ディスカバー・ニッケイ

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デカセギ・ストーリー


2012年6月18日 - 2024年4月18日

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。



このシリーズのストーリー

第六話(前編) 「Mayumi」は今、何処?

2012年11月21日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

早朝、大きなバスケットを両手でかかえた若い女性が街を歩いていた。 公園のベンチに座り、ひと休みする。空を見上げると、濃い灰色の雲がどんどん横に流れ、自分も一緒にどこかへ連れて行かれるような気がした。下を見ると、枯葉が敷き詰められたカーペットのようで、今の自分の道しるべに見えた。「きっと、正しい方向に導かれているのだ」と、立ち上がり、バスケットを大事そうにかかえ、公園を出て行った。 すると、さらに、空は曇って今にも雨が降りそうになってきた。強い冷たい風も吹いてきたので、女性は…

第五話(後編) クレイト 血と汗&サンバの物語

2012年10月30日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

前編を読む>> ふたたび転々と職を変えた。そのため、ブラジルの家族の存在はどんどん薄らいでいった。2歳になった娘の写真も見たことがなかった。そして、気がつくと、サンバのインストラクターになっていた。今まで一度も考えたことがなかった。まったくの偶然だった。 それは、ある日、彼が電車を待っていた時のことだった。反対のホームに紺のユニフォームを着た女子高生を見かけた。長い黒髪のお下げで淑やかな感じがかわいかった。早速話しかけようと、ジェスチャーを使い、いろいろ試みたが、彼女は…

第五話(前編) クレイト 血と汗&サンバの物語

2012年10月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

子どもの頃、クレイトはごく普通に暮らしていた。原っぱでサッカーをしたり、先生に叱られたり、近くの山に登って怪我をしたり、木登りをし手足の骨を折ったり、ゼーさんの庭のマンゴを盗み、逃げる途中、足をくじいたりしたものだ。 しかし、8歳のとき全てが変わった。母親が故郷のペルナンブーコに帰ったのだ。下の二人の娘を連れ、「わんぱく坊主」のクレイトを残して行った。以前から底なしに酒を飲む父親はさらに大酒飲みになり、とうとう病気で入院してしまった。退院後は、行方が分からなくなり、見かけた…

第四話 サウダーデ

2012年9月26日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

ある日、キミコは息子の引越しを手伝っていたとき、思いがけない物を見つけた。引き出しの底にビスケットの缶があった。子どもの頃、たまにしか食べられなかった「Biscoitos Duchen」だった。とても懐かしく思ったが、息子の家に置き忘れた覚えはなかった。それなのに、どうしてアレックスが大事そうにしまっていたのであろうか。何が入っているのだろう、と気になった。 すると、孫のマルコが「バチャン、早く行こうよ」と呼びに来た。引越しだったので、みんなで外食。そのとき、キミコはビスケ…

第三話 マサオに羽ばたく時が来た

2012年8月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

                                                          I幼い頃、父親が急死した。畑仕事をしている時に倒れ、そのまま息を引き取っ…

第二話 キミコ、24年後

2012年7月26日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

そうですね、あれは1988年4月のことでした。私は27人の女性だけの団体の一人として、日本にデカセギに行くことになっていました。初めての女性だけの団体だったのでとても話題になりました。新聞記者やテレビ局が空港に来ていて、記者たちは私たちに「どうして日本へ」とインタービューしましたが、私は緊張していて何も言えませんでした。でも、ほかの人は必死に理由を述べていたので、エライなぁ、と思いました。「だってブラジルに居たら食べるのも大変だもの」「子どもの学費でも稼げたらいいなと思って…

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このシリーズの執筆者

1947年サンパウロ生まれ。2009年まで教育の分野に携わる。以後、執筆活動に専念。エッセイ、短編小説、小説などを日系人の視点から描く。

子どものころ、母親が話してくれた日本の童話、中学生のころ読んだ「少女クラブ」、小津監督の数々の映画を見て、日本文化への憧れを育んだ。

(2023年5月 更新)