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アメリカの日本語媒体

第2回 2004年創刊『週刊NY生活』- 独自取材を続ける無料紙

読者がいる限り

7月10日号の紙面。表紙には大活躍中の大谷選手の看板の写真。

ニューヨークを中心に米国東海岸で2万部発行されている日本語媒体の『週刊NY生活』は2004年創刊。アメリカ生活が長い人は、同紙の歴史が20年も経っていないことを意外に思うかもしれない。筆者もその1人。理由は同誌の発行人兼CEOの三浦良一さんと社長兼COOの久松茂さんが共にアメリカで発行されていた『読売アメリカ』出身であり、『読売アメリカ』の印象が色濃く感じられるせいだ。筆者自身、90年代、勤務先に送られてくる『読売アメリカ』の生活情報からエンタメ、アメリカの動向までバラエティー豊かな記事を読むのが毎週の楽しみだった。

今回取材に応じてくれた三浦さんは1985年に読売新聞が米国現地版(後の『読売アメリカ』、当時の名称『ニューヨーク読売』)を発行するのに伴い、それまで勤務していたロサンゼルスの経済新聞から転職、2003年に『読売アメリカ』が撤退するまで同紙の編集部記者、そしてデスクとして勤務した。しかし、同紙の撤退が決まったときに「読者がいる間は日本語の情報紙を届けたい」との気持ちから久松さんと共に起業したのだと言う。

「大判の新聞サイズからタブロイド版に変わった以外は、『週刊NY生活』の内容面はかなり『読売アメリカ』を踏襲しています。読者は駐在員、留学生、永住者が混在しています。その点、以前いた西海岸には日系アメリカ人が多かったですが、ニューヨークでは日系の方にほとんどお目にかかることはありません。ですから、いずれは日本に帰る読者が多いこともあり、帰国受験などの教育関連の記事に人気がありますね。他はビザや健康に関する記事も注目されます。鍵は読者にとって必要な情報でありながら、『ニューヨークタイムス』などの英語の媒体では取り上げられないもの、そして日本語では読めない情報を提供することです。そのために、どんな小さな記事であっても、自分たちで取材して執筆しています。読者が他で目にすることがない独自の記事が掲載されているという点が強みであり、私たちの記事を見て大手の日本のメディアから問い合わせをいただくことも少なくありません」と、三浦さんは『週刊NY生活』の「独自取材」に自信を見せる。

それでは一体、何人で取材しているのだろうか、との質問をぶつけると「4、5人の外部ライターさんに協力してもらっていますが、専属は私1人です」との回答だった。「もちろん全部私だけでやっているわけではありません。営業の人間が2人います。しかし、彼らは現在リモートワークなので、マンハッタンにあるオフィスに出勤しているのは私1人です。取材、執筆、編集作業以外に印刷所の立ち合いもあります。また、マンハッタン内の配達も営業の責任者と私とで担当しています」という話を聞き、「少数精鋭」という言葉が頭に浮かんだ。


今後は「老後の選択肢」を

  「情報を伝えることがこの仕事の喜び」と語る三浦さん。  

次に『週刊NY生活』の紙面構成の上でのモットーを聞いた。

「起こったことをできるだけ早く正確に伝えることです。そういう役目を担っています。『これは伝えないといけない』という新しい情報以外に、『これを読んでもらうことで読者に喜んでもらいたい』という情報も掲載しています。後者に関してはアメリカで有名になった人のインタビューや、今は無名だけどこれから名を成すだろうという人のインタビューなどです。できるだけ早く正確に、と言いましたが、週刊なので日刊ほどのスピーディーさはありません。しかし、35、6年続けている仕事を通して、ずっと週刊紙に携わってきました。水曜に印刷して木曜に発行するというリズムが体に染み付いているんですね。これ以外のスケジュールに変えるとしてもどうしたらいいのか分からないというのが正直なところです(笑)」。

発行を続けることの苦労を聞くと、編集長であると同時に発行人でもある三浦さんは次のように答えた。

「そこはやはり広告収入ですね。日米間の旅行を扱う代理店やホテルなどのクライアントが、このパンデミックの時期、厳しい状況でした。でも、コロナが収束すればまたビジネスが始まります。またうちのサービスを利用してください、という広告を打たないといけなくなるはずです。その時期に備えて、とにかく発行を続けるということが私たちの使命です」。

さて今後、新しい企画を開始する予定はあるのだろうか?

「これから高齢になってくると、日本に帰る(引き揚げる)読者が増えてきます。帰国に役立つ情報や、また自分はまだでも日本の親が介護施設に入ることを海外から心配している読者のための情報の提供に力を入れていきます。さらにアメリカで老後を迎える可能性がある場合、ここでどのような選択肢があるかについても取材していきます。実際に読者からの要望も寄せられています」。

日本への帰国に関しては、すでに『ふるさとプロジェクト』と題し、オンラインセミナーを開催している。

アメリカで暮らす人々のために日本語で情報を届けること、経済紙時代も入れれば40年超の三浦さんに「編集者としてのやりがい」を聞いた。

「伝えることの喜びですね。それが支えになっています。紙面を通じて情報を伝えることで、救われる人もいるだろうし、喜んだり悲しんだり、また社会とのつながりを実感してもらうこともできるでしょう。ですから、私の仕事のモチベーションは自分のためと言うよりも、読者が見てくれることの喜びです」。

その言葉は「伝えること」を生業にするライターの私の胸に深く響いた。


* 電子版が読める『週刊NY生活』公式ウェブサイト

 

© 2021 Keiko Fukuda

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このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。