ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/11/21/katsuya-imai/

ハリウッド大作のアートディレクター ・ 2014年渡米、今井克也さん

語学留学経てOビザ取得

2023年の夏、『オッペンハイマー』や『バービー』といったハリウッド映画を見に行った際に、予告編で流れていたのが『グランツーリスモ』。予告から大作であるということが十分伝わってきた同作に、セットデザイナーとして関わっていたのが、今井克也さんだ。映画の世界で、セットデザイナーやアートディレクターを含む美術スタッフとは「作品の世界観やセットをデザインする仕事で、建築・インテリアデザインに近い」ということだ。

今井克也さん

今井さんは2008年、日本大学藝術学部を卒業後、是枝裕和や宮藤官九郎といった今をときめく監督作品をはじめとする数々の映画やドラマに美術スタッフとして携わった後、2014年にロサンゼルスに語学留学し、1年半かけて英語を習得した。

「子どもの頃、映画と言えばハリウッド映画でしたし、いずれはハリウッドで仕事をしたいと思っていました。映画の仕事に就くという夢は(日本で)叶ったので、次は憧れのハリウッドで働く夢を叶えるためにどうするか?英語を話せるようにならなければ、と、30歳になる前にロサンゼルスに来たのです。その時に撮影所の見学をしたら、学生ではなくて、やはりここで仕事をしたいなという気持ちが強くなりました」。

そこで、技能職としてOビザを取得するために動き出したが、「なんと、途中で弁護士がいなくなってしまったんです。それで、その時はビザを取得することができず、いったん帰国。ハリウッドの業界に強い移民法弁護士を紹介してもらい、日本から改めて依頼した結果、晴れて2018年、Oビザを取得することができました」と、経緯を振り返る。


日米の現場の違いとは?

ハリウッドに活動の舞台を移して5年、アートディレクターとして携わった作品数はコマーシャルなども含めると30を超える。非常に順調な滑り出しに見えるが、それは「ラッキー」であると同時に、「人とのつながりが鍵」なのだと今井さんは語る。

「『キル・ビル』を担当したことでも有名な種田陽平さんが美術監督を務めたNetflix製作の『アースクエイクバード』の日本での撮影で、英語ができる美術スタッフが必要ということで、私が声をかけていただいたんです。さらに、追加撮影としてロサンゼルスでもセットを建てて撮影する時にも担当させてもらいました。その時にハリウッドでの業界人のつながりができました。紹介されて仕事をすると、さらにまたその時の人に他の人を紹介されて、と仕事の依頼が続きました」。

Netflix製作の『アースクエイク・バード』(2019)にアート・ディレクター / セットデザイナーとして参加。写真は撮影所内に建てたセットの様子。

それでは、実際にハリウッドで映画の美術の仕事に携わってみて、今井さんが感じる日本の映画界や仕事の内容の違いとは?

「まず、ハリウッドでは1つの作品に多くの人が関係しています。予算の違いが大きいのですが、アメリカの方が人を雇うのにお金がかかり、ユニオンがあるので雇う際のルールもしっかりしています。この仕事はこの人、別の仕事はまた別の仕事と、仕事の分担が細かく分かれているのも特徴だし、働くのも1日8から10時間と決まっています。だからこそ、任された仕事に集中できるという利点もありますね。日本の映画界ではスタッフ皆で徹夜したり、図面や絵を描くことから実際にセットを作るマネジメントまで全てやらないといけなかったりということもあります」。

日本人として油断できない

ハリウッドの現場には慣れたかと聞くと、今井さんは実に謙虚に次のように答えた。

「まだ5年なので、慣れてはきましたけど、もっとしっかり胸を張って『全て分かっています』とは言えるように頑張らないといけません」。

それでも、ハリウッドで働くようになって内面に何らかの変化は生じたのではないだろうか?

「ハリウッドで変わったことは感謝の気持ちが生まれたことです。働けることって日本の中にいると当たり前ですよね。でも、ここハリウッドでは、まず自分に仕事があること自体がとてもありがたく、自然と感謝の気持ちが湧いてきます。そして、その仕事を生み出してくれる人とのつながりにも感謝しています。いろいろな人に助けてもらっているということが実感できます」。

さらにアメリカ人への見方も変わったと語る。

「日本にいた時はアメリカ人って適当なんだと思い込んでいました(笑)。そういうイメージがあったんですが、来てみると、やはりこまめに仕事に取り組み、皆さん、真面目でびっくりしました。たとえば、美術セットの壁の質感をはじめ、ディテールにこだわっていたりと、その丁寧な仕事ぶりに正直、驚かされました。日本人として油断していられないと思いました」。

そして、今井さんの究極の夢はアカデミー賞受賞だ。

「日本の人たちは『いつでも帰っておいで』と言ってくれますが、出てきた限りはちゃんと成功するまでは日本に戻るつもりはありません。歴史に名を残すような映画に携わって、アカデミー賞を獲りたい、と思っています。でも、そのためには、1作1作、丁寧に仕事をして、人とのつながりを大切にしていくことが基本です」。

聞けば2022年にアメリカ人女性と結婚したという今井さん。「シャイな性格ですが、彼女への気持ちが抑えられなくなって」と、その真っ直ぐな人柄と内面に秘めた情熱で、ハリウッド映画界でこれからも活躍していくに違いない。

 

© 2023 Katsuya Imai

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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