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日系アメリカ文学を読む

第13回 『ワイルド・ミートとブリー・バーガー』

アメリカのなかでは、もっとも古い日系移民の歴史をもつハワイ。そこで暮らすのは、アジア系をはじめ、白人、ヒスパニック、黒人、そして先住のハワイアンやポリネシアンなど多様な人種で、それぞれがもたらす文化が、固有の自然や気候、風土とあいまって独特の文化を生み出している。

言葉もそのひとつで、通常の英語のほか、ピジン英語(pidgin English)という、現地の言葉がまざった英語も生まれ、日系移民のなかでも使われた。

このピジン英語で書かれたのが、小説『WILD MEAT AND THE BULLY BURGERS』。著者は、ハワイ生まれの日系三世作家、ロイス・アン・ヤマナカ(Lois-Ann Yamanaka)。1996年に出版され、日本では1998年に『ワイルド・ミートとブリー・バーガー』として斎藤倫子の訳で東京創元社から出版されている。

ヤマナカは、1961年にハワイのモロカイ島で生まれ、ハワイ島のサトウキビ農園のあるパハラ(pahara)という町で四人姉妹の一人として育った。彼女は学校では認められなかったピジン英語を使っていたことや育った環境などために、中流の日本人社会にはなじめなかったという。しかし、自分の感情や考えは、この言葉と切り離すことはできないと感じ、ピジン英語で創作をするようになったという。

こうして生まれたのが『ワイルド・ミートとブリー・バーガー』で、彼女が育った環境や幼いころの体験がベースになっていると思われる。ちょっとワイルドで、コミカルで、ハチャメチャなところもあるが、切ない気持ちにもさせる小説だ。

主人公は日系人三世の少女、ラヴィ・ナリヨシ。舞台はハワイ島のヒロで、時代は1960年代終わりから70年代はじめだろうか。

サトウキビ畑があり、自然が豊富に残り、野生動物がいて、火山から溶岩も流れ出る。ラヴィは、日系であることにコンプレックスがあり、ハオレ(ハワイの白人)にあこがれている。

この子の独白で話はあちこち展開する。言葉遣いは荒っぽく、よくしゃべるし、考えるし、突拍子もないこともする。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン・コールフィールドの少女版のようだ。

父親は狩りをしたり、きれいな鳥の羽を売ったり、いろんな仕事をしている。母親はタバコを吸い、妹が一人いる。ラヴィも小さいながらアルバイトをして小遣いを稼ぐことがある。生活は決して豊かとはいえず、ワイルドで、彼女が望む世界とはほど遠い。

ちゃんとした英語が話しなさいと、学校では先生にきつく言われ、お金持ちや勉強ができる子やかわいい子には、バカにされる。

「ジャップはみんな、おりこうさんだと思ってたけど、あんたは、簡単な約分もできないじゃない、え、ジャップのかす。ほんとにばかね。だから、あんたたち“細目”は、ろくでもない真珠湾攻撃なんかしたよの」

実際、この時代、ハワイの日系人はこんなふうに言われたことがあったのだろうかと考えさせられる強烈な皮肉だ。

だが、こう言われてもラヴィはへっちゃら。男子みたいな女の子といわれ、たった一人の友達はやさしい男子のジェリー。変わり者だとか同性愛だとか言われることもある。

ラヴィは、いまの生活には満足できず、ほんとうは家族が大好きだが、ことあるごとに何かしでかし両親をよく怒らせる。妹の髪の毛を焼け焦がしてけがをさせてしまったこともある。その時激怒した父親は言う。

「……いいか、おまえはいつだって、おれたち家族が今の自分たちとは違うなにかだってふりをする。しっかり目を開いたらわかるはずだ、え? おまえは、金持ちでもなけりゃ、ハオレでもないし、芯の強い人間でもないんだ。ただの女の子にすぎん」

このあと父親はヤギを撃ちに行き、目に大けがをし入院する。そこでラヴィがある行動に出る。ジーンとくるところだ。

小説のなかでの日本との関わりは、ラヴィの家や生活の随所にあらわれている。おせんべいを食べ、父は、一家の祖先はサムライだという。ヤギュウジュウベイ(柳生十兵衛)ややミヤモトムサシ(宮本武蔵)の名前が出てくるし、シセイドー(資生堂)ガールのカレンダーも登場する。当時は流行ったものだった。

ラヴィは音楽が好きで、この時代のアメリカン・ポップスやロックのアーティストや曲名も頻繁に出てくる。オリビア・ニュートン・ジョン、ジャクソン・ファイブ、スタイリスティックス、K・C&ザ・サンシャインバンド……。レコードを買って、カセットテープに録音して……。

遠いハワイの70年代前後だが、あの時代を知る日本人にとっても郷愁を誘うところがある。

(敬称略)

 

© 2017 Ryusuke Kawai

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Sobre esta série

日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。

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