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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/9/1/kase-utako-2/

ソフトウェアエンジニア・加瀨詩子さん ー 女性エンジニアのロールモデルでありたい — その2

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ソフトウェアエンジニアの仕事とは

アマゾンではAWSのネットワーク部署でソフトウェアエンジニアとして勤務する詩子さん。3年前の入社以降、順調にキャリアを積み、2022年夏には昇進も果たした。

ソフトウェアエンジニアと聞くと、四六時中パソコンに向かいながらコードを書いているイメージかもしれないが、仕事内容は所属するチームや自分の役割によって大きく異なると言う。

フロントエンドエンジニアと呼ばれる人たちは、主にユーザー側の目線に立って、プログラムの性能やデザイン・スピードなどの改良にいそしむ。一方、バックエンドエンジニアはサーバーの維持・改善を担当しており、ソフトウェアが目的通り機能するように大枠を作る。そして、フロントエンドとバックエンドのどちらにも取り組む人たちは、フルスタックエンジニアと呼ばれる。

詩子さんが所属するAWSのネットワーク部署のチームでは、陸や海底に埋め込まれている、データセンター同士をつなぐケーブルの地理情報・位置情報を管理するツールを開発している。ユーザー側の機能性を確認するフロントエンドの作業だけでなく、バックエンドのプログラミングなども行っているので、詩子さんはフルスタックエンジニアに分類される。現在も、コーディングやミーティングなどをこなす日々だ。

「私はそこまで野心があるタイプではないので、基本的には現状に満足しています。と言っても、60歳までずっとコードを書いているつもりもなく、10年以内にはエンジニアを統括する管理職に昇進できるよう頑張りたいですね」。

管理職がエンジニアより上かというと、必ずしもそうではないとのこと。IT業界では、エンジニアとしての道を極めていきたい人と、マネージャーなど管理職として成長していく人に分かれる。詩子さん自身は、さらに自分が輝くためにはエンジニアよりマネジャーが向くのでは、と考えている。

そのためには、データ分析やセキュリティー管理などの専門知識のほか、人心掌握、コミュニケーションといったソフトスキルも求められる。これらの習得に向け、ワシントン大学の大学院で情報学の修士号を取得することも検討しているそう。もしそうなれば、今度は社会人と学生という、二足のわらじを履くことに。

私生活では昨年に結婚。これから、公私共にますます忙しくなりそうだ。

2022年に香港と日本で挙式卓球台でのウエディングショットも

昨今、IT業界ではレイオフの話題や株価暴落など、エンジニアを目指す人にとって不安要素となるニュースにあふれている。そのことについて詩子さんはどう考えているのだろうか。

「アマゾンなど大企業のニュースばかりがどうしても目に入りますが、中小企業などを含めるとエンジニアとしての働き口は多い。IT業界の伸びしろは、まだまだあると感じています。希望の大企業に入れなくても、新規株式公開(IPO)間近のスタートアップの社員になれば、将来的に大儲けできる可能性も。今、自分ができることを頑張っていれば、いつか運が味方してくれるのではないでしょうか」

自身のアマゾンへの入社も、運と実力が半々だと考える詩子さん。「運が来たらつかみに行けるように」と、今日という1日を全力で生きている。


次世代のエンジニアに伝えたいこと

詩子さんは「人とつながるのがとにかく楽しい」と、コミュニティー活動にも積極的だ。そのひとつに、シアトルITジャパニーズ・プロフェッショナルズ(SIJP:Seattle IT Japanese Professionals)でのボランティアがある。地域貢献と未来の人材育成のため、シアトル在住のITプロフェッショナルたちによって立ち上げられた非営利組織で、3カ月に1回のペースで小中学生を対象にコンピューターサイエンス教室をオンラインで実施している。

日本からの留学生向けにキャリアアドバイスやプレゼンテーションなどもよく行う

セッションは講義に加え、Zoomのブレイクアウトルーム機能を用いた少人数でのグループ学習の時間もあり、計2時間ほど。現役の一流エンジニアから実践的な内容を学べると評判だ。日本だけでなく世界中から平均100人もの参加者が集まる。

SIJPには日本からの留学生が主体となって活動する学生部もあり、詩子さんはその顧問を務める。所属メンバーの将来のキャリアにつながるよう、コーディングの勉強会やパネルディスカッション、オフィスツアーなどの機会を提供している。

「女性エンジニアのロールモデル」を目指す詩子さんはまた、女性エンジニアの育成にも注力する。2022年夏には、日本在住の女子小学生30~40人を対象にしたSIJP企画の読書会プロジェクトをリードした。

2週間に1回のペースでオンラインにて開催し、『Girls Who Code』というコーディングをテーマとする英語の本を3カ月かけて皆で読破。終わった後、「私もエンジニアになりたい」との声が聞かれるなど、手応え抜群だったそう。

SIJPとは別に、個人的にもツイッターを大いに活用し、IT業界を目指す人たちに有用な情報を発信する。現フォロワー数は3,000人超え。アマゾン入社希望者には、模擬面接や履歴書添削も厚意で行う。

「今やっていることを続けて、自分のできる範囲で貢献していきたいですね」

最後に、エンジニアを志す若者たちへのメッセージを聞いた。

「私は大学で希望する専攻に入れず、不本意にも文系の地理情報学専攻となったわけですが、そのおかげでソフトウェアエンジニアという職に就けました。文系の出だから、現在の仕事とは関連がないから、という理由でエンジニアになる夢を諦める必要はないと思います。自分がやっていること、学んでいることに無駄はないと捉え、前向きにチャレンジして欲しいですね」

 

加瀨詩子(かせ・うたこ):埼玉県出身。日本人の父、中国人の母を持ち、幼少期から国際的な環境で育つ。中学2年時に8カ月間のアメリカ留学を経験。高校は都内のインターナショナルスクールに通い、アメリカに戻ってワシントン大学へ進学。地理情報学専攻、コンピューターサイエンス副専攻で卒業後、新卒でアマゾン本社に入社し、AWSのネットワーク部署にソフトウェアエンジニアとして所属。趣味は卓球。 @UtakoInSeattle

 

*本稿は、「Soy Source」(2023年4月11日)からの転載です。

 

© 2023 Jaejun Jeon

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執筆者について

2018年5月よりシアトル近郊在住。週の半分は製薬会社でフルタイム勤務。趣味はテレビでのスポーツ観戦とハイキング、ジョギング。最近はボルダリングにハマっている。

(2023年8月 更新)

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