ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2024/5/10/brfs/

第14回 南米農畜産業界で活躍するブラジル・フード・サービス社

第14回目は、アジアと南米で40年前から食肉・水産物の買付けと輸出のキャリアを持ち、34年前からは南米を拠点に南米農畜産の新規事業開発を行ってきたブラジル・フード・サービス社の小寺健一社長(66歳、北海道)に話を聞いた。


チリを目指し、そしてブラジルへ

小寺健一社長

小寺氏の南米との縁は青春時代にさかのぼる。学生時代に熱中した探検部の登山で、ヒマラヤ山脈の6千m級の山を目指したが山頂を目前に大嵐が来て下山を余儀なくされ、その不完全燃焼感から大学卒業後、仲間に誘われたパタゴニア遠征隊に参加した。

半年間船上でお金を貯めてスペイン語を独学。チリに入ると地元メディアの取材を受けた。田舎町では日本人が来たということでフィーバーになり、2カ月での帰国予定を延長した。チリにいた日本人経営者の下、国内各地で自動車部品の営業に携わり「南米で仕事をしたい」との夢が膨らんだ。

日本に帰国後、チリに支店のある東京丸一商事(TMS)に入社し、同社での5年間が今日のビジネスの基礎となった。入社2カ月後にはカナダの島でシシャモの検品と買付け、帰路アンカレッジでは緊急にサーモンの加工船に2カ月乗るなど、臨機応変に商機をつかむことを教えられた。

その後も日本だけでは不十分なスケトウダラ魚卵の買付けで北朝鮮に二回、中国初の遠洋漁業加工船でアラスカ沖を航海するなどした。業務は楽しかったが、心の中にはいつも南米の面影があった。

そんな時、取引先だった日本ハムが海外から直接輸入するプロジェクトを立ち上げた。理解ある上司から「南米で仕事をしたがっていたよね?」と問われ、「チリに行けるなら」と円満退社で日本ハムに転職。15年間、新しいチリ支店の社長と後にブラジル支店の社長も兼任した。

パラナ州産農畜産物の解禁陳情のためにブラジル議員連盟会長の西森ルイス連邦下院議員(中央左)と故・安倍元首相(中央右)を訪問した際の様子


ひらめきと好奇心で新規事業開発

チリ駐在を始めた1989年の日本はバブル絶頂期。「今後は日本も肉の時代」と日本ハムは海外事業に力を入れ、小寺氏は南米の最前線で新規事業開発に専念した。

日本向けにチリの水産物の生産加工や「アンデス高原豚」、ペルーやブラジル産鶏肉、ブラジル産牛肉調整品、ウルグアイビーフの開発や買付けを行っていたが、2003年に豚肉の開発事業を一緒に行っていたチリの会社オーナーに声をかけられ、2004年にブラジルで独立してアンデスフーズ社を立ち上げた。

アンデスフーズ社では、米国で狂牛病が発生して日本が輸入禁止した代替品のブラジル産ボイル牛腸を開発。さらにチリ産ポーク・ビーフ内臓、アルゼンチン産ビーフ内臓調整品、ブラジル産鴨肉などのほか、チリ産ワイン・オリーブオイルのブラジル・日本向け輸入事業やエクアドル産エビをベトナム・中国に輸出した。

順調だったビジネスに暗雲が立ち込めたのは「今もその日を忘れない」という2012年12月8日。NHKから「ブラジルで狂牛病発生疑惑、農水省が輸入停止」とのニュースが流れた。当時、ブラジルを出港した5つのコンテナが海上にあり、日本に到着しても港に揚げてもらえなかった。

ブラジルに戻ると、「OIE(国際獣疫事務局)の調査の結果、ブラジルで狂牛病の発生はなかった」と揚げてもらえなかった。再び日本に向かったが事態は収束せず、地球を4周ほどして、香港で「無料なら引き取る」と言われてようやく行き場が見つかった。

結果、当時25人いた従業員の解雇も含め、同社の会社整理を経験した。「ブラジル盛和塾の先輩には本当に助けられた」と小寺氏は当時を振り返る。

取引先のパラナ州最大の豚肉パッカーFRIMESAの工場訪問時


ブラジルからアジア市場全体にフォーカス

BRFS社のロゴマーク

「捨てる神あれば拾う神あり」で、会社閉鎖と時を同じくして、2013年に日本でサンタカタリーナ州産豚肉の輸入が解禁された。それを機に日本やカナダの輸入業者が視察に訪れ、その仲介やコンサルタントを行うようになり、ブラジル・フード・サービス社が設立された。

日本はこの4、5年、アジア各国と比べてブラジル産鶏肉で買い負けの状態にある。他国の輸入業者の方が、規格の細かい日本の業者の要望に合わせてきたブラジルの生産者を高く評価し、高値で購入するためブラジルの上客となっている。

「ブラジルにとって日本は輸入規制、規格要求が厳しい相手。かといって経済が不透明な中国に輸出依存するのはリスク。今は東南アジアへの食肉輸出にもフォーカスしており、そこから加工品を日本に輸出することまで視野に入れられている」と、小寺氏は常に最新の南米畜産の動向を見守り続ける。

ブラジル・フード・サービス社の概要
正式名称:Brazil Food Services Representante Comercial
所在地:サンパウロ市
設立年月:2013年10月
従業員数:9人
事業内容:南米農畜産新規事業開発、日本向けブラジル産鶏肉・豚肉の仲介業、南米畜産トピックス週報の発行、アジア産健康食品素材のブラジル向け開発輸出入

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年10月14日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

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このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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