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日本の日系人経営者 — 建設業で活躍、茂木真二社長

茂木真二社長

茂木真二(もぎ・しんじ)が来日してちょうど30年。東日本大震災では17回も被災地を訪れて支援活動を行い、熊本地震、和歌山・長野の水害など全国規模で被災地への支援と救援活動を行っている。さらに25年間続けている在日日系ブラジル人の福祉、健康、教育、日常生活の支援など、在日ブラジルNPO団体の代表理事として活躍するボランティア活動家として知られる。

日系二世の茂木が創業した「茂木商事」とは、建物や家屋の設計、解体や基礎工事、ソーラーパネル設置、(鉄道の)軌道整備など、建設関連の多角化事業で発展している建設会社だ。神奈川県藤沢市に本社があり、創業は1991年で来年30周年を迎える。会社の特徴は社員の80%を日系ブラジル人が占めていることだ。将来性ある会社づくりが成功し、日本の同化型文化のビジネス社会に溶け込みながらも、「人を幸せにすることが生きがい」というバックボーンを心に刻み、デカセギ文化の世界を超えた、日本定住化30周年にふさわしい経営者が誕生している。

会社経営

茂木商事グループは4社から構成されている。建設関係の茂木商事、ブラジルとの貿易を行う茂木商事インタートレード、有限会社茂木商事Rは鉄道軌道の整備メンテナンス、ブラジル本社のTECTO Arquitetura e Construcao。さらに新事業として家屋の内装や外装、ソーラーパネル設置、基礎工事、設計などを行う事業の多角化がここ数年来加速している。

道路工事の現場

そこで現在の会社概要をみてみよう。主な事業内容―解体部門は個人家屋が中心、その他の部門、(1)社員数―57人(建築部20人、解体部37人)、(2)商圏―神奈川県内(80%)を中心に主に首都圏、(3)本社敷地面積―3300平方m、(4)本社建坪面積―200平方m、(5)自社所有建設機械は大小ショベルカーー計20台、(6)自社所有運搬用トラックと営業車―計32台、(7)仕事の現状―仕事は増えているが募集しても若くて良い労働者がいない。

同社が所有する20台のショベルカー

運搬用トラックなどを32台を所有

社員の80%を占める日系ブラジル人社員の特徴として、「取組む仕事に対する問題解決能力がある、創造的でかつ最善の解決手段と方策を見つけ出しそれを仕事の場で発揮してくれている」と茂木は言う。

こうした中で万全なコロナ対策を行いながら社業を発展させている茂木商事グループ。日本の大部分のハウスメーカーと取引もあり、創業以来、茂木自身の夢として「総合建設業を目指して常に先を向いてやってきた結果が現在に繋がっている」という。

しかも建設業界はより日本的な同化型人間関係のつながりを求められるが、個人主義の国ブラジルで育った茂木がどうして日本の建設業界に入ることができたのか。それは来日当初に学資稼ぎのために働いたアルバイト先がきっかけで、この会社が建物解体業者だった。そこの社長から入社した早い時期から責任ある仕事を任せられた。この社長との出会いと縁が茂木の独立につながり建設業界に入ることになった。

経営上の悩みは「責任をもって仕事を任せられるいい人材が高齢化していること」。3年先の経営については「創業以来継続している無借金経営の継続、後継者育成に本腰を入れる、事業の多角化を進めていく」の3点を挙げた。

ブラジル育ちの茂木がどうしてこの建設業界に入ることができたのかを聞くと「私の経験をとおして、どのビジネスでも付き合いとつながりは大事だが、それよりも自分には何が求められ、それに関してなにを提供出来るのかを見抜ける必要があると思う。日本経済は様々な分野で人不足だ。しかし日本は素晴らしい国でビジネスチャンスに溢れている。そのチャンスを見つけ出す能力を身に付け、頑張る意思さえあれば、必ず成功出来ると思う」と日本における人生成功のキーポイントを語った。

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茂木の人生観を決めたボーイスカウト時代 

「困っている人を助けたいという使命感」はどこから生まれたのだろうか。それは人格形成の土台を築いた少年時代のボーイスカウト活動にあった。サンパウロで少年時代に西本願寺系ボ―イスカウト団体に入会し「ボースカウト活動がいまの自分を形づくった」と語るとおり、いまも社会と人への報恩奉仕活動に尽くす茂木の人生観の原点があった。

家族

父は安太郎(やすたろう)で3年前に83歳で亡くなった。群馬県桐生市から1960年に移住し、ブラジル日系人の中でも専門のカギ師で知られた有名人。その父からの教えは「窓の真ん中は誰でもきれいにする事が出来る。ただし見られて決め手になるのは隅だ」、母からは「何時も一番に成りなさい」だった。

「両親とも日本人でこの茂木家に生まれて感謝している」という。母・節子(せつこ)はいまもサンパウロ暮らし。茂木社長は3人の子宝に恵まれ、長女・綾音(あやね)はプロの落語家になっており武蔵美術大を卒業。次女・早織(さおり)は大阪芸大を卒業、3女・真奈美(まなみ)は多摩美術大の現役生と、3姉妹揃って芸術系大学を選択した。


ボランティア活動

茂木が代表理事を務める『特定非営利活動法人NPO在日ブラジル人を支援する会』(略称:SABJA、本部・東京都目黒区)とは、『在日ブラジル人の日本社会への適応、日常生活で生じる様々な問題の解決支援』を目的に2003年(母体は1995年)に設立された。NPO法人として実績と歴史のある団体で、全国各地に散在する在日ブラジル人・21万人超の高齢者から幼児までを対象に『教育・健康・社会支援活動』を中心にしたボランティア活動を行っている。

