私たち人間の生活において、教育はもっとも基本的な営みの一つである。教育する/教育されるという行為は、衣食住とともに、人間生活に深く結びつい ていると言える。それゆえ、地域や集団によって、ことばや文化を異にするように、教育にもまたさまざまな様式・地域性が生み出されてきた。
教育が人間生活の基本的な営みであるかぎり、教育は人間の移動とともに旅をする。グローバル化とローカル化が同時進行する世界において、人間の活動 は一国・一地域で完結するのではなく、さまざまな国や地域をまたぐ越境的な営みとなる。教育もまたそういった越境性を持つ人間の営みであり、その主体の文 化的特性が顕著に現われる活動の一つである。ここでは、それぞれの集団・地域の教育のシステムや様式、それを支える文化的特性などを「教育文化」と呼ぼ う。
日本人の近代的な海外移民は明治維新とともにはじまる。北海道、台湾、朝鮮、満州、南洋といった旧日本帝国の版図やハワイ、北米、中南米、オセアニ アなどに移民がひろがっていくとともに、日本的な教育文化もまた、それらの国・地域に越境、拡大していった。それらの地で、日本的な教育文化は、時には受 容され、時には摩擦を起こし、変容し、多様化していった。
日本的教育文化の越境についての研究では、近年さまざまな成果が上がっているが、ハワイ、北米、旧植民地を対象としたものが多く、中南米地域を対象 としたも…