日系アメリカ文学を読む
日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。
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このシリーズのストーリー
第12回 『きらきら』、『七つの月』
2017年8月11日 • 川井 龍介
時代は1950年代から60年代、舞台は南部ジョージア州や中央部のアーカンソー州など。そこで日系人の家族がどんなふうに暮らしていたのか、子供たちは自分たちのことをどう思い、周りの人や景色をどう感じていたのか。 日系アメリカ人女性作家、シンシア・カドハタの小説『七つの月』、『きらきら』は、他の日系人作家の作品にはあまり見ることがない世界が描かれている。また、小説のテーマも戦争や収容所にかかわる日系アメリカ人の苦悩やアイデンティティーとは離れている。 日系アメリカ人の歴史…
第11回 『あの日、パナマホテルで』
2017年7月28日 • 川井 龍介
古い日系人コミュニティーのあるシアトル。かつての日本町は、いまはインターナショナル・ディストリクトといわれ、チャイナタウンに少し日本町が入り混じったような街になっている。 通りの名称を記す標識も、英語だけでなく、近年日本語と中国語による表記がされ、この地区全体の歴史的な遺産を残そうという市の考えが読み取れる。永井荷風の「あめりか物語」にあるように、明治時代の終わりごろには日本そのもののような町が移民によって形成されていたが、それも戦争を挟んですっかり形を変えて、日本の影は…
第10回 『日々の光』
2017年7月14日 • 川井 龍介
今や世界中に読者を抱える作家村上春樹の英語訳を手がけていることでも知られる、日本文学研究者であり英訳者のジェイ・ルービン(Jay Rubin)が書いた小説としても話題を呼んだ『日々の光』は、太平洋戦争をはさんで、日米を舞台として繰り広げられる物語である。原題は『The Sun Gods』で、訳者あとがきによれば、2015年にシアトルの小さな出版社(Chin Music Press)から出版された。 日本語版は、村上春樹との共著『翻訳夜話』などでも知られるアメリカ文学研…
第9回 『カブールの園』
2017年6月23日 • 川井 龍介
年齢を重ねていけば誰しも過去を振り返るようになる。自分がどこから来たのか知りたくなったり、どうして今の自分が今のようになったのかを考えたりするときがある。自分の親や祖父母のたどった過去が気になってくる。 『カブールの園』の主人公はカリフォルニアで暮らす日系三世の女性レイ(玲)。幼いころ虐められ、差別されたことによるトラウマを抱え、母親との関係に悩む彼女が、あるときマンザナー収容所跡を訪ねたことから母親との関係を修復し、日系である自分自身を受け入れていく物語だ。 作者…
第8回 『カリフォルニア州 ヨコハマ町』
2017年6月9日 • 川井 龍介
最初の日系アメリカ人作家ともいわれるトシオ・モリ(Toshio Mori)が、1949年に出版した短編集が『Yokohama, California』(The Caxton Printers, Ltd., Calldwell, Idaho)である。それから29年たった1978年、日本で『カリフォルニア州 ヨコハマ町』として大橋吉之輔の訳で毎日新聞社から出版された。 場面は戦前のアメリカ西海岸の日系人社会だが、時代と国境を越えても、変わることのない人間の本質といったもの…
第7回 『北針』
2017年5月26日 • 川井 龍介
かつて日本からアメリカに渡った人たちのなかには、正規の渡航手続きを経ずに出国した人たちもいた。いわゆる密航である。 明治期からはじまったアメリカ移民は、西海岸を中心に排日の動きが高まる中で1908年には日米間の紳士協約によって日本が旅券の発給を自粛したことで制限され、さらに1924年には新移民法によって全面的にアメリカへの移民はできなくなった。 しかし、それでもアメリカに行きたいと思う人は後を絶たなかった。その理由はなにより、お金を稼ぐためである。とはいっても生活のため…