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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2014/9/15/little-tokyo-reporter-4/

排日土地法撤廃の功労者・藤井整を描いた「リトルトーキョーレポーター」 製作陣と出演者に聞く ~その4~

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映画編集者 横山智佐子(Chisako Yokoyama)
広報 郷崇倫(Takamichi Go)


「短編映画と聞けば、アマチュア的な印象を受けるかもしれませんが、『リトルトーキョーレポーター』はそうではありませんでした。非常にプロフェッショナルなカメラワークで、これは是非関わりたいと思わせてくれる質の高さでした」と、監督のジェフリー・ジー・チンさんから編集前の作品を見せられた時のことを振り返るのは、映画編集者の横山智佐子さん。

経営する映画学校ISMPでの智佐子さん

ベルナルド・ベルトルッチの「リトルブッダ」でハリウッドでのキャリアをスタートさせた唯一無二の日本人エディターで、業界経験は20年を超える。「グッドウィルハンティング」「グラディエーター」「メモワール・オブ・ゲイシャ」をはじめとする数々の作品で第一アシスタントエディターを務め、同じく携わった「ブラックホークダウン」はアカデミー賞の最優秀編集賞を受賞した。

商業映画の第一線で活躍するエディターの智佐子さんが、持ち込まれた短編映画への協力を受け入れたのは、果たして、カメラワークの美しさだけが理由だったのだろうか?

「藤井整のことは知りませんでした。でも、日系社会での歴史的人物がテーマの作品だということで、非常に有意義なプロジェクトだと思いました。それもまた大きな理由です」

ただし、本職の映像編集以外に、ロサンゼルス郊外のトーランスで映画製作の学校も経営している彼女は、「ルトルトーキョーレポーター」に関われるのは週末のみしか時間はないという条件を出した。それを受け入れたジェフリーさんと共に、彼女の学校の中にある編集スタジオで30分の作品に仕上げるまでに半年を要した。

編集しながら、智佐子さんは作品を通して伝わったジェフリーの熱心さに感心したと話す。「彼は日本人ではありません。それでも非常に日本の文化をリサーチしていて、しっかりした『日本的な』作品に仕上がっていました。リトルトーキョーの町並み、人々の様子、よほど勉強しないとあれだけの完成度の高さは難しかったはずです」

どの作品とは言えないが、確かに日本をテーマにしながら、「おかしな日本人」が登場するアメリカ映画も少なくない。

「残念だったのは、とてもいい演技をした佐藤役の尾崎英二郎さんのシーンをカットしなければいけなかったことです。藤井整と佐藤の妻との不倫を思わせるシーンが実はいくつかあり、その中で佐藤は愛情関係のもつれを実に上手に演じていました。しかし、あまりにもそこを強調すると、日系社会のパイオニアとしての藤井のイメージをうまく伝えきれなくなるのではないか、ということで泣く泣くカットしたのです。短編映画の場合、シーンを大胆にカットすることを嫌がる監督がほとんどですが、ジェフリーはきっぱりとカットに同意してくれました。自分のエゴよりも、いい作品に仕上げることを優先させたからだと思います。彼には監督としての才能があると感じました」

「逆境でも諦めず闘い続けた姿に感銘」

そして、智佐子さんが強調するのが、「映画とはいかに多くの人に見てもらうかで価値が決まる」ということだ。「どんなに素晴らしい作品を作っても、観客が10人だったら意味がない。映画としての目的を達するためにはできるだけ多くの人に見てもらうように努力を続けないといけないのです。そういう意味でも、『リトルトーキョーレポーター』は完成して3年経ちますが、フェイスブックに常に新しい情報が掲載されていて、いつもどこかで上映会をやったり、また映画賞を受賞したりしています。見てもらうための努力を怠っていないところも、素晴らしいと思います」

また、藤井整という人物についても多くを学ぶことができたと語る。「あのような逆境にあっても諦めずに、日系人のための権利を獲得しようと闘い続けたエネルギーは凄いですね」

智佐子さん自身、映画編集者として自分の仕事を続けていれば何の問題もなかったにもかかわらず、8年前に本場ハリウッドの映画製作の技術を学べる学校を立ち上げた。「ある時期から日本から取材を受ける機会が増えたんですね。そして、『日本人で、ハリウッドで活躍しているエディターは他にいない』と言われた時、そうすると自分がいなくなったらそこで日本人の実績が途切れてしまう、後輩を育てなければという使命感が生まれたのです」

少数精鋭のハンズオンな教育を続け、これまでに50人以上の卒業生を送り出した。

同朋のためにより良い環境を築き上げようと我が身を犠牲にして活動した藤井整と、後進のために自分の時間を犠牲にして技術を教え続ける智佐子さん。両者にはどこか共通項があるように思える。

さて、現在、「リトルトーキョーレポーター」は日本での上映にも積極的に取り組んでいる。日本で広報の役目を担って活動しているのが、同作品の準備段階から関わっている郷崇倫(たかみち)さんである。加州州立大学を卒業したのち、JAリビングレガシーの執行役員をつとめていた郷さんは、日本語の資料を英訳、またプロデューサーのキャロルさんと藤井の直系の子孫との連絡役などを果たした。また、日本に帰国後に手がけた上映会では、映画を見て日系社会に関心を持ってくれる観客が多かったという。日本では日系アメリカ人の歴史がほとんど知られていない現実がある。今後、アメリカやヨーロッパ以外にも、日本国内での上映を続けていく意味もまた大きい。郷さんは、「この映画作品を通して、日本人に日系人社会の歴史を教えることを、私はさらに積極的に実践していきます」と決意を述べている。

日系アメリカ人、中国系アメリカ人、そして日本人などさまざまな背景を持った人々が協力して完成させた日系一世をテーマにした「リトルトーキョーレポーター」、智佐子さんも言うように、「多くの人に見られることで映画の価値は決まる」のだ。この作品に興味を持ち、実際に見る人が今後も増え続けていくことを願ってやまない。

左から広報の郷さん、キャロルさん、JICA横浜 海外移住資料館の小嶋さん、ジェフリーさん。資料館を訪問した際に撮影

 

*「リトルトーキョーレポーター」公式サイトからDVD購入可: www.ltreporter.com

 

エグゼクティブプロデューサーからのメッセージ

「リトル・トーキョー・レポーター」はアメリカ国内のみならず、海外のさまざまな地域で上映を行うため、皆様からの献金をお願いしております。個人用チェックの郵送、またはウェブサイトからのクレジットカードによる献金が可能となっております。チェックの宛先はLittle Tokyo Historical Society (小東京歴史協会)とご記入下さい。また、皆様の献金は所得税等の控除の対象となります。日系一世のパイオニアであり、「忘れられた公民権の運動者」であった藤井整への関心と、映画へのご支援に深い感謝の意を表します。


個人用チェック郵送先:

Lil Tokyo Reporter Film
PO Box 3552
Rolling Hills Estates, CA 90274

オンラインによる献金はこちらから:http://www.ltreporter.com/blog/donate/

 

© 2014 Keiko Fukuda

カリフォルニア州 藤田キャロル文子 ジェフリー・G・チン リトル・トーキョー・リポーター(映画) リトル東京 ロサンゼルス 藤井 整 アメリカ合衆国
執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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