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ブラジル日系人が子孫に伝えたい日本の8つの価値観

ブラジル日系人が子孫に伝えたい日本の8つの価値観
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「日系レガシーを長く伝えていく責任」を強く自覚

新型コロナウイルスは世界中に広がっており、各国政府はその対策に追われているが、対策は国により極めて多様化している。また国民の反応も様々である。

日本では、政府の対策が欧米に比べて緩やかあるのに、感染者や死亡例は相当低く、それはなぜか、の理由究明が話題になった。麻生副総理が“民度の差”だ、とコメントしたり、ノーベル賞の山中教授も「ファクターX」として欧米との違いの理由を探し出そうとしている。

コロナ対策優先か経済優先か、二股膏薬(ふたまたこうやく)的な政府の態度に不満を持っても、日本ではマスク着用に不平を唱える人はほとんどいない。欧米では個人の自由と尊厳を冒すとしてマスク着用に反対する人々が多いとのことであるが、その気持ちは我々には理解できない。さらに国によっては、「密」をつくらないために宗教的な集まりを禁じることの是非が問われているところもある。近く始められると期待されるワクチン接種に関しても、接種を拒否する人が相当出てくることが予想され(これは日本でも起こり得る)、果たして国が国民全体にワクチン接種を強制できるのか、ということも問題になりそうだ。

これまでは、海外旅行をしたり、外国とビジネスをしたりする際になんとなく感じていた文化の違いが、新型コロナウイルスの出現とその対策で一層認識されるようになったのではないか、と思う。

個人の成長過程では、周りとの価値観の違いを意識することにより自意識を確立するが、ある特定の集団内では、集団の外にいる周りの人たちの価値観との違いを意識することで集団としてのアイデンティティをさらに強くすることになる。

いま、これを実践しているのがブラジルに居住する日系ブラジル人である。以下ではこれを紹介したい、と思う。


「我々は日系レガシーを長く伝えていく責任がある」

2018年6月6日、ハワイのホノルルにおいて、日本の公益財団法人「海外日系人協会」主催の第59回海外日系人大会が開かれた。海外日系人大会は毎年秋に東京において開かれるのが通例であるが、第59回は、1868年に最初の日本人集団がサトウキビ畑での労働のためハワイに渡ってから150周年であったことも記念してホノルルで開催された。

大会のテーマは“日系社会のレガシー”であった。15カ国から298名が参加したが、この中にブラジルから来た「懸け橋プロジェクト」のメンバー15名がいた。

ブラジルに特別の想いを寄せるある日本の実業家が費用を負担し、当時日本語の新聞を発行していたサンパウロ新聞社の協力を得て、ブラジル全土から、日系コミュニティ活動で頑張っていた20~40歳代の日系ブラジル人15名を選び出し、ホノルルでの海外日系人大会と、日本での研修旅行に招待したのである。

このグループの団長を務めたのは、当時41歳のリカルド・ニシムラ氏。日系3世の歯科医だ。ニシムラ氏は『海外日系人大会60回の歩み』に寄稿し、次のように述べている。

「大会のパネルディスカッションでは日系人や日系社会のレガシーが取り上げられたが、それを聞いていて、異郷に渡った日本人移民の奮闘、いろいろな障害を乗り越えつつ社会のいろいろな側面で貢献し、その国の発展のために尽くした祖先に想いを致した。そして、ブラジルで今、我々は、祖父母が奮闘し獲得してくれた果実を摘んでいるのだ、祖父母は我々に日系人の誇りを植え付けてくれたのだ、そして我々はこの日系レガシーを長く伝えていく責任があるのだ、との気持ちで一杯となったのである」

「日系ハワイ人の価値観が碑に刻まれていたが、それを見ていて、ブラジルの日系人の価値観を調査すれば、日系人の誇りと、将来にわたって日本文化を保持しようとする気持ちがさらに活性化するのではないかと考えさせられた。この時の気持ちをブラジルへ持ち帰り、ブラジル日本文化福祉協会の中に設置された『日本ブラジル架け橋』委員会の実行部隊として“Projeto Geracao”をスタートさせたのである」

「このプロジェクトの目的は、日系人ひとりひとりの人格の一部になっているブラジル日系人の主要な価値観をナレッジ・マネジメントの手法を利用して再確認していくことにある。ブラジル日系人の価値観は、日本文化とブラジル文化を合わせたものであるはずで、この両文化の融合が、我々個人あるいは組織の行動や周りとのかかわり方を決めることになる。こうして、祖先の祖国との絆を維持しながらブラジル社会に貢献することを学んでいくことになればよい、と考えている」

(『海外日系人大会60回の歩み』より抜粋、太字は筆者)

