ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2021/3/8/charanporan/

シニア世代の新一世によるチャランポランの会

「何かやらなくちゃいけない」

ある時、元広告代理店の社長だった宮田慎也さんという知り合いがSNSにシニア向けの日本語媒体を投稿した。それは、彼も所属する「チャランポランの会」という、主にロサンゼルス在住のシニアの新一世たちが中心メンバーとなり立ち上げた団体の会報誌『かわら版』だった。オンライン版を覗くと、エッセイあり、川柳あり、レストランのコラムありと非常に充実した内容。すぐにこの会に興味が湧いた。そこで宮田さんにお願いして、同会の発起人である鳥居欣一さん、そして鶴亀彰さんにZoom取材の段取りをつけていただいた。

鳥居さんは会を起こした経緯について次のように説明した。「5、6年前、雲田さん(ミスター・豆腐として知られた雲田康夫さん)が僕のところに来て、『何かやらなくちゃいけない』と言ったのがきっかけです。実際のところ、僕はアメリカから日本に引き揚げるつもりでした。しょっちゅう日本には帰ってはいたんだけれど、大学時代の友達に会うと、僕が抱いていた日本のイメージとは何か違うと感じました。日本に住むシニアの人たちは異民族と言うのかな、能力も時間もあるのに、社会のために貢献したいという人が意外に少ない。僕自身は長年アメリカで健康食品の会社を経営していて、健康に関心があるので、日本で『長寿健康の会』を運営しようと、18人くらいで集まって何度かディスカッションもしたのですが、しっくりいかなかったんです。日本の人は健康を害したら医者にかかればいいという考え。しかし、僕は自分の健康は自分で守るべきだと考えます」。

会報誌発行、講演会、ビーチクリーニング

このように当初は日本でシニアのための健康の会を立ち上げる準備を進めていた鳥居さんが、日本のシニアとの考え方のズレを感じた末に、雲田さんの「何かやらなくちゃ」との呼びかけに賛同し、日本ではなく、ここアメリカのロサンゼルスでシニアの会を起こしたというわけだ。「チャンランポランの会」という名前は、「雲田さんが生真面目な人だっただけに、逆にチャランポランでいいのではないか」と逆説的な意味で命名したものだそうだ。

残念なことに雲田さんが2020年に亡くなったため、現在は鳥居さん、鶴亀さん、宮田さん、土田三郎さん、石口玲さんらを中心に定期的にミーティングを持ち、活動を継続している。活動内容については鶴亀さんが紹介してくれた。「会員同士の親睦会、以前アメリカで活躍されていたジャーナリストの北岡さんを日本から講師に招いた講演会、日本人学校の西大和学園の子どもたちとの交流会、さらに有志で海を綺麗にするためのビーチのお掃除などもやってきました。そして、年に4回、機関誌を発行しています。コロナのパンデミックになってからは、会員の方たちに情報を提供するために臨時号も出しました」。

機関誌『かわら版』は毎号1000部印刷されているほか、前述のように同会のウェブサイトからオンラインで読むこともできる。「当初、10号まで発行できれば目標達成」だと思っていたそうだが、現在7号まで発行。目標は何の問題もなく達成できそうだ。

どうやって会員や読者を増やしたのかと聞くと、リトル東京タワー、日系パイオニアセンター、サクラガーデン、南加庭園業連盟といったシニアが多い場所への配布から始め、やがて口コミで郵送してほしいとの問い合わせを受けるようになったという回答だった。会費も購読費も無料だが、送られた寄付金は印刷費と郵送費に当てている。運営メンバーは全員がボランティアだ。事務局や会報誌の編集、ウェブサイトの運営にはシニア世代ではない北村亜矢さんと佐伯和代さんがボランティアとして活躍している。

 
「人の役に立つ喜び」

 鳥居さんが「自分の健康は自分で守るべきだ」と言うように、仕事でも趣味でもボランティアでも、シニアになっても打ち込めることがあれば、健康な心身を維持する大きな要因になるに違いない。また、鶴亀さんが言った次の言葉が私の胸に深く響いた。「人々の役に立つことこそ大きな喜びです」。その言葉で私の記憶が一気によみがえった。25年ほど前、ある取材で知り合った鶴亀さんは当時、トーランスのYMCAで長年、資金集めのボランティアに従事していると話してくれた。そして、「自分のビジネスに携わる一方で、ボランティアする時間も作り出す。人の役に立つことが喜びであるだけでなく、自分を受け入れてくれて、生かしてくれている社会に還元するという意味で、ボランティアの意義は大きい」というような話をしてくれた。人の役に立つという意味では、情報やイベントの場を提供するチャランポランの会は、シニアたちにこの上もなく役に立っているはずだ。

さらに今後はシニアの会員対象にスマートフォンの勉強会も開催していくとのことだ。「スマホさえ扱えるようになれば、色々な動画を見ることができ、zoomのミーティングにも参加できます。私たちの目的はシニアが明るく元気に前向きに暮らすことを支援することです。コロナの影響もあり、スマホが扱えないシニアにとっての世間は狭く限られています。そこで勇気を出していただいて、学んでやり始めれば実際は大したことではないということを実感していただきたいです」と鶴亀さんは話している。

鳥居さんは在米歴58年目、鶴亀さんは55年目を迎える。彼らは私にとってもアメリカ生活の大先輩だ。今後もアメリカで暮らすシニアのために末長く活躍されることを願っている。

 

チャランポランの会ウェブサイト:http://charanporanusa.com

 

© 2021 Keiko Fukuda

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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