ディスカバー・ニッケイ

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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に


2011年1月7日 - 2011年11月25日

日系日本語雑誌の多くは、戦中・戦後の混乱期に失われ、後継者が日本語を理解できずに廃棄されてしまいました。このコラムでは、名前のみで実物が見つからなかったため幻の雑誌といわれた『收穫』をはじめ、日本語雑誌であるがゆえに、アメリカ側の記録から欠落してしまった収容所の雑誌、戦後移住者も加わった文芸 誌など、日系アメリカ文学雑誌集成に収められた雑誌の解題を紹介します。

これらすべての貴重な文芸雑誌は図書館などにまとめて収蔵されているものではなく、個人所有のものをたずね歩いて拝借したもので、多くの日系文芸人のご協力のもとに完成しました。

*篠田左多江・山本岩夫 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。



このシリーズのストーリー

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その8/9

2011年10月14日 • 山本 岩夫

その7>>(3)評論.随筆カール・ヨネダが随筆と評論をあわせて9編書いているが、それらの特徴は彼の人生の回顧であり、反戦平和と反人種差別の姿勢であり、家族への愛情である。 彼は「訪日余話」(第7号)と「私の羅府時代」(第10号)においてマルクス主義者で労働運動家であった自己の人生を振り返り、「幸徳秋水の在米時代」(第9号)でサンフランシスコにおける日本人社会主義者グループの活動を記録する(「幸徳秋水の在米時代」は後に『在米日本人労働者の歴史』<1967>に収録)…

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その7/9

2011年10月7日 • 山本 岩夫

その6>>花江マリオはニューヨークの領事館に勤め、後にペルーの領事館へ転勤している。彼の創作は7編で、他に戯曲も書いている。作品は太平洋戦争に絡むもの、一世と二世の関係を描くもの、南米の日系社会を扱ったものに分けることができる。 「曲芸師」(第2号)と「呪いの果て」(第5号)は太平洋戦争が外国にいる日本人に与えた致命的な影響を描いている。「父と子」(創刊号)は、しばしば日系日本語文学のテーマとなる「帰米二世と父」の問題をニューヨークの黒人街に住む父と子の生活を通して扱ってい…

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その6/9

2011年9月30日 • 山本 岩夫

その5>>(2)創作(その2)西茂樹(本名は西岡重幸)(1916‐1989)は太平洋戦争中、アメリカ政府によって捕虜交換要員として中南米諸国から合衆国へ強制移住させられた2,262人の日本人の中の1人である。愛媛県で生まれ、義兄を頼ってペルーへ移住し、1944年、突然逮捕されてアメリカのテキサス州にある収容所に抑留された。終戦、アメリカへの「不法入国者」の身分のまま収容所を仮釈放され、ニューヨークで時計店を開いた。日本で『ケネディー収容所』(1983)を出版している。なお中…

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その5/9

2011年9月23日 • 山本 岩夫

その4>>秋谷一郎(1909-)はクリスチャンの帰米二世である。サンフランシスコで生まれ、6歳のとき日本へ送られた。関西学院在学中、内村順也(内村鑑三の弟)、河上丈太郎(後に日本社会党委員長)、賀川豊彦から思想的影響を強くうけた。1931年、徴兵の恐れからアメリカへ帰り、戦時中は陸軍日本語学校で教え、OSS(戦略事務局)に勤務した。戦後、ニューヨークに移住し、家具製作工、『北米新報』植字工を経て、東京銀行ニューヨーク支店に就職した。 この間、日本救援活動、労働運動、反核運動…

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その4/9

2011年9月16日 • 山本 岩夫

その3>>3.『NY文藝』の内容(1)創作(その1)あべよしおと秋谷一郎は『NY文藝』の編集と発行に中心的な役割を果たしたが、彼らはまた創作においても重要な存在であった。したがって、まずこの2人の作品について、次に他の同人の作品について、概観しておきたい。 あべよしお(1911-1981)はオレゴン州ポートランドで生まれ、10歳の時に家族と共に父の郷里の岡山へ来た。1936年、早稲田大学を中途退学してアメリカへ帰り、戦時中には連合軍の対日情報部員としてインドへ行った。戦後…

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その3/9

2011年9月9日 • 山本 岩夫

その2>>創刊号に掲載された作品の中で創作の占める比率が圧倒的に高く、評論や随筆、詩、短歌は少ない。これが『NY文藝』の特徴で、この特徴は最後まで維持されることになる。 カール・ヨネダと三田穢土が作品を寄せている。カール・ヨネダは帰米二世で労働運動の活動家として日本でもよく知られている。三田穢土は上山平八のペンネームである。「ハリウッドの怪人」といわれた上山草人と女優・山川浦路の一人息子で、1930年代に労働者の生活を詠む詩を西海岸の日系新聞に多く発表し、当時の有力な文芸同…

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このシリーズの執筆者

東京家政大学人文学部教授。日本女子大学大学院修了。専門は、日系人の歴史・文学。おもな業績:共編著『日系アメリカ文学雑誌集成』、共著『南北アメリカの日系文化』(人文書院、2007)、共訳『日系人とグローバリゼーション』(人文書院、2006)、共訳『ユリ・コチヤマ回顧録』(彩流社、2010)ほか。

(2011年 2月更新)


立命館大学名誉教授。専門は日系アメリカ・カナダ文学。主な業績は共著『ヨーロッパ現代文学を読む』(有斐閣、1985)、共編著『日系アメリカ文学雑誌集成』全22巻、別冊1(不二出版、1997-1998)、共著『戦後日系カナダ人の社会と文化』(不二出版、2003)、共編著『南北アメリカの日系文化』(人文書院、2007)、共訳『ヒサエ・ヤマモト作品集―「十七文字」ほか十八編―』(南雲堂フェニックス、2008)。

(2011年1月 更新)