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次の世代へ:30歳未満のニッケイヒーロー

ヴィニ・タグチ: 社会正義を求める土木技術者 - その2

「カケハシ」プログラム。福岡にて。

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JACLへの加入

ヴィニが初めて参加したアジア・太平洋諸島系アメリカ人が全参加者を占めるプログラムは、『カケハシ』プログラムだった。「日本人の友人と一緒にいるときより、自分が居心地良く感じていることにすぐに気付きました。突然僕は、さまざまな人種的なアイデンティティーと日本語能力を持つアメリカ人の多様なグループの中にいました。ここでも僕の背景は特殊ではありましたが、いつもよりそれほど“異質”ではなかったのです」。

「カケハシ・プログラムでの旅行の後、僕は、自分の中に新たに芽生えた日系アメリカ人としてのアイデンティティーとつながっていたいと強く望みました。でも、どうすればいいのか、すぐには分かりませんでした」。カケハシ・プログラムの同窓会イベントやJACL支部の会合に行くには車で4時間もかかるので諦めましたが、ノースカロライナ日本センターの活動への参加を続けました。しかし、「参加者は日本人移民一世と日本語や日本文化に関心を持つ非日本人が主だったので、僕が求めていた日系ディアスポラとは少し違いました」。

ミカエラと

2016年、ヴィニは大学院進学のため、ガールフレンド(現在の妻)のミカエラを伴いミネソタに引っ越し、ミカエラに背中を押され、JACLツインシティ支部(TCJACL)に加入した。「イベントへの参加に始まり、次に理事会に招かれるようになり、続いて“いやいやながら”若者向けプログラムを手伝うようになりました。その後、支部の優れた取り組みを、日系アメリカ人が戦時中に経験した強制収容という歴史を通して、今後どのようにすべての人のための文化を超えた連帯と社会正義のための活動に成長させられるか、自分の考えを持つようになりました」。

「新しいコミュニティとの連携を、僕は心から楽しんでいましたが、並行して2つの生活を送ろうとしていたので、2020年には精神的にかなり疲弊していました。僕は、土木工学の学生として、気候の不確かな未来に向けた、持続可能な都市設計を目指していました。他方ではアジア系アメリカ人の社会正義活動のまとめ役をしていました。僕は、その両方の世界が人々を助けることを目指しているのだと心の中ではわかっていましたが、その2つをどのように組み合わせられるのか、まだ突き止められずにいました」。

JACL National Convention、ソルトレイクシティ、2019年


転機

ヴィニは、TCJACLでの活動が、突如としてより差し迫った必要性を持つものになった日について次のように述べている。

「僕の誕生日だった2020年5月25日、僕はミカエラと、彼女が計画してくれたコロナ対策をした自転車旅行とピクニックを楽しんでいました。その時、街のすぐ向こう側では、『勇気をもって守り、思いやりをもって奉仕する』と書かれたパトカーの前で、街の警察署に所属する警官が3人の同僚の助けを借りて、同じ住民であるジョージ・フロイドを殺害していたのです。すべてが一変してしまった、というのは控えめな表現です。とうとう世界は、白昼公然と現代の冷血なリンチを一緒に目撃し、BIPOC(黒人・先住民・有色人種)コミュニティが以前から知っていた事実を否定できなくなりました。米国には構造的人種差別があり、それは結果的に人を死に至らしめるということを」。 

「当初はどうしたらいいか分かりませんでした。僕も他の人々と同じようにショックから怒りを経て、『ブラック・ライブズ・マター』のバナーのもとで人種的公正を求める世界規模の運動を引き起こした、“何かしなければ”という思いを持つようになりました」。

