査も開始した。片岡さんの調査結果を含む10の章から成るのが、前述の「アメリカで育つ日本の子どもたち」である。

文化的背景を持たずに日本語を学ぶ難しさを感じながらも、片岡さんの次男は補習校の高校にまで進んだ。「漢字のテストは書けなくてもいいから読みだけは完璧に」と、ある種の契約を息子と交わしているのだと言う。

「無理にすべてをやらせるべきではない。子供のお尻を叩いてまでやらせても、果たしてパーフェクトにできるようになるのか?子供自身はハッピーなのか?でも、子供が前向きでない時に完全に日本語を捨てさせるのも考えもの。タズナを引き締めたり緩めたりしながら、ギブアップはしないでほしい。続けるかどうかで(子供たちの)将来が違ってくる。何らかの形で日本語とつながっておいてほしい」

片岡さんの夫は同じ大学で日本文化とコミュニケーションのコースを教えている。彼がクラスで日系の学生に「親に行けと言われた日本語学校(もしくは補習校)に行くのが嫌だったか」と聞いたことがあるそうだ。通学経験がある学生のほぼ全員が挙手をした。さらに「日本語学校に通って良かったと思うか」と聞くと、その学生全員が再び挙手をしたと言う。

今、まさに「日本語学校に通わなくては!日本人なんだから」と子供たちのお尻を叩いている最中の筆者にとっては、嬉しい結果である。

帰国予定のない永住組だからこそ、子供たちに日本語を習得させるかどうかは親の決断次第である。さらに言えば、日本語を身に付けるかどうかによっ て、子供が自身を「アメリカ人」と認識するか「日本人」と認識するかが変わってくる。日系アメリカ人とは単に人種的なカテゴリーであり、厳密には日本語と 英語を話す「日本人/日系アメリカ人」というグループが存在する。自分の子供には「日本人/日系アメリカ人」グループに入って欲しいと、純日本人の筆者は 望んでいる。

© 2008 Keiko Fukuda