Toshinari Masuda

1965年愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。著書に『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)、『七帝柔道記』(角川書店)などがあり、前著は大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞している。

(2021年8月 更新)

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木村政彦とエリオ・グレイシーの偉大なる戦い: 得意の大外刈りと腕がらみが炸裂

  私は日本柔道史上最強を謳われる木村政彦先生のことを18年かかって取材し、一冊の本を10年前に上梓した。その物語の大きな山場こそ1951年にマラカナンスタジアムで戦われた木村政彦対エリオ・グレイシーの試合である。 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)という長い題名のその書籍は、軽薄短小のこの時代に百科事典のように分厚く高価で、しかも歴史から忘れられていた木村政彦を扱ったものなので出版界からは「売れるわけがない」と言われた。 しかし増刷に増刷を重ね、ハードカバーだけで28刷という記録的な売り上げとなった。それはこの本が単なる柔道の話ではなく、木村政彦という主人公を通して一緒に世界を旅し、戦前戦後の歴史を追体験するような感覚を読者が得られたからであろう。 米国カリフォルニア州にグレイシー博物館という記念館があって、エリオが木村政彦に敗れたときに着用していた柔術着が一番目立つ場所に誇らしげに飾ってあるという。70年も前に戦われたこの試合はグレイシー一族にとって単なる敗北ではなく、誇りにまで昇華されている。エリオだけではない。現在世界中で隆盛のMMA(総合格闘技)の選手たちにも畏敬をもって語られる伝説の試合だ。 当時、エリオ・グレイシーはボクサーやレスラーなど様々な格闘家と戦って連戦連勝するブラジル格闘技界の英雄であった。 コロニアの日系柔…

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