TCJACL支部の代表であるエイミー・ディカーソンは、ジョージ・フロイドの殺害を非難する声明をまとめ、全米JACLからの要請を受け、同連盟と連携し声明を発表するようヴィニに指示した。ヴィニは、ミカエラと共にミネソタ警察署長メダリア・アラドンドと同市市長ジェイコブ・フレイ宛に声明を発表し、ジョージ・フロイドのための正義を求めた。「このようなことをするのはこの時が初めてでした。完璧には遠く及びませんが、黒人のコミュニティを直接支援する反人種差別の方向に、僕らの団体が公に足並みをそろえることは、重要な一歩でした」。

ジョージ・フロイドの殺害に対する激しい怒りの声の合唱に加わるだけでなく、TCJACLは、その怒りを行動に変えるためのワークショップを立ち上げた。ヴィニは、「エイミーが、今何が起きていてどのような支援ができるのか、メンバーの理解を助けるためのワークショップを開発することを提案してくれました。別のTCJACLメンバーのキャロリン・ナエマツは、僕らが最近開催したミネアポリス公立学校のオンラインプログラムに多様性・公平性・包摂(DEI)コーディネーターとして参加してくれた、ロイ・カワイと僕をつないでくれました。ロイと僕は、ズームで数回打ち合わせをし、全4回のオンラインワークショップの大筋をまとめました」。

このワークショップは、2020年7月から9月にかけて実施された。「圧倒的に好意的な感想が寄せられ、1回のワークショップに、全米12州とカナダから36人から50人が参加しました。ワークショップシリーズは、TCJACLの熱心な中心メンバーを奮い立たせ、黒人との連帯に特化した社会正義のテーマに取り組むことを促すのに成功した他、地元や全国の多くのグループや個人とのパートナーシップの構築につながり、かけがえのない協力者を得ることができました」。

JACLツインシティ支部、2022年

ヴィニは、ミネソタでの体験について下記のようにまとめている。

「僕は、コミュニティを求めてここに来ましたが、この地に留まったのは社会正義のためです。TCJACLの、特にサリー・スドウやジェネット・カールソンといった年配のメンバーは、これまでもずっと日系アメリカ人の経験とイスラム系アメリカ人の経験の類似点をつなぐことに情熱を注いできました。TCJACLには、移民の権利などのテーマでCAIR-MN(アメリカ・イスラム関係評議会ミネソタ支部)と協力してきた長い歴史があり、アメリカ社会にまん延するイスラム嫌悪や人種差別に挑むための対話を促してきました。ツインシティには、かなりの人数のイスラム教徒を含む、とても大きな難民コミュニティがあるので、文化交流の機会には事欠きません。9.11以降まん延したイスラムへの嫌悪的な言辞は、TCJACLの多くのメンバーに、家族をアメリカの強制収容所に収監させた戦時ヒステリアの再来を思わせました。最近になっても、イスラム系アメリカ人は登録制にすべきだとか、アメリカ人に対する脅威が検証されるまでは収容所に収監されるべきだとまで提唱する政治家がいるのです。TCJACLは、こうしたつらい歴史が繰り返されるのを阻止するため、全力を注いでいます」。


土木工学と社会正義

ヴィニとミカエラは最近ノースカロライナに戻り、2人は最初の家を購入した。ヴィニは、黒人やヒスパニック系、先住民の学生と共に学んだノースカロライナ州立大学マイノリティ・エンジニア・プログラムの学部生だった時、土木技術者としての将来のキャリアの方向性を見いだたのだ。「ここで多様な考え方や経験に触れたことに突き動かされ、僕は社会正義に注目するようになりました」とヴィニは綴っています。

子どもの頃に水遊びを楽しみ、同時にサンパウロの親戚を訪ねたときに目撃した壊滅的な洪水被害が、ヴィニをこのキャリアに向かわせた。ヴィニは、「特に気候変動に直面している今、人工都市と環境が相互に作用するあり方を改善させる必要があると感じたことが、僕が土木工学と豪雨水管理の道を選んだ主な理由です」と話す。

国境なき技師団、グアテマラ、2018年。

困窮するコミュニティを支援したいと考えていたヴィニは、国境なき技師団アメリカ支部(EWB-USA)とつながり、最初はノースカロライナ州立大学で、次にミネソタ大学で途上国(シエラレオネとグアテマラ)のプロジェクトに参加し、持続可能な飲み水の水源開発に携わった。

