ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/10/20/nsk-brasil/

第2回 NSKブラジル社 ― 高品質ベアリングで顧客から信頼

片岩浩副社長

連載第2回目では、NSKブラジル社(フランシスコ・アエシオ執行責任者)の片岩浩副社長に話を聞いた。

同社は1970年に設立された。敷地はサンパウロ市と近郊都市の鉄道中継点であるスザノ駅から徒歩約10分という一等地に18万㎡を有する。工場と技術センターで産業機械や自動車の軸受(ベアリング)の製造及び調査・解析を行っている。


NSK初の海外生産拠点として設立されて53年

NSKブラジル社は、日本精工株式会社の第4代社長・今里広記氏が伯国を視察し、初の海外生産拠点としてスザノ市を見出し、操業を決定した。1970年に設立され、2年後に工場が開設された。当時、スザノ市初の日系市長だった宮平修革ペドロ氏が日本から企業を誘致しており、土地を無償提供してもらい工場を建設、以後、同市の工業発展に貢献してきた。

現在のNSK Brasil Ltda.

設立当初の輸入品販売時代、ブラジルの競合他社は既に現地生産を行っており、価格の高い輸入品は、市場で勝ち抜くことが容易ではなかった。そのような中、粘り強い営業活動を続け、品質に対して厳しい大手企業数社に日本製軸受の他社品との比較評価試験実施を取り付けた。その結果、「品質は2ランク上である」とのお墨付きを得た。

製品は高評価を得たが、当時の輸入品は約40%の関税がかかる高コスト品だったため、「同品質の製品をブラジルで生産するなら購入する」と言われた。これを受け、NSKブラジル社は現地生産に舵を切ることを決定した。実際に工場が稼働し始めると、他社にはない最新の自動組立設備での生産を見学した顧客から注文が一気に増えていった。


ブラジルの軸受工場だけが鋼球を生産

NSKで生産される深溝玉軸受

NSKグループのポリシーは「自前主義」。スザノ工場では世界展開する同グループの中で唯一、軸受に使用する鋼球の生産を行っている。日本では鋼球はグループ企業から購入しているが、ブラジルでは高い関税によるコストを削減するため、鋼球も同社で生産している。近年、安価な軸受が中国から輸入されるようになってきたが、高品質・高精度を重視する顧客からの信頼に応え、良いものをリーズナブルにという姿勢を一貫している。


国内市場シェアは拮抗

ベアリングの世界市場シェアは、1位がSKF(スウェーデン)、2位シェフラー(ドイツ)、3位がNSKだ。それがブラジルでは、この3社のビジネス規模はほぼ拮抗している。SKFとシェフラーが大型品を得意とするのに対し、NSKは極小サイズの製品も得意なのが強みだ。

農業国のブラジルでは、農業機械向けの大型軸受が重要で、現在も同分野の需要の伸びは安定している。一方、日本や中国ほど電化製品向けの需要は多くない。

パンデミック以降の自動車販売では、石油価格の高騰や家計の節約、四輪は半導体不足で生産が抑えられていることもあり、四輪より二輪の売れ行きが堅調で、二輪用のベアリングが好調だ。

自動車のホイール用のハブ軸受


リユースビジネスへの取り組み

SDGsビジネスの中で、ベアリングも大量生産して使用済みは捨てるのではなく、特に鉄鋼設備や農業機械のような大型ベアリングは再利用する取り組みが進んでいる。

大型ベアリングは今も輸入品のみで、受注から商品が届くまでに最低でも半年、長ければ一年を超えることもある。故障して機械が使用できなくなった場合、数カ月も待つのは長過ぎる。

そこでNSKでは「軸受の余寿命診断」を行い、必要であれば修復処置を施し、使用寿命を伸ばし、安心して事業機械を運用できるようサービスの実施も行っている。診断にはNSKが100年の歴史の中で蓄積したデータと損傷メカニズムのノウハウが基になっている。

リユースビジネスは、新規販売の妨げになると思われがちだが、リユースをきっかけに新規顧客が広がる可能性も秘めている。


地域に密着した人のつながり

NSKブラジル社は、現地企業として持続的に成長するため、地元人材の採用に積極的だ。大学との連携やインターン制度を通じて同社で勉強した学生がそのまま就職するというケースも少なくない。

2021年11月からブラジルに赴任している片岩副社長は、「NSKの一番古い海外工場があるブラジルには一度は訪れてみたかった」と話す。シンガポール、タイ、上海に次ぐ4カ国目の海外駐在だ。

ブラジルでは、日系移民の先人の努力のお陰で日本人への印象が良く、企業としても法律を遵守し、ルールに基づいて運営しているため、社員からの信頼も感じるという。

片岩氏は剣道七段で、空いた時間はサンパウロ市の県人会などで稽古や後進への指導に当たっている。これまでの海外赴任時と同様に、「交剣知愛」の精神でグローバルな交流を深めることも日々の楽しみとしている。

正式名称:NSK BRASIL LTDA.
所在地:サンパウロ州スザノ市
設立年月:1970年12月
従業員数:521名(3月末現在)
事業内容:軸受の製造及び輸入販売

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年4月21日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

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このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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