爽やかで清々しい気分と言葉をもって迎える新年。マサーチューセッツを地元に活躍するアーティスト、中保佐和子さんによるエナジーあふれた散文詩を紹介します。今回は、彼女の最新作からの二編を英語と日本語でお届けします。楽しくて驚きに満ちた作品は、そこに映し出される抽象化された舞台に登場する人物やその意味を存分に堪能させてくれるとともに、新たな発見をさせてくれるでしょう。皆さん、2022年明けましておめでとうございます! 楽しんでください!
— トレイシー・カトウ=キリヤマ
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アーティストの中保佐和子さんは、言葉とパフォーマンス、翻訳を、時には別々に、時にはいろいろと組み合わせて活動しています。主に日本とアメリカで暮らしているが、フランスとや中国に短期間住んでいたこともあります。日本語からの翻訳を手掛けています。彼女の最新作は『Some Girls Walk Into The Country They Are From』 (Wave Books)で、『Pink Waves』 (Omnidawn) と『Settle Her』(Solid Objects)を近々出版する予定です。2020年にUgly Duckling Presseから出版された小冊子「Say Translation Is Art」はオランダ語へ翻訳されており、間もなく韓国語でも出版されます。
ガールスープ
訳:由尾 瞳
いろいろ決めるのが面倒になって、どこで食べたいって聞かれたら、どこでもいいって返事する、もうこうなったらなんだって食べられるって言う。すると目の前に現れたのはガールスープ、あー、でも、やっぱりそれだけは無理。同じテーブルに座った人たちは、さっさとボウルの中の女の子たちをめがけて食べはじめる。ほっておくとサイボーグやロボットに変身して、そうなったら噛むのが大変ってことを知っているから。中にはまだ生きている女の子たちもいて、スープから脱出したいのかなって思うけど、よく見ると床だって女の子たちでいっぱい、洋服にスープをべったりつけて(まさか裸だと思ってなかったよね?)、だからそれはやめておく。もうどうしようもないっていうその瞬間、何を思ったか深く息を吸って飛び込む、そう、ガールスープの中にぽちゃんと、IDなんていらないし、服のサイズとか性別とか人種とか誰に投票するのかなんて誰にも聞かれない、そしてボウルの中で女の子たちを集めて大きな円陣を組む。こうしてふたつの主要な問題が解決された。大きな塊となったわたしたちは絶対に食べられないし、そしてもう食べる人だっていなくなった。
ポテチの袋の中の10人の女の子
訳:小澤 身和子
まるで袋の中には10枚のポテチしか入っていないかのように、どのポテチを誰が食べるかで言い争う。袋の中には10枚以上のポテチが入っている。
女の子Aは、当然、より大きくて丸いのが良いと思っている。女の子Gは、可愛い子たちが先に選ぶべきだと考えている。女の子Cは、肺活量で勝負をつけようとしている。女の子Jは、あまり丸くない「不完全な」ポテチのぎざぎざが、いつか役に立つ日が来るとみているが、黙ったままでいる。女の子 I は、選ぶのを断る。
女の子Hだけが、入れ物、つまり彼女たちが入っている袋が、密閉されている確たる証拠は、ポテチのパリパリ具合にあると気づいている。女の子Hだけが、グローバル経済と食品業界のサプライチェーンについての自分のはっきりした考えと、そうしたことが今後起こりうる自分たちの未来にどう影響するか感づいている。彼女は、話そうか、ひっぱたこうか、黙ったままでいようか、決めかねている。
*上記は、Some Girls Walk Into the Country They Are from (Wave, 2020)より、中保氏の許可を持って転載。無断複写・転載の禁止。
© 2020 Sawako Nakayasu