「このプログラムで最も充実していたのは、プロジェクト過程がコミュニティを中心に組まれていたことです。共に問題を解決し、水道システムを共同で築き、将来にわたる継続的な運営に必要な知識と物資を確保するため、双方が投資を行い、長期的な関係性を築き上げました」。この体験は、最高の実践学習となった。

土木技術者の仕事と聞いて、社会正義のための闘いが思い浮かぶことはあまりないかもしれない。しかし、この2つの分野は、常に切り離すことが出いない。高速道路や公共施設の所在地から緑地まで、人工環境のあらゆる側面で、代償と利益が平等に配分されたことはほとんどないからだ。このことについてヴィニは、「歴史的に、特定人種への投資差別や、その他のやり方でのコミュニティの分離、政府政策を決定する側による資産の売却によって、恣意的に“住みやすい”地域と“住みやすくない”地域が作られてきました」と説明する。公的サービスを十分に受けていないコミュニティは、資産価値の下落と生活の質の低下を経験する。また、経済主導の投資によって、好ましくない産業を低所得地域に設置するということが起こり、結果的にこのようなコミュニティの多くが、環境ハザードにさらされてきた。

誤りを正すこと

ヴィニは、現状について次のとおり評価している。

近隣地域のクリーンアップ、ノースカロライナ、2022年

「過去の誤りを正すには、やるべきことはまだたくさんありますが、環境正義の運動が、少なくともいくつかの地域では成功し、影響を受けたコミュニティの浄化が行われ、住民の実際の生活の質も改善されました。しかし、最も複雑なのは、次に待ち構えている問題です。十分に投資されてこなかった地域に環境主導の投資が突然流入すれば、海外からの投資を引き寄せ、経済的にはるかに裕福な新しい住人が転入するようになり、突如として激しいジェントリフィケーション(訳注:都市において低所得者層の居住地域が再開発などにより活性化した結果、地価が高騰すること)に晒されます。そして古くから住んでいる住民が、次の複数の理由から、立ち退きに抗うことが困難になる事態が頻繁に起こるのです:家賃や生活費の高騰、売却のインセンティブとなる資産価値の上昇、新たに転入してきた住民との軋轢や社会的な分離など、例を挙げればきりがありません。グリーン・ジェントリフィケーションの切ない皮肉(良いことも過ぎれば災いとなる)が研究者によって指摘されるようになったのはここ数十年のことで、社会全般で認識されるようになったのは数年前からでした。この問題の最先端で活動してきたのがアフォーダブル・ハウジング(訳注:購入・賃貸可能な価格帯の住宅)の活動家でした。

グリーン・ジェントリフィケーションは、僕にとっても日常的な懸念事項になりました。コミュニティを支えるための環境に良いインフラを開発しながら、僕が支援を目指すコミュニティが、今後もその地に留まり、より健全な環境からもたらされる利益を受け取ることができるよう、できる限りのことをしなければならないからです。僕はこれまで、このテーマでたくさんの学会発表をし、関連の論説も数本書きましたが、今でもより多くの貢献ができる機会を求めています。

ヴィニの活動に関する記事を読むにはこちらをクリックしてください。TCJACLの活動については、こちらをクリックするか、インスタグラムフェイスブックをご覧ください。

 

© 2022 Esther Newman

civil engineer identity jacl Kakehashi minnesota North Carolina social justice TCJACL vinicius taguchi

このシリーズについて

このシリーズでは、世界各地で暮らしている30歳未満の若い世代の日系人から話を聞きました。ニッケイ・コミュニティの将来をより発展させるために活動する若者たち、また斬新でクリエイティブな活動を通じてニッケイの歴史や文化、アイデンティティを共有し、探求している若者たちです。

ロゴデザイン: アリソン・スキルブレッド