ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2022/4/11/terry-takeuchi-2/

テリー・タケウチさん/テリーズ・キッチン店主 ― その2

妻のシェリーさん息子のジャスティンさんと共に、2020年

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テリーさんの狙いは大当たりだった。抜群の地の利もあり、かつての人気レストランのファンがテリーズ・キッチンに通うようになった。そうして瞬く間に、世代を超えて地域の仲間が集う場所として定着した。

テリーさんがいつも心がけていることがある。それは、フロアに顔を出し、お客さんに挨拶すること。いつも温かく、居心地が良い雰囲気を保てるのも、このような努力の積み重ねがあってこそだ。誰もがほっとする「家庭の味」は大勢の常連客を虜にし、SNSなどで口コミが広がった今は、他州からのお客さんも少なくないそう。


妻のシェリー・チンさんとの出会い

幼少期から、料理好きな母親から多くのことを吸収してきたテリーさんだが、料理に対する情熱が本格的に芽生えたのは、妻のシェリー・チンさんとの出会いが大きいと言う。シェリーさんの祖母の親戚筋に当たるウィルマ・ウーさんは、インターナショナル・ディストリクトにあった伝説のレストラン、クアン・タックを夫婦で営んでいた知る人ぞ知る存在。彼女たちの助けもあり、何年にもわたって数え切れないほどのレシピを考案してきた。

また、シェリーさんの祖父、ウォルターさんは長年、ダウンタウンのホテル内にあったレストラン、トレーダーヴィックスの調理場で働いた。プライムリブやローストターキーなどのコツを教えてくれたのはウォルターさんだ。祖母のリンダさんからは、伝統的な中華を教わった。ある日、テリーさんがリンダさんにレシピを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「レシピなんて、ないわよ。作り方を知りたいなら、今度私が料理をする時に見ていてね」。

こうしてテリーさんは、豚足の酢漬けから粽子(中華ちまき)まで、愛情のこもった家庭料理を学ぶことができた。

周囲はテリーさんがどうやって料理上手な「シェフ」になったのかを知りたがるが、テリーさんは決まってこう答える。

「私はあくまで『家庭料理のプロ』。専門的な訓練を受けたシェフではありません。修行を積んだプロのシェフたちの足元にも及ばないんですよ」


パンデミックを乗り越えて気付いたこと

順風満帆の船出に思えたが、2020 年に入ると、新型コロナのパンデミックがレストラン業界を襲う。店内飲食が禁止され、テイクアウトのみでやっていこうと模索するが、先行きが不透明なまま、年内閉店も頭をよぎった。

そんな中、親しい友人たちが、GoFundMeを利用してオンラインで寄付を募ったらどうかと提案してきた。他人に迷惑をかけたくない気持ちと、プライドが邪魔をして、なかなか踏み切れないテリーさんだったが、考えが変わったのは「これは自分だけの問題ではない」と気付いたから。

「仲間と気軽に食事ができるテリーズ・キッチンに潰れて欲しくないという人たちはたくさんいて、みんなの思いがひしひしと伝わってきました。知り合いだけでなく、見知らぬ人からも多くの寄付が届きました」。

テリーさんは自分に寄せられる期待の大きさに胸が熱くなり、涙を流した。「この厚意は一生忘れないでしょう」

著名人の来店も多いテリーズ・キッチン

テリーズ・キッチンには、著名人の来店も多い。これまでに、バスケ界のスーパースター、フレッド・ブラウン氏やガス・ウィリアムズ氏、ニュースキャスターのローリー・マツカワ氏、トニー・ヴェントレラ氏、ブレディー・ワカヤマ氏などが足を運んできた。

世界的に有名なレストラン経営者のサムチョイ氏を囲んで、2021年

テリーさんにとってうれしいサプライズもあった。2020年には、テリーさんの父親、シゲオさんがインペリアル・レーンズで働いていた当時の同僚、故カズ・ヤマサキさんの妻、フジエさんと息子のデイビッドさんが来店した。互いに顔を見ただけではわからなかったが、テリーさんがシゲオさんの息子だとわかると、フジエさんは懐かしさのあまり、テリーさんの手を握って泣き出したそうだ。

また、小学校の同窓生たちが訪ねてきたことも。そこにはリトルリーグのチームメートもいて、55年以上ぶりの交流を楽しんだ。こうしてテリーズ・キッチンでは、旧友が旧友を呼び、懐かしい面々との再会が実現している。

テリーさんからのメッセージ

最後に、テリーさんから、レストラン経営を目指す人たちへのメッセージをもらった。

「夢を実現するために必要なもの、それは情熱です。レストラン経営は長時間労働で困難も多い。でも、心から湧き上がる情熱さえあれば、仕事を仕事と感じなくなります。そして、気持ち良く働ける仲間を集め、お客さんだけでなくスタッフや取引先にも常に愛情と優しさを持って接することが大事」

テリーさんにとって、料理とは自分を表現すること。自分の料理で人々を笑顔にしたいという願いが、テリーさんの原動力だ。

「料理が大好き。何よりも、お客さんに楽しい時間を過ごしてもらいたい」

そう微笑みながら、テリーさんは今日もテリーズ・キッチンの厨房に立つ。

* * * * *

テリー・タケウチ(Terry Takeuchi): シアトル生まれの日系3世。2014年までシアトル・シティー・ライトに勤め、2017年にベルビューのニューポートでテリーズ・キッチンを開業。妻、シェリー・チンさんとの間にひとり息子のジャスティンさんがいる。 

Terry’s Kitchen
5625 119th Ave. SE., Bellevue, WA 98006
営業時間:火水日4pm~9pm、木~土4pm~10pm
※バーは11pm(日10pm)まで 定休:月
terryskitchenbellevue.com

 

*本稿は、「北米報知」(2022年3月26日)に掲載された英文からの翻訳で、2023年6月7日に「Soy Source」に掲載されたものにわずかな変更を加えたものです。

 

© 2022 Elaine Ikoma Ko / The North American Post

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執筆者について

エレイン・イコマ・コウは、シアトルの日系コミュニティ紙「北米報知」を支援する非営利団体北米報知財団の前事務局長。米日カウンシルのメンバーであり、また在米日系人リーダー(JALD)訪日プログラムへの参加者でもあり、春と秋に日本への団体ツアーを引率している。

(2021年4月 更新)

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