シアトル地域で活動する若い日系人たち。日系の父とフィリピン系の母を持つトロイ・オオサキさんは、ポエトリーリーディングで社会へ向けて意見を発信している。ワシントン大学(UW)のアメリカン・エスニックスタディーズ(民族学)でアジア系米国人民族学を専攻、卒業後、地元で詩を教える仕事についたあと、現在はシアトル大学のロースクールに通っている。
創作活動を始めたのは、小学生のときからという。ミュージシャンを目指し、ギターやベースを弾き、詩よりも歌の歌詞を書いていた。
高校生になり、英語の授業で詩のワークショップに参加、詩や物語を芸術的にパフォーマンスする「スポークンワード」と出会った。
「すごく興味を持ち、そのワークショップでいろいろ聞きました。オープンマイクや詩を書くサークルを教えてもらい、若者がそういった芸術を学べる場、ユーススピークシアトルについて教えてもらったりしました」とオオサキさんは振り返る。
詩の書き方を学び、舞台でパフォーマンスするなど経験を積み、UW在学中には、大学チームやシアトル代表チームとしても活動した。
元々は詩の面白さに気づき、始めたポエトリーリーディングの活動。一方で、詩は自分の考え、意見を伝えるだけでなく、アイデンティティについて考える手助けになることも気づいたという。
「成長していく中で、自分に関係のある文化や、自身のルーツについて学ぶ機会は、正直多くありませんでした」と明かすオオサキさん。「詩を書くという作業を通して自分について考える機会が増え、自分に関係のある文化をもっと学び、理解したいと思うようになりました。自分のルーツと関係する文化があることは特権なのではないか、と今では思っています」
地元出身の日系四世。フィリピン系でもあり、また米国人ということを満喫していると語る。「もっと色々なことを学びたいと思っています。日本やフィリピンにも行きました」
UWでは日本語も学んだというが、三世の父親は日本に対する意識は希薄だたと明かす。第二次世界大戦の影響を含め、時代ごとに状況も違い、オオサキさんをはじめ日本への興味を持つ四世、五世も増えている。図書館などコミュニティスペースを使ってアイデンティティや日系人に関するディスカッションや関連映画の上映会といった活動に参加したという。
ススムという日本語名も持ち、自身の作品集のタイトルにも使われている。各作品には日系のアイデンティティーが各所で表現されている。ポエトリーリーディングや音楽、絵といった芸術を、多世代間交流をする一つの可能性として捉えている。
「一世や二世の素晴らしい歴史を残し続けていきたいという思いがあります。彼らから色々なことを学べたらと思っていますし、若い世代も協力して何かやっていけたら」とオオサキさん。
排斥の歴史を乗り越えてきた日系人。他人種も同様の経験を過去、現在と直面してきている。若い世代で歴史を伝えながら、他人種の支援など、「お互い助け合うために、団結するのが大切」と話す。
「社会の中で、ほかの人より特権を持っている人々がいる。そういう特権にまず気づき、差別されている人々を助けなければいけません。彼らが『声』を持てるように、それを皆に聞いてもらえるように手助けして、彼らの存在を明らかにしなければ」
ポエトリーリーディングも社会活動の重要なツールとなる。「自身の先祖に敬意をはらい、また社会正義のために、抵抗したり、活動を起こしたりということを続けていきたい」――。オオサキさんは真摯な目を向け、力強く語った。
* 本稿は、2015年10月20日『北米報知』からの転載です。
© 2015 The North American Post / Fumika Iwaswaki