熊本県への被災地支援活動

その内容は、体と心の健康、教育、日常生活、生活環境、労働環境、法律、保険、税金などの相談に関して、専門家ボランティアが電話や個別のオリエンテーションを行っている。ちなみに昨年度だけで一般相談実績が1805件あり、ブラジル人の新興地コミュニティがある島根県や福井県にも専門家を派遣して、個別的にまた総合的な支援活動を行っている。

その日常活動は、在日ブラジル大使館や東京・名古屋・浜松と3カ所のブラジル総領事館、日伯関係各機関や団体、民間支援企業などと連携しながら活動しており、NPO法人として高い評価と信頼を受けている。日本各地にあるブラジル人コミュニティとも積極的な交流が行われており、全国規模に築き上げたネットワーク、経験豊かで多彩な専門家の相談員などを擁し、多様化する相談ニーズに応えている。

半年以上続いているコロナ禍の影響で日系ブラジル人の生活困窮者も増えており、茂木は「こうした点からも当NPOの果たすべき使命と役割は増大している。在日ブラジル公的機関や民間支援企業や団体などとの連携を一層深めてその使命を果たしていく考えだ」という。こうしたボラティア活動を通して在日ブラジル人子弟に期待していることは何かを聞くと「日本社会で認められる人材が出てくることを望んでいる」という。

こう言いながら茂木をボランティア活動にかりたてるものがある。それは「困っている誰かのためにやること、を毎日考えながら過ごしてきたし、いまもそれを継続している」ことだ。長年「困っている人を助けたい信念」で、様々な支援活動を行ってきた茂木の使命感と実行力は抜きん出たものがある。

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経営者・茂木の心構え

『日本でのビジネスチャンスをブラジル人としての目線で分析出来て、日本人なりに実行する事』。経営の心構えは「経済は波の形をして谷は必ず訪れる、良い時に基礎を固めて置く事、借金はなるべくしない事、リスクを分散する事。お客様と事業を一つに固めない事、良い社員を育てる事」だ。

日本在住30年について

仕事では「ゼロから始めて、いまは、自分の周りにいる500人近い人間の為になっている事」、ボランティアでは「東日本大震災での2年間の活動」と「NPO在日ブラジル人を支援する会で活動出来ること」。


評価高まる在日ブラジル人のNPO活動

日本での社会貢献活動はかなり進んでいると思う。NPO・SABJA、在東京ブラジル人評議員会と他の団体との共同企画を通して様々な活動を実現している。在日ブラジル人コミュニティーは少しずつ自分の居場所を確保し、日本国民からも認められている。在日ブラジル人はブラジル人イベントに限らず、積極的に日本のイベント及び活動に参加し貢献している。

東日本大震災、熊本地震、2019年の台風19号による各地での大規模洪水、などでの支援活動は、地域の皆様とともに、政府、各地方自治体などからも評価されている。

被災地向け支援物資の積み込み作業


『日本の多文化共生社会』について

原点は周りが不幸せなら自分だけが幸せに成るはずはない。

(1)日本は多文化共生社会に入っていると言われるが、まだまだ良い状態には程遠い感じだ。確かに外国人は増えているが、国としても国民としても、受入態勢は全く整っていない。これから増えて行く外国人を単なる短期間労働者としてみるのではなく、人間として受け入れる制度設計や環境整備が出来なければ、一生かかっても(日本は)良く成らないだろう。当然、愛国心も生まれてこないと思う。
(2)国として外国人の扱い方に関し戸惑っているが努力はしている。安倍前政権はその努力を良く示したと思っている。

ブラジルを思う気持ちは誰にも負けない

ブラジルは素晴らしい国だ、世界一に成れる全ての条件が揃っている。個人的には、ボルソナロ大統領はブラジルを良い国にする気持ちは本物である事を信じる。ところが大統領一人の努力だけではブラジル規模の国は変わらない。ブラジル国民と政治家の団結や常識は薄いと思う。民主主義は重要だが、各市民が協力しなければ、何も変わらない。

ブラジルの人々は、自分たちが世界で最も素晴らしい国に生まれ、ブラジル全体が彼らの故郷である事を理解する必要がある。同時に教育を強化する必要がある。問題は国からの教育資金がどのように使われているのか、悪質政治家から守ることが重要だ」。

同時に「日本は世界でも最も高齢化が進んでいる国で、それに伴い様々な問題が生じている。経済を支える労働者が減り、その結果、納税者が減少している。日本がこの問題を解決するには、選択肢として海外にいる若者を日本に呼ぶことだ。ブラジルと日本は昔からとても良い関係で、いまはお互いが助け合いを強化するタイミングだと思う。そこで重要になるのは日系ブラジル人の存在だ。日本政府は海外にいる日系人を迎えるために様々なプロジェクトを作成している。これからブラジルと日本とのパートナーシップが強化され、ともに様々な面で歩んでいくことを信じて、個人的に、そしてSABJAとして、いくつかの計画に参加させていただいている。このブラジルと日本の未来は素晴らしいものになっていくと信じている」。


*本稿は、「ニッケイ新聞」(2020年11月4日)からの転載です。

 

© 2020 Kanno Hideaki

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