ニシムラ氏が言う「碑」というのは、ハワイ日本文化センターにある石柱である。

ハワイの日系人の価値観が刻まれた石碑。写真撮影:ブライアン・スダ、提供:ハワイ日本文化センター

ハワイ日本文化センターは、日本からハワイへの官約移民100周年を記念して、ホノルル日本人商工会議所が中心となってホノルル市モイリイリ地区に1989年に設立された。常設展の入り口には、ずらりと石の柱が並んでおり、その一つひとつに孝行、恩、我慢、頑張り、仕方がない、感謝、忠義、責任、恥、誇り、名誉、義理、犠牲・・・など日系1世の方々が大切にした言葉が日本語で刻まれている。

彼らは大会の後、ハワイ日本文化センターを訪問し、そこで日系1世の方々が大切にした価値観を刻んである石柱を目にしたことに刺激を受け、日系ブラジル人の価値観を調査して日系人の誇りを確認したいと考えたのである。

ブラジルに入国した日本人を1世、その子を2世、孫を3世、と呼ぶと、現在すでに6世が誕生していると聞く。非日系人との通婚も多く(4世では60%以上との推定あり)、日系人の定義は難しいが、現在、約190万人存在する(ブラジル総人口の約1%)といわれている。

日本からのブラジルへの移民は、当初は集団で農業に従事する者が多く、日系人をメンバーとするコミュニティ活動(子弟の日本語教育、互助、盆踊りなど)が盛んであったが、徐々に都市への移住が増え、現在は約90%の日系人がサンパウロなど都市に居住している。日系人の大学進学率は極めて高く(有名大学であるサンパウロ大学の学生の十数%は日系)、医者・弁護士・高級官職・大企業の管理職などに就き、ブラジル社会で確固たる地位を築いている。同時に、若者たちの進学、都市への流出、出稼ぎによる離脱などのため、日系人を主体とするコミュニティ活動は衰退してきた。組織運営が非日系人であるところも増えている。

このような状況を見て、ニシムラ氏のような働き盛りの日系人が、自分たちが築いた社会的地位に誇りを持つとともに、多様な出自を持つブラジル人の中で記憶に残っている父母、祖父母の生き方を想起し、意義づけるとともに日系人の子孫に伝えたいと考えるのは当然であろう。


選定された8
つの価値観

帰国後、直ちにニシムラ氏と数名のメンバーが日系ブラジル人の価値観の調査に着手した。調査活動の名称を“Projeto Geracao”(世代間プロジェクト)と名付け、学術的指導者として、ブラジルのナレッジマネジメント協会会長のアンドレ・サイトウ氏を迎えた。サイトウ氏はカンピーナス大学経営学部を卒業し、日本の北陸先端科学技術大学院大学で博士号を取得している。

プロジェクトでは、ナレッジマネジメントの手法を利用したワークショップを開発し、日系人の多い8つの地域で300名以上の日系ブラジル人から、彼らの価値観を聴取した。その結果、日系ブラジル人の8個の価値観を選定した。

8個の価値観(ポルトガル語)は、次のとおりである。重要度の順位はない、ということなので番号は振らない。これらの語が選ばれた経緯を踏まえて、筆者が翻訳した。

  • Responsibilidade直接的な訳では“責任”であるが、彼らの意味するところは“義理を重んじる”ことのようだ

  • Aprendizado子弟の“教育”の熱心であること、また本人も向学心があること

  • Integridade“誠実”あるいは“正直”

  • ColetividadeColaboracao)】集団主義的な“協働”を意味し、“みんなで”にあたる

  • Perseveranca“忍耐”あるいは“根性”

  • Gentileza“思いやり”“親切”

  • Gratidao“恩”ないし“感謝”など、他人との関係性において

  • Respeito祖先や周りの人たちへの“敬意”

「勤勉」「親孝行」「もったいないと思う気持ち」「仕方がない」など、ほかにも多数候補があったが、日系人がブラジル社会で確固たる地盤を築くのに貢献した価値観という点から上掲の8つに対する支持が多かったらしい。

「Coletividade」(集団主義的な協働)については、日本ではグループ内での“和”を重視するあまり、少数意見を押さえつけたり、場合によっては忖度することや空気を読むことが奨励されたりするなど、ネガティブな側面もある。そのことを先日、プロジェクトのリーダーに伝えたところ、「ブラジル社会では、多様性を尊重すること、個人を大切にすることが最大の徳目であるから、その範囲内で協働することにより『1+1』を2以上にしたいのだ」との返事が返ってきた。

あらためてこの8つは、日本人ではなく日系ブラジル人の価値観である、と感じ入ったわけだが、ブラジルの日系人が「日本人の価値観を自分たちの誇りとしたい」と考えていることをぜひ日本の皆さんにも知っていただきたく、本稿をしたためた次第である。

 

© 2021 Masayoshi Morimoto

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