ディスカバー・ニッケイ

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る


2016年1月22日 - 2017年2月10日

太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。

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このシリーズのストーリー

第25回(最終回) 差別、偏見、戦いからどこへ

2017年2月10日 • 川井 龍介

「ノーノー・ボーイ」をめぐる連載も今回で最終回を迎える。この間、並行して進めていたこの本の新たな翻訳を、“パール・ハーバー”からちょうど75年目となるころ出版することができた。と、同時にアメリカでドナルド・トランプという移民に対して排他的な政策をとる大統領が登場した。 テロリストを排除するために、警戒を強めることには大方異論はないだろう。しかし、今回の政策を支える考えのなかに、特定の人種や民族、宗教に対する偏見が潜んでいるとみられても仕方がない。 …

第24回 さまざまな観点からの批評、分析

2017年1月27日 • 川井 龍介

「ノーノー・ボーイ」を最初に翻訳した中山容氏が本名、矢ヶ崎庄司の名で残した「日系アメリカ人と文学―ジョン・オカダとローソン・F・イナダ―」(平安女学院短期大学紀要、 8, 23-30, 1977)を嚆矢として、その後も断続的に今日まで、この小説は論ぜられてきた。 作品紹介的なものから学術的な論文まで、出版物を中心に気がついたものを年代順に並べてみる。(「論文」、筆者・著者、『それが収められている出版物』の順) 「帰ってきたノーノー・ボーイ 谷譲次とジョン・オカダ」、…

第23回 日本では、70年代から今日まで論じられる

2017年1月13日 • 川井 龍介

小説「ノーノー・ボーイ」は、日系アメリカ人である著者、ジョン・オカダが英語で書いたアメリカ文学の作品であるが、文学にとどまらずさまざまな領域の専門家によって論じられてきた。日本では、文学をはじめ社会学や心理学のアプローチなどからこの小説の世界が取り上げられてきた。 文学のなかでは、「日系アメリカ文学」あるいは「アジア系アメリカ文学」という範疇の研究対象として論じられたことが多いようだ。近年では、2014年に出版された「憑依する過去―アジア系アメリカ文学におけるトラウマ…

第22回 これは小説ではない?初版時の評価や反応

2016年12月23日 • 川井 龍介

「ノーノー・ボーイ」の初版が出版されたのは1957年5月。前年日本は国際連合に加盟し国際社会へ仲間入りし、国内的には高度経済成長へと向かいはじめた。アメリカでは55年にアラバマ州モンゴメリーでのバス・ボイコット事件をきっかけに公民権運動が高まってきていた。 日系社会では、52年のウォルター・マッカラン法によって日本人一世も、すでに市民権を得られるようになっていた。しかし、まだ戦争の記憶は遠くはなかった。 戦前からつづくシアトルの邦人紙、「北米報知」では、ジョン・オカダの…

第21回 “パールハーバー”の日を迎えて ~「毎日メディアカフェ」で『ノーノー・ボーイ』を語る~

2016年12月9日 • 川井 龍介

安倍首相が、今月26,27日にアメリカ・ハワイを訪れ、オバマ大統領と会談し、真珠湾(パールハーバー)攻撃による犠牲者を慰霊するというニュースが先日流れた。現職首相が真珠湾を訪れ慰霊するのは、正確には初めてではないようだが、私たちの記憶のなかで、首相が公式に、日米開戦の地を訪れ慰霊すると国民に発表したのは初めてである。 パールハーバー攻撃からちょうど75周年を迎える直前の12月5日にこの発表はあった。その翌々日の7日、奇しくも「パールハーバー攻撃」から始まる『ノーノー・…

第20回 新たな訳で日本で出版

2016年11月25日 • 川井 龍介

新たな日本語版『ノーノー・ボーイ』が、来月ようやく出版されることになった。出版社は旬報社(東京都文京区)で、労働や福祉を中心に社会問題や生活にかかわるテーマの本を出版している会社である。これまで英語版は18刷りで15万部を超えるロングセラーになっている。翻訳もかつて出されたが、ここ10年ほどは日本語では読めない状況がつづいていたので、日本の読者へ久しぶりに装いも新たに、届けることができるようになった。 本の装幀を手がけた河田純氏は、翻訳原稿を読んだあとで「これは相当な…

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このシリーズの執筆